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2012/07/13 <続報>J.フロント、パルコ買収(TOBデータベースより)

現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。

今日は、今週月曜日に公表された、Jフロントリテイリングのパルコに対するTOBの話題を、当社TOBデータベース』より考察してみます。

 

■IKP提供『TOBデータベース』はこちら ⇒ http://www.ikpi.co.jp/tobdatabase/index.html

 

なお、Jフロントリテイリングのパルコ買収に対する話題は、以前のBizblogでも取り上げており、その続報となります。

 

2012/02/24 Jフロントがパルコ買収 脱・百貨店めざす

◆対象者パルコ株を巡る過去の出来事

J.フロントリテイリングは2007年9月に大丸と松坂屋が合併して誕生した百貨店大手の1つです。

一方、パルコは若者向けのファッションビル大手で、直近売上で約2600億円、全国で約20店舗を展開しています。

 

パルコを巡る買収等の話題と言えば、森トラスト、イオン、パルコの対立の話に遡ります

 

もともとパルコは、西武百貨店傘下のセゾングループだったのですが、セゾングループ解体後は非上場企業である森トラストが主要株主となりました。

森トラストはその後出資比率を高めて経営権の強化を目指しますが、パルコ陣営と対立(2010年1月頃)。

森トラストの第三者割当増資の提案を拒否し、逆に日本政策投資銀行への資本提携を公表して転換社債型新株予約権付社債を発行し、森トラストの実質持株比率を下げる対抗策に出ました(2010年8月頃)。

 

■2010年8月25日パルコ公表『株式会社日本政策投資銀行との資本・業務提携及び第三者割当による無担保転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ

【リソース】パルコHPより。

 

 

一方で、イオンはパルコ株を森トラストとパルコの対立の中で突如12%ほどの株式を米系ファンドから取得し、イオンもパルコとの業務提携を提案(2011年2月頃)。

これに対してもパルコは「急すぎる」として提案を丁重に拒否。

 

■2011年3月29日パルコ公表『イオン株式会社からの提案書の受領と、それに対する当社取締役会の見解について

【リソース】パルコHPより。

 

 

こうした中で、今度はイオンと森トラストが手を握り、2011年に行われる定時株主総会にて株主提案権を発動。

株主総会決議における可決が確実な情勢であったことから実際は株主総会前に森トラスト、イオン、パルコで取締役選任に関する協議が行われ実際には株主提案は取り下げられています。

結果、イオン、森トラストから取締役が送り込まれることになりました。

 

■2011年4月20日パルコ公表『取締役選任議案および代表執行役の異動に関するお知らせ

【リソース】パルコHPより。

 

 

なお、株主総会における株主提案権そのものは、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することが認められています(会社法303条2項)。

最近では、関西電力に対する大阪市の株主提案、東京電力に対する東京都の株主提案が話題になりました。

 

 

こうした状況の中で上記のBizblogにもあるように、J.フロントリテイリングが森トラスト保有のパルコ株を全株買取ることで合意(2012年2月頃)。

 

■2012年3月23日パルコ公表『株式の売出しにおける受渡期日、主要株主及び主要株主である筆頭株主の異動予定日並びにその他の関係会社の異動予定日の確定に関するお知らせ

【リソース】パルコHPより。

 

 

 

森トラストからすれば当初取得したときに思い描いていた相乗効果を結果として図ることができず撤退策を考えていたものと推測されます。

上記のとおり日本政策投資銀行との資本提携により袋小路に入ってしまった森トラストとしてはその打開策として突如出現したイオンと一時的に手を握ったのでしょうが、イオン自身もパルコを子会社化することを最終目標としていたことを考えると、森トラストは出口戦略を模索していたと思われます。

 

一部の報道では、J.フロントが結果として”パルコのホワイトナイト”との描いていますが、百貨店業界の縮小が続くJ.フロントにおいてもファッションビル運営のパルコとの協業は1つの生き抜くための活路と言えるでしょうし、もともと西武百貨店傘下だったパルコとしては、百貨店傘下にはそれほど抵抗もないと言えるかもしれません。

 

 

これによりパルコ株を取得したJ.フロントリテイリングはパルコ株を買い増し子会社化とすべく今回の株式公開買付を実施することになりました。

なお、今回のTOBは65%程度までの持ち株比率の引き上げを目的としており、買付は上限付きとなっています

◆公開買付情報のまとめ

公開買付に関する資料は以下のリンクのとおりです。パルコも本件TOBについて賛同しています。

 

日  付 公表企業 タ  イ  ト  ル
平成24年7月9日 対象者 意見表明報告書の提出
平成24年7月9日 公開買付者 公開買付届出書の提出
平成24年7月8日 対象者 J.フロント リテイリング株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明及び同社との資本業務提携契約の締結のお知らせ
平成24年7月8日 公開買付者 株式会社パルコの株式に対する公開買付けの開始及び同社との資本業務提携契約の締結に関するお知らせ

◆公開買付者と対象者の基本情報

J.フロントリテリングは上記で解説したとおり、森トラストより30%の株式をすでに取得しており持分法適用関連会社にしています。

 

対象者の基本情報 株価チャート
企業名

J.フロント リテイリング㈱

証券番号

3086

EDINET E03516
URL http://www.j-front-retailing.com/index.php 業種 小売業 市場 東証1部
財務情報

個別財務情報

対象者の基本情報 株価チャート
企業名 ㈱パルコ 証券番号 8251 EDINET E03026
URL http://www.parco.co.jp/group/ 業種 小売業 市場

東証1部

財務情報 個別財務情報
公開買付者と対象者との既存資本関係等

公開買付者は、対象者の普通株式27,400,000株(保有割合33.22%)を保有し、対象者を持分法適用関連会社としている。

※各社の「財務情報」は、IKP財務データベースによる。

◆取引基本情報

取引基本情報は以下のとおりです。

本TOBの特徴は、買付上限が定められている点です。パルコの上場を維持する方針です。

なお、日本政策投資銀行は保有する新株予約権付社債を転換し、転換された株式18,987,300株(本転換後所有割合18.71%)を全て本公開買付に応募することを合意しています。

 

取引種類 連結子会社 対象者の賛同 賛同 二段階条項 なし
公開買付代理人 野村證券
買付け等の期間 平成24年7月9日から平成24年8月20日まで(30営業日)

 

買付予定数(数)買付予定数の下限(株)買付予定数の上限(株)
38,522,600 38,522,600

◆公開買付価格とプレミアムの状況

公開買付価格とプレミアムの関係は以下のとおりです。

森トラストからの買付価格と同じです。

買収総額は約430億円。

森トラストからの買付で約300億円ですので、J.フロントはパルコをトータルで約730億円で買収することになりそうです。

 

◆公開買付価格

公開買付価格 1,100円 買付け等に要する資金 42,689百万円 公表前日終値 972円

 

◆プレミアムの状況

対前日取引日終値対過去1カ月終値単純平均対過去3カ月終値単純平均対過去6カ月終値単純平均
13.17% 39.59% 41.39%

49.46%

 

◆バリュエーションの状況

バリュエーションの状況は以下のとおりです。

 

公開買付者による評価状況
第三者算定機関 野村證券
フェアネスオピニオンの有無
評価方法1 市場株価平均法 評価額1 776円から822円
評価方法2 類似会社比較法 評価額2 623円から861円
評価方法3 DCF法 評価額3 732円から1,226円
対象者による評価状況
第三者算定機関 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
フェアネスオピニオンの有無
評価方法1 市場株価分析 評価額1 776円から783円
評価方法2 類似会社比較分析 評価額2 543円から981円
評価方法3 DCF分析 評価額3 864円から1,207円

◆ファイナンスの状況

ファイナンスの状況は以下のとおりです。

野村キャピタルからブリッジローンで430億円を調達するようです。野村キャピタルへの返済期限は平成24年9月末日。

その後のファイナンススキームは公表されていません。

 

ファイナンス合計 (a) + (b) + (c) + (d) 45,000,000千円
保有預金等 (a) 2,000,000千円 金融機関借入金等 (b)
金融機関以外 (c) 43,000,000千円 その他の資金調達方法 (d)

 

〔備 考〕

野村キャピタル・インベストメント株式会社より融資による。

今回のTOBに日本政策投資銀行が応じることで子会社化することはほぼ確実で、今後はイオンが保有株式をどうするかが注目されるところです。

持ち株比率の高まった百貨店大手のJ.フロントに対し、イオンがパルコ経営に踏み込んでいくことのはなかなか難しいところで、イオン・パルコの相乗効果を図るのは難しいでしょう。

ただ、売上5兆円を誇るイオンがTOBに素直に応じ、そのまま黙って引き下がるのかもわかりません。

 

一方で、J.フロントの百貨店業界も縮小の一途を辿っており、ファッションビルのパルコも業績としては成長戦略が描けない状況になります。

ただ、J.フロントとパルコが単純に合体して規模の経済を働かせるだけでなく、シナジー効果が発揮される形の経営を行えば、新たな展開が期待されます。

 

J.フロント、イオン、パルコ各社の直近の財務状況は以下のとおりです。

 

J.フロントリテイリング個別財務情報

パルコ個別財務情報

イオン個別財務情報

【リソース】IKP財務データベース

 

年配層に支持される大丸・松坂屋のJ.フロントと若者層に支持されるパルコの協業展開。

今後の小売業界再編に注目していきたいですね。

以 上

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