株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

シリーズ<4> 種類株式の活用②

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1.はじめに

 シリーズ4では、シリーズ3に続いて、種類株式の活用方法について解説します。各種類株式がどのような性質を有しているのかをしっかり理解することで、投資家の要求にマッチした株式設計を図ることができ、円滑な資金調達を可能にします。全部で9個の種類株式が明文化されており、これらの組み合わせによって設計することも可能です。また、取得条項付株式などでは、その条件の付け方で、様々な株式設計が可能になると考えられます。

以下では、9種類の種類株式について、順次解説していきます。

2.配当優先株式・配当劣後株式(会社法108条1項1号)

 いわゆる配当優先株や配当劣後株と呼ばれるもので、通常の株式とは異なる配当金額が支払われる株式のことをいいます。

配当優先株式は、その他の種類株式と組み合わせて使われることが一般的です。例えば、無議決権株式(4にて詳述)の種類株主は、議決権を行使しない代わりに、普通株式に比べて高い配当金を要求するのが一般的で、このため、無議決権株式と配当優先株式が組み合わされて発行されます。

 また、事業再生などで多額の資金調達を必要にする場合などは、優先株式の発行を利用します。この場合は、優先株式については市場がないため(また、基本的に利害関係の結果、敵対関係にある会社を排除するため譲渡制限付としているため)、機関投資家の資金回収手段として、普通株式への転換権を付した取得請求権株式としたり、株式の希薄化を防ぐ目的で会社側の再生が達成された場合に取得条項を付した取得条項付株式にしたりします。

 なお、2007年秋に、日本で初めて伊藤園が無議決権優先株式を上場させましたが、普通株式の配当金の25%増しの配当支払いに設定されています。これは、個人投資家も含めて、投資家の投資選択の幅が広がることになります。

3.残余財産分配優先株式・劣後株式(会社法108条1項2号)

 残余財産の分配に対する内容が異なる株式を発行することができます。残余財産の場合には、会社が清算される場合の話なので、一般的にはあまり設計されず、事業再生などで使われます。

 企業再生の場合、多額のリストラ費用などの追加的な資金が必要となります。このとき、投資家は会社がうまく再建されれば十分なリターンを得ることができますが、そのまま再建できずに倒産してしまうと、残余財産に対して普通株主と平等な取り扱いとなってしまいますので、資金回収が十分に達成されないことが考えられます。このため、投資家は必要以上の優先配当や出資には応じない可能性があり、企業側は十分な資金を調達することができなくなってしまいます。

 このため、企業再生が失敗した場合でも、ある程度の資金回収が可能になるようリスクヘッジの観点から、残余財産に対して普通株主よりも優先的な取扱いが可能になるよう、残余財産の分配に対する種類株式が設計を認めています。

4.議決権制限株式(会社法108条1項3号)

 議決権制限株式とは、法律によって特に認められている場合を除き議決権の行使が一切できない無議決権株式と、法定の事項及び定款所定の一定の事項についてのみ議決権が与えられている議決権一部制限株式の2種類があります。会社の経営にはまったく興味がなく、配当収入などの資金的利潤のみ興味がある投資家にとって、株式に付帯する「議決権」は必要ありません。このため、株主に認められている経営権を放棄する見返りに、高配当を要求したりしますので、配当優先株式と組み合わせて設計されることが多くあります。

 経営者は、経営に口を出されることがないので、負債と同じですが、負債のような返済義務がないので、負債と株式のメリットを組み合わせた感じになります。ただ、その代わり、高配当や一定の条件(コベナンツ条項)といった要求が考えられますので、設計する際には十分に内容を吟味する必要があります。

 なお、公開会社である場合には、議決権制限株式の数が発行済株式の総数の2分の1を超えて議決権制限付株式を発行することはできません(会社法115条)。

5.譲渡制限種類株式(会社法108条1項4号)

 108条1項4号の譲渡制限は、一部の株式についてのみ譲渡制限をかけることになりますので、種類株式に該当します。一般的に種類株式は、その特定の投資家(種類株主)と経営者(もしくは他の株主)がお互いに納得するように株式設計をしているため、他の投資家に譲渡されないように、譲渡制限をかけられています。

 なお、繰り返しになりますが、107条1項の譲渡制限とは内容が異なりますので、注意が必要になります。

6.取得請求権付種類株式(会社法108条1項5号)

 取得請求権付種類株式は、従来の義務償還株式(改正前商法222条1項)や転換予約権付株式(改正前商法222条の2)を整理したものです。その対価には金銭や社債、普通株式などさまざまなものが考えられます。先ほど解説した優先株に付されている転換権の対価を株式として設計することがよく見受けられます。対価を金銭にすると、キャッシュを会社が用意しなければならないため、普通株式が用いられるわけです。ただ、普通株式の発行は、その発行価格によっては、株式の希薄化が起こるので、既存の株主が反対することは考えられ、調整が必要です。

 この種類株式は、投資家が最終的に資金回収を可能とするための手段です。企業再生の場合などには、資金の出口戦略として取得請求権を行使して普通株式に転換し、その普通株式を市場で売却することで資金の回収が図れ、また多額の利益を獲得することができるのです。

 会社側としては、企業再生時に多額の資金を一時的に調達できるので魅力はありますが、その取得請求権の設定条項次第では、大幅な株価の下落や経営権の奪取も想定されますので、既存の利害関係者とも十分に協議をして、制度設計には十分な注意が必要になります。

 なお、取得請求権付種類株式の対価としては他の種類株式も考えられるので、107条2項2号に定める事項の他に、対価を種類株式とする場合には、その種類及び数又はその算定方法を定款に定める必要があります(会社法108条2項5号ロ)。

7.取得条項付株式(会社法108条1項6号)

 取得条項付種類株式は、従来の強制償還株式(改正前商法213条1項、222条1項)や強制転換条項付株式(改正前商法222条の8~222条の10)などを整理したものです。この取得条項付種類株式は、会社側から株主側に対して当該種類株式の取得を申し出ることができるので、この種類株主は自らの意図に関わらずその地位を失います。この取得の対価が金銭であれば株主としての地位が完全に失われ(会社法108条2項6号イ)、その他の株式が対価であれば、その種類株主としての地位に転換されることになります(会社法108条2項6号ロ、会社法170条2項4号)。

 例えば、公開準備会社が非公開時には、配当優先株式等で資金調達を行い、株式上場時に強制的に普通株式に転換するよう設計すること等が考えられます。公開準備中は、譲渡制限株式のためベンチャー・キャピタリストからその見返りとして高配当を求められます。このため、会社側は資金調達を円滑に行うため高配当の配当優先株式に応じ、一方で、公開できれば問題となっていた流動性も排除されるので、株式公開を条件として普通株式へ転換できるよう、配当優先株式を取得条項付種類株式と組み合わせて設計しておくことができるのです。

8.全部取得条項付種類株式(会社法108条1項7号)

 全部取得条項付種類株式は、株主総会の特別決議によって、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができる株式です。これは、107条2項3号の全株式に対して取得条項を付すのと似ていますが、この種類株式は、当該種類株式のみ全部取得できる点で異なります。

 

≪相違表≫

内容
107条1項3号の場合
108条1項7号の場合
対象
全株式 一部の株式(種類株式)
設定条件
総株主の同意(111条) 株主総会の特別決議
反対株主の
取扱い
反対株主がいる場合には可決されない 反対株主の買取請求権が認められる(116条、117条)

 

 上記の表からも理解できるように、107条1項3号の取得条項付株式の設定には、総株主の同意が必要であるため(会社法111条1項)、公開会社などでは現実的に不可能だと考えられます。一方で、全部取得条項付種類株式は特別決議で足りるため、現実的な利用が可能となります。ただし、全部所得条項付種類株式の設定に反対した株主は、その株式の買取請求権が認められているため、反対株主の買取請求等の手続を実施しなければならないといったデメリットが存在します(会社法116条、117条)。

 この全部取得条項付種類株式は、会社再建の手段として100%減資を実施する場合やMBOを実施する場合が想定され、資金調達の手段というよりも、株主の交代を意図するものとして制度設計されたものです。例えば、MBOの場合、次のような手順で実施されます。

 

 

〔説明〕

①経営陣やファンドなどでSPCを設立。

②当該SPCによってTOBを実施、株主総会を支配。

③株主総会の特別決議によって、次の事項を決定する

(1)定款変更で種類株式を発行。

(2)普通株式に全部取得条項を付す旨を決議。

(3)全部取得条項の対価には(1)の種類株式、交付される数は、SPC以外の株主は1株に満たないように設計する。

④・⑤普通株式を取得し、種類株式を交付する。

⑥・⑦1株に満たない種類株式を会社法234条に従って、金銭の交付により取得する。これによって、株主はSPCのみとなる。

9.拒否権条項付株式(会社法108条1項8号)

 拒否権条項付株式とは、株主総会または取締役会における決議事項のうち、その決議のほか、その拒否権条項付株式を保有する種類株主による種類株主総会の決議を必要とするものです。簡単に言ってしまえば、その拒否権条項付株式の種類株主総会決議を必要とする決議事項であれば、たとえ株主総会や取締役会で可決された事項でも、種類株主総会で否決することで、その決議事項は無効とすることができます。このため、拒否権条項付株式を保有する種類株主は、その会社において非常に大きな権限を持つことになり、「黄金株」と呼ばれています。

 この拒否権条項付株式は、買収防衛策の手法として用いられることがあります。例えば、買収者がTOBなどにより株主総会を支配し、合併の議案を可決しても、この拒否権条項付株式の種類株主がこの合併決議を否決すれば、この会社は合併することができなくなります。このため、経営者にとって友好的な株主にあらかじめ拒否権条項付株式を1株だけ発行しておけば、敵対的買収などから会社を防衛することができるのです。

 この黄金株の問題が拍車をかけたのが、譲渡制限種類株式との組み合わせが可能になったことです。旧来では、拒否権条項付株式が経営者にとって好ましくない者に渡ってしまう可能性を排除できなかったため、発行に積極的な会社はあまり存在せず、その議論は活発ではありませんでした。しかし、会社法では、拒否権条項付株式に対して譲渡制限をかけることができるため、常に友好的な株主に拒否権条項付株式を保有させることが可能となり、経営者の権利濫用の恐れから議論が活発化されることになりました。

 公開会社などでは、こうした黄金株に大きな問題がありますが、非公開会社などでは、企業オーナーが後継者の経営を監視する場合などに利用できます。例えば、企業オーナーが保有する普通株式を後継者に生前贈与した場合、その財産権と経営権は後継者に引き継がれますが、まだ後継者が経営者として未熟である場合は、会社の根幹を揺るがすような重要事項についてのみ拒否権を発動できるようにしておくことができます。

 なお、この拒否権が発動できる条項をあまりに多くしてしまうと、会社として機能不全に陥ってしまうので、その設定には慎重に考える必要があります。

10.取締役・監査役選任権付株式(会社法108条1項9号)

 取締役・監査役選任権付株式は、その種類株主総会でのみ取締役・監査役の全部または一部を決議できる旨が定められている株式のことです。これは、公開会社や委員会設置会社では発行することができません(会社法108条1項但書)。

 この種類株式は、非公開会社の経営者が自らの立場を保持するために発行することが考えられます。また、資金提供者が取締役を何人か確保したいと考える場合に、この種類株式の発行を求める可能性があります。この種類株式があれば、株主総会だけでなく取締役会にも参画することが可能となり、モニタリングや牽制を行うことが可能になります。それ以外にも、合弁会社などを設立する場合に、その出資比率に見合った比率の役員決定権を与えるため、この種類株式が発行されることも考えられます。

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