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今日は、日経の東証と大証の統合承認の記事からからです。
【記事要約】
・公正取引員会は5日、東京証券取引所と大阪証券取引所の経営統合を承認した。
・東証が大証に対しTOBを実施し、来年1月に持株会社「日本取引所グループ」を設立する。東証は週明けにも大証株へTOBを始める見通し。
・東証1部の1日平均売買代金はピークの2007年2月(約3兆5千億円)からほぼ一貫して減少。現在は1兆円を下回る日も珍しくない。東証が利益を出すのに必要な7千億円~8千億円も近づく。両者は統合を機に世界での存在感を高め、再び投資マネーの呼び込みに動く。
・国境を超えて資金を動かす投資家や企業が増える中、売買コスト、上場費用など目に見える形で統合新会社の魅力をアピールできるかがカギ。また、売買執行の速度を競う時代となり、世界の取引所は今では巨大なシステムを抱える装置産業へ変貌している。東証と大証統合の最大の狙いは統合でシステムを一本化すること。これにより取引所にとって最大の固定費であるシステム費用を圧縮し、競争力を高める。新統合会社では現物株取引は東証側、先物取引などは大証側にそれぞれシステムを一本化する計画。
・日本取引所グループが目指すのはアジア最強の取引所。アジア市場のライバルは当面香港だ。東証と大証の上場企業の時価総額は271兆円と世界3位。だが、昨年の新規上場企業数は37社で、中国企業の上場が相次ぐ香港(68社)に倍近い差をつけられた。香港では海外企業の上場も相次ぐが、日本への海外企業上場は実質ゼロ。上海市場では海外企業も上場できる「国際版」の設立を準備している。
・投資マネーの獲得に向け、どう競争力を回復するのか、統合新会社の課題は山積みしている。
(日本経済新聞2012年7月6日朝刊3面)
昨年、東証と大証の統合のニュースから半年、公正取引員会の承認も得られ、いよいよTOBのステージにまできました。
日経の記事によると今後の流れは、今月に東証が大証株のTOBを開始(1株48万円)。2013年1月に大証を存続会社とする逆さ合併で法人統合が完了、その後グループの傘下で4事業に再編するようです。
前回のビズブロでコメントしたとおり、破談にはなりましたが、最近ではニューヨーク証券取引所(NYSE)を運営するNYSEユーロネクストとドイツ取引所の合併や、ロンドン取引所とカナダのTMXグループとの合併、シンガポール取引所とオーストラリア取引所の統合の動きもありましたね。
世界の取引所の再編の動きの中、最終的にはスピードを重視した統合手法を選択した形となりました。
また、本日の記事のとおり、アジア市場という視点でみると香港取引所や上海取引所の存在感も増しており、世界三大市場の一角の地位も揺らいでいる点も大きなトリガーになっています。
主要な世界の取引所ごと、および主要な取引所の運営会社ごとの概要を整理すると以下のとおりです。
<世界の主要取引所ごとの概要>
取引所 |
市場の時価総額 (兆円) |
売買代金 (兆円) |
上場社数 | 新規上場社数 |
ニューヨーク | 983 | 1,424 | 2,340 | 67 |
ナスダック | 334 | 1,005 | 2,653 | 54 |
東京+大阪 (東京) (大阪) |
271 (254) (16) |
328 (313) (14) |
3,496 (2,289) (1,207) |
37 (21) (16) |
ロンドン | 245 | 224 | 2,836 | 42 |
香港 | 183 | 114 | 1,518 | 68 |
上海 | 202 | 288 | 943 | 37 |
深セン | 94 | 224 | 1,479 | 243 |
(本日の日経記事より転記)
<世界の主要取引所運営者ごとの概要>
取引所運営者 |
市場の時価総額 (兆米ドル) |
取引高 (兆米ドル) |
NYSEユーロネクスト | 16.0 | 19.8 |
NASDAQ OMX | 4.9 | 13.4 |
東京証券取引所 | 3.8 | 3.8 |
大阪証券取引所 | 0.27 | 0.18 |
ロンドン証券取引所 | 3.6 | 2.7 |
香港証券取引所 | 2.7 | 1.5 |
上海証券取引所 | 2.7 | 4.5 |
深セン証券取引所 | 1.3 | 3.6 |
(ウィキペディア(2010年取引所ランキング)等に基づく情報のため正確性に欠けるかもしれません)
大阪証券取引所は規模こそ大きくないため、統合したとしても規模の倍増は期待できません。むしろ、規模という点では、香港や上海などの中国経済圏が接近してきています。
そのため、統合でポイントとなってくるのは、いかにシナジー効果を発揮できるかにつきるでしょう。具体的には、現物に強い東証とデリバティブに強い大証の強みを生かし魅力ある市場を形成できるか、スケールメリットによるコスト競争力の強化、海外企業をいかに呼び寄せられるか、などでしょうか。
最後に、世界1位のニューヨーク証券取引所、そのほかパリ・アムステルダム・ブリュッセル証券取引所などを運営するNYSEユーロネクストと東証、大証の業績を比較してみます。
東京証券取引所 |
大阪証券取引所 |
NYSE ユーロネクスト(米) |
|
直近期(通期) | 2012.3 |
2012.3 |
2011.12 |
Total operating revenue (営業収入) |
53,045百万円 |
22,494百万円 |
$4,552 million (364,160 百万円) |
Operating income (営業利益) |
9,159百万円 |
8,370百万円 |
$850 million (68,000 百万円) |
営業利益率 |
17.26% |
37.20% |
18.67% |
Net income (当期利益) |
6,311百万円 |
5,466百万円 |
$619 million (49,520 百万円) |
Total assets (資産総額) |
345,247百万円 |
453,203百万円 |
$13,072 million (1,045,760 百万円) |
Stockholders' equity (自己資本) |
124,604百万円 |
55,485百万円 |
$6,581 million (526,480 百万円) |
Net cash from operating activities (営業活動によるCF) |
15,872百万円 |
14,135百万円 |
$1,000 million (80,000 百万円) |
Cash and cash equivalents (現金および現金同等物) |
27,779百万円 |
19,472百万円 |
$396 million (31,680 百万円) |
Depreciation (減価償却費) |
10,993百万円 |
2,552百万円 |
$286 million (22,880 百万円) |
営業収入に対する減価償却費率 |
20.72% |
11.34% |
6.28% |
※ 日本円ベースは80円/$で簡便的に換算している。日本円換算数値はあくまで参考値。
※ 自己資本は株主資本+評価換算差額等をベースに算出
NYSEユーロネクストの売上高は東証と大証の合算ベースの5倍、利益率でも東証を上回ります。
今回の記事でもシステム統合によるコスト合理化を図り、競争力の強化が期待できるとコメントされていましたが、比較表を見ると東証と大証の減価償却費負担がNYSEユーロネクストに比べ重いことが分かります。統合によりどれだけコスト競争力を上げられるか注目です。
IFRS(国際財務報告基準)を策定しているIASB(国際会計基準審議会) のアジア・オセアニア地域におけるサテライトオフィスを設置する際にも東京と香港、シンガポールで争いました。
サテライトオフィスは東京に内定しましたが、アジアの金融市場の覇権争いは激しさを増しています。
アジア最大の金融市場の地位を確固たるものするような魅力的な取引所になってほしいと願うばかりです。
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