株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

オプション評価のパラメータ

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(平成23年7月1日現在)

4-1.オプションのパラメータ

 オプション評価をする際に必要となるのが、パラメータと呼ばれる変数です。オプションの評価では、次のパラメータを用いて計算します。

 

【オプション・パラメータ】

  • 現在株価
  • 行使価格(strike price)
  • 満期までの時間(maturity)
  • 株価のボラティリティ(voratility)
  • リスク・フリー・レート(risk free rate)(無リスク金利)
  • 予想配当利回り(estimated dividend yield)

 オプション評価では、上記のパラメータの数値を求めてから、これらの評価モデルに当てはめて(代入して)計算することになります。

 

 これらのパラメータがオプション価格にどのように影響するのか、数学的な説明ではなく、「直感的な」方法で説明していこうと思います(数学的な説明としては、各種モデルにおける数理モデルで、各パラメータを偏微分することでその影響度を考えることができます)。なお、パラメータとオプション評価額との関係は、コール・オプションの場合で考えます(プットはその逆)。

 

(A) 現在株価


 まず、オプションの価値は「本源的価値」と「時間価値」に分解して考えることができます。

 本源的価値は、行使時点での株価と権利行使価格の差であり、まさにオプションそのものが持つ損益部分になります。例えば、権利行使時点の株価が100円で、権利行使価格が80円であれば、差額の20円が本源的価値と考えられます。

 本源的価値は、上記のとおり、「権利行使時点の株価」が用いられて計算されますが、「権利行使時点の株価」というのは予測でしかなく、この予測の出発点となるのが「現在株価」であるため、現在株価がオプション評価のパラメータとして利用されることになります。

 (コール・オプションの場合、)「権利行使時点の株価」が高ければ高いだけ、本源的価値は大きくなることになるため、現在株価が高ければ高いだけ、オプション評価が高まることなります。

 

(B) 行使価格


 上記のとおり、行使価格は本源的価値を計算するためのパラメータです。権利行使価格が低ければ、それだけ本源的価値が高まるため、権利行使価格が低いとオプション評価は高くなるという関係になります。

 

(C) 満期までの時間


 オプションのもう1つの価値である「時間価値」は、現在から権利行使時点までの間にいろいろな株価を形成しうることができるという価値になります。現在から権利行使時点までの期間が短ければ、例えば、極端な例として明日が権利行使日であったとしたら、現在の株価から上昇する幅は限定され、本源的価値が高まっていくチャンスはほとんどありません。逆に、権利行使時点までの期間が長ければ、その分だけ株価が高まっていく可能性があることになり、オプション評価は高まります。

 

(D) 株価のボラティリティ


 ボラティリティとは、「変動幅」のことで、いわゆる標準偏差となります。すなわち、「ボラティリティが高い」ということは、株価が上下する可能性が高いということになり、「ボラティリティが低い」というのは、株価が上下する可能性が低いということになります。この結果、ボラティリティの高い銘柄の場合、将来の権利行使時点で株価が高くなっている可能性が高まるということであるため、本源的価値が高まる可能性があるのです。このため、ボラティリティはオプションの評価にプラスで働くことになります。

 

(E) リスク・フリー・レート


 リスク・フリー・レートの変化の影響は、一概に説明するのは難しいものです。リスク・フリー・レートが上昇した場合、ディスカウント・ファクターは高まるため、本源的価値の現在価値は下がり、オプション評価にはマイナスに働きます(オプション評価は、将来の権利行使時点のオプション価値を現在価値へ割り引いているので)。しかし、リスク・フリー・レートの上昇は、株価の上昇率を高めることになるため、将来株価の増加をもたらし、本源的価値を高めることになります。

 なお、マーケットの基本的な考えとして、リスク・フリー・レートの上昇は、債券利回りを上昇させるため債券価格は上昇し、一方で、マネーが債券市場に流れる結果から、株価は下落すると考えられています。オプション評価モデルでは、リスク・フリー・レートと株価そのものの関係がモデル化されていないため、この点は考慮されていませんが、現在株価そのものに実測値として影響を与えているので、リスク・フリー・レートはオプション評価には様々な影響を与えることになるのは間違いありません。

 

(F) 予想配当利回り


 予想配当利回り(ないし、予想配当額)は、株価に影響を与えることになります。株価は配当権利落ちによって大きな影響を受けるため、配当はオプション評価に影響を与えるのです。なお、予想配当利回りが高い方が権利落ちのときに大きく株価を下落させるので、オプション評価を押し下げることになります。

3-2.オプションにおけるバリュエーションの基本

 上項でみたとおり、オプションのペイオフは将来の株価に依存するため、将来株価を算定する必要があります。すなわち、将来の株価がいくらになるかを予想する必要があるのです。このため、「確率論」という数学的技術が必要となり、他の金融商品とは少し毛色の違ったものが登場することになります。そして、この確率論こそがバリュエーションの理解を難しくさせるものであり、現代ファイナンスへの抵抗感を高める要因となっています。また、後述するブラック=ショールズモデルにおいて、偏微分方程式が登場することから更に数学的な難易度を高めていくことになります。本シリーズでは、ある程度の数学的な意味を解説するものの、その精緻さ(証明)を与えることなく、オプションのバリュエーション方法について解説していきたいと思います。IFRSをはじめ、公正価値会計へとすすんでいくことが予想される中で、オプション的な条件が付されている金融商品(いわゆる組込デリバティブ)を無意識のうちに保有していることもあり、バリュエーション方法を理解しておくことはファイナンス担当者としては必須の「技術」だと考えられます。

 

 オプションにおけるバリュエーション方法は、大きく分けて3つの方法が利用されています。

 

(A) ブラック=ショールズモデル


 ブラック=ショールズモデル(BSモデル)は、フィッシャー・ブラック(Fischer Black)とマイロン・ショールズ(Myron Scholes)が共同で発表し、ロバート・マートン(Robert C. Merton)がその証明を与えたオプション価格の有名な評価モデルです。 BSモデルは、ヨーロピアン・タイプのオプション価格を算定するモデルです。関数化・一般化されているため、計算が非常に楽で、かつ、誰が計算しても同じ結果になるというメリットがあります。ただし、ヨーロピアン・タイプの評価モデルであるため、アメリカン・タイプの評価には適さないし、複雑な条件が付されたオプションを評価することはできません。

 

(B) 格子モデル


 格子モデルは数学的な複雑性は特になく、その内容を理解することは非常に簡単です。また、BSモデルと異なりアメリカン・タイプの計算もできるし、ある程度の条件であれば条件付きのオプションを評価することができます。ただし、実務的には計算プログラムを組成する能力が別途必要となり、自社内で計算することは難しいように思われます。また、BSモデルと比べれば計算時間もある程度かかります。最近はパソコンの処理能力が高くなっているためそれほど負担感はありませんが、場合によっては計算結果が出るまで1時間ぐらいはかかるときもあります。このため、即時に計算結果を出してシミュレーションをすることができないことも考えられます。格子モデルは、二項モデル、三項モデル、多項モデルがありますが、実務的には収束性の問題などから二項モデルを採用することが多いと思われます。

 

(C) モンテカルロ・シミュレーション 


 モンテカルロ・シミュレーションは将来株価についてシミュレーションを実施し、そのシミュレーション結果によってオプション価格を算定する方法です。モンテカルロ・シミュレーションは様々な条件が付されたオプションのバリュエーションに対応することができるという長所があります。しかし、実務的には、二項モデルと同様、計算プログラムを組成する能力が必要になります。また、計算過程が複雑であることから二項モデル以上に計算時間がかかり、基本的に数時間を要します。計算時間はシミュレーション回数に依存しますが、シミュレーション回数が少ないと適正な価格にたどりつかなくなる可能性があるため、通常は十万回程度のシミュレーションを実施します。このため、よっぽど処理能力の高いコンピュータを利用しない限り、数時間はかかると考えられます。

 さらに、計算結果はシミュレーション結果に依存するため、毎回の計算結果が異なるという最大のデメリットがあります。これは計算結果の検証が難しいということも意味しています。  

 

 

 本シリーズでは、オプションのバリュエーション方法について、パラメータをはじめ順次解説していきます。繰り返しになりますが、数学的精緻さについてはあまり言及せず、各種モデルの基本的概念について解説していきます。なお、数学の基礎は、補論で解説している「統計学」や「微積分」を参考にしてください。

 

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