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2.ストック・オプションのメリット・デメリット
発行者側すなわち会社側(=株主側)のメリット/デメリットを列挙すると以下のとおりです。
<メリット ~発行会社側~>
■経営者・従業員の経営参画意識および株主価値・企業価値向上への意識の明確化
例えば経営者が自己の私欲のため社用車として超豪華高級車を購入することは収益に寄与しないコスト増大→利益低下→株価下落をもたらしますが、ストック・オプションを付与された経営者は、このような株主に損害を与える行動は自身の期待報酬(キャピタルゲイン)の減少を招きますからこのような行動は抑制され、株主価値・企業価値を向上させるにはどうしたらよいのかについてさらに意識して経営行動を起こすでしょう。 ストック・オプションを付与されることにより、経営者・従業員の株主化が図られることによるメリットといえます。
■優秀な人材の確保、人材流出の防止
ストック・オプションを導入する企業には新興企業を中心とする上場準備会社が多のですが、新興企業の場合、キーパーソンといったその会社のビジネスの成功のカギを握る人が必ずといっていいほどいます。このキーパーソンが、会社を辞められてしまっては株式公開やその企業の存続自体に影響を及ぼしますから、なんとか高額な報酬を与え、人材流出を食い止めたいとことです。しかし、通常、新興企業は、まだ成長段階ですからそんな余剰資金はありません。そのため、新興企業などの上場準備会社は、キーパーソンにストック・オプションを付与し、株式公開などが成功したら莫大な成功報酬がもらえる仕組みを作ることによって、お金をかけずに優秀な人材を確保するための手段として用いられます。
■株主重視経営の投資家へのアピール
ストック・オプションを導入することによって、付与対象者の株主化が図れるため、会社として株主の立場で経営する仕組み作りをしていることをアピールする効果があります。
■経営陣への成果主義報酬
ストック・オプションの導入により、経営者の報酬が、会社の成績が反映される株価に連動することになりますので、経営者の報酬は、成功した分だけ多額の報酬がもらえる成功報酬型になります。
<デメリット ~発行会社側~>
■市況などの影響で株価が上昇しない経済環境の場合、導入効果は得られない可能性がある 企業の株価は、どうしても市況の影響を受けます。例えば、世界経済全体が低迷している今のような市況の場合、いくら経営努力を行っても株価にきちんと反映されるとは限らないため、経営者・従業員へのインセンティブ効果がうまく働かない可能性があります。
■付与対象基準が不明確な場合、逆に不公平感によりモラル低下の可能性 通常、ストック・オプションの付与は経営者やキーパーソンなど一部の者に限定して行いますから、付与対象者の選定基準や付与数の配分基準が不透明の場合、付与対象者が不公平感を持ち、逆にモラル低下を引き起こす可能性があります。
■多額の報酬を手にした者が人材流出する可能性 さきほどの人材流出防止効果と表裏一体の効果ですが、優秀な人材流出防止のために付与したストック・オプションにより、付与対象者が株式公開などに成功し一攫千金を手にし、それに満足して流出してしまう可能性もあります。
■既存株主持ち分の希薄化の可能性 ストック・オプションは、権利行使時の市場株価と権利行使価格との差額を付与対象者に報酬として与える仕組みですが、この報酬は結局のところ株主が自己の株主価値を犠牲にして与えていることに他なりません。 希薄化効果については下記補足を参照して下さい。 一方、付与対象者側(経営者・従業員など)のメリット/デメリットを列挙すると以下のとおりです。
<メリット ~付与対象者側~>
■会社への貢献が株価に反映し、株価が自己の報酬を決定するため、自己の業績が正当に評価される 会社の目的が株主価値の最大化だとすると、株価は経営者の成績そのもののため、それに連動する報酬は正当に評価されたものであると思おう経営者は多いでしょう。
■直接株式を取得する場合と比較して、株価の値下がりリスクが小さい 経営者・従業員が、経営努力を行えば株価が上がると確信をもっているとしたらストック・オプションの付与を待つより、究極的には自身の資金で自社の株式を保有するでしょう(そうすれば絶対にキャピタルゲインを得られます)。 しかし、株式を直接もてば、経営に失敗し株価が下落した場合、損失を被る可能性があります。 ここで、新株予約権であるストック・オプションの場合、株価が上がった場合のみ、権利行使し利益を獲得する一方、株価が下落したら権利行使をしなければ損することはありません。このリスクを限定できるオプション特有の性質に起因する効果といえます。
<デメリット ~付与対象者側~>
■企業業績や成長性以外の要因による株価変動が将来の報酬に影響を与える 例えば、どんなに経営努力を行い新技術・新商品を開発してきた経営者も、世界経済が落ち込んでいる今のように、企業固有の要因以外で株価が下落している場合、どうしようもありません。このように付与者の報酬が、企業固有の業績など以外の影響を受ける可能性があります。
【補足】:希薄化効果とは? ここで、希薄化効果については補足しておいきます。 希薄化効果とはまさしく、1株当たりの株主価値(株価)が薄くなる効果です。 例えば、現在 発行済株式総数1,000株で株価100円の会社の場合、株主価値全体は100円×1,000株=100,000円です。 ここで、ストック・オプションを経営者に権利行使価格1株当たり100円で600株付与したとしましょう。 そして、ストック・オプションの効果があって経営者のインセンティブは上がり業績も向上し、株価300円まで株価が上がりました。 このとき、株価が3倍になったので当然に株主価値も3倍になります。 株主価値全体=300円×1,000株=300,000円 そこで、経営者がストック・オプションを行使したとしましょう。 そうすると発行済株式は既存数1,000株+権利行使分600株=1,600株になります。 また、権利行使価格100円×600株の払込があるので株主価値全体は既存株主分300,000円+権利行使分60,000円=360,000円になります。 ここで、一株当たりの株主価値を算出すると360,000円÷1,600株=225円になります。 ストック・オプションの権利行使より、既存株主の一株当たりの株主価値が300円→225円へ薄まっていることがわかります。 この効果のことを希薄化効果といいます。 これは、市場株価が300円のものを、ストック・オプションの保有者である経営者が100円で購入したわけですから、その分価値が薄まったことにほかなりません。 しかし、この希薄化効果を考慮しても、ストック・オプション導入により、株価は100円→225円に上昇したわけですから、株主にとっては、ストック・オプションの導入の効果はあったということになります。 希薄化効果といえば、権利行使価格が変動する新株予約権を組み込んだ社債、いわゆる転換価格修正条項付転換社債(MSCB)が問題になり、証券市場で株主を軽視したファイナスであるとして、問題となっていますので、興味のあるかたは、MSCBについて調べてみるのもいいかもしれません。
3.具体例
付与時の株価が1株当たり5,000円の会社が経営者に対して 『1株あたり6,000円で(=権利行使価額)、2,000株だけ、付与後3年間に限り(=権利行使期間)、自社の株式を購入することができる』 というストック・オプションを付与したとしましょう。
この経営者達、ストック・オプションを付与されただけでは、何の利益も得ることはできません。
しかし、この経営者達が経営努力により業績向上を達成し、自社の株価が権利行使価額を上回れば、ストック・オプションを行使することにより、権利行使価額で自社株式を購入し、当該株式を市場などで売却することにより利益を得ることができます。
例えば株価が10,000円まで上昇した場合、(売却価格10,000円-権利行使価格6,000円)×2,000株=800万円の利益を得ることができます。
一方、この経営者達が業績向上に失敗し、株価が権利行使価額を下回ったまま推移すれば、対象者は利益を得ることはできません。しかし、権利行使を行う必要がないため損失を被ることもありません。
例えば株価が3,000円に下落した場合、そもそも権利を行使しなければ良いので損失はゼロです。 このように、ストック・オプションはオプションの特性から利益獲得の可能性のみを享受し、損失はゼロのため、付与対象者はストック・オプションの付与を受け入れるともに、株価上昇目的のため会社の業績向上への士気を高める効果があります(これをストック・オプションのインセンティブ効果といいます)。
一方、権利を履行する義務を負う会社(=株主)は、株価上昇により権利行使価格での株式を付与する義務を負い、希薄化効果という損失を被りますが、株価上昇により通常、希薄化効果を上回る利益を株主も得ることができます。
そのため、株主の立場からストック・オプションは、株主と経営者との利害と一致させ(経営者のモラルハザードを防止し)、株主重視経営を推進する効果があるといったりもします。 ストック・オプションによって、付与者(義務者=株主)も付与対象者(権利者=経営者等)も基本的にはWIN‐WIN関係となるというわけですね。
以上をまとめますと、ストック・オプションを導入する目的は、以下の点にあるといえます。
・経営者や従業員などの業績向上に対する意欲や士気を高める(インセンティブ効果)
・株主価値の向上を意識した経営を推進する
現在、このインセンティブ効果・株主重視経営を推進する目的で、上場会社をはじめ上場準備会社、プライベート・エクイティ投資先企業など多くの企業がストック・オプションを導入しています。
ストック・オプションの本来の目的はこのインセンティブ効果なのですが、税法や会計上の仕組みから、その設計方法により、人件費削減効果や節税効果など様々な財務効果をもたらすができ、実際導入するにあたっては、この財務効果も見据えて戦略的にストック・オプションを設計する必要があります。
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