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今日は、日経朝刊9面の富士通・NECの話題から。
<2012年4月11日 日経朝刊9面>
・IT大手がシステム技術者SEの再教育に乗り出す。クラウド事業を拡充するのが狙い。
・富士通はグループ全体で3000人を対象に実施。NECはSEの3割を同分野に対応できる人材に育てる。システム市場の構造変化に対応し、割安なクラウドサービスで売上を伸ばしてきた新興勢力に対抗する。
・クラウドサービスは、受託業務とは違い、顧客にシステムの新しい使い道や価値を積極的に示す提案力の巧拙が競争力を左右。
・富士通は仮想化技術などクラウド関連に加え、顧客企業の情報システムの課題を抽出する能力を習得させる。
・NECは来春までに3万人のSEのうち1万人強をクラウドなどサービス分野に強い人材に転換する計画。すでに7割については再教育を完了。同社は米マイクロソフトと提携するなど事業強化を急いでいる。
・日本ユニシスも「システム基盤開発技術部」を発足。日本IBMもクラウド組織を兼務で数百人が所属。
・米調査委による世界のクラウド市場規模は2015年に700億ドル(5兆7千億円)。
・独立行政法人の情報処理推進機構によると国内SEの数は101万人。
<要約記事はここまで>
富士通とNECがクラウド事業のための人員強化の記事でした。
◆クラウドサービスの展開
筆者はシステムエンジニアではないためそれほどクラウドコンピューティングに精通しているわけではありませんが、『クラウド』について少し掘り下げてみようと思います(BizBlog読者の多くの方々も会計・税務関係の方でそれほどシステムに詳しくないという前提ですので専門家の方にとっては物足りないかもしれませんがご容赦ください)。
クラウド・コンピューティングについては、日経の記事にも名前が出ていた「独立行政法人情報処理推進機構」が平成22年3月24日付けで報告書「クラウド・コンピューティング社会の基盤に関する研究会報告書」に詳しい研究報告がされています。
■独立行政法人情報処理推進機構 ⇒ http://www.ipa.go.jp/about/research/2009cloud/index.html
報告書によれば、「クラウド・コンピューティング」はGoogleCEOのエリック・シュミット氏が2006年英国「The Economist」で寄稿した”Don't bet against the internet"という記事で初めて使ったようです。
『クラウド』の合意された明確な定義はないようですが、城田真琴氏「クラウドの衝撃」(東洋経済新報社、2009年2月刊、P15)では次のように紹介されています。
『「クラウド・コンピューティング」とは、拡張性に優れ、抽象化された巨大なITリソースを、インターネットを通じてサービスとして提供(利用)するというコンピュータの形態である』
この報告書では、クラウドはSaaS+PaaS+IaaSとして統一的な説明をしていますが、総括のところでは、検索エンジンやeコマースサイト、SNS、Twitter やFacebookもクラウドの一種だと述べ、「情報資源共有をし、スケールアウトするサービスの総称」とうたっています。
(※SaaSはSoftware as a Service、PaaSはPlatform as a Service、IaaSはInfrastructure as a Serviceの略です)
これをみると、クラウド・サービスはすでにいろいろな形で展開されており今後ますます展開することは容易に想像できますので、システムベンダーがクラウドサービスに人員を配置換えするのも理解できます。
◆クラウドを支える技術
報告書では、クラウドの技術階層は次のようになっていると紹介しています。
<クラウドを支える技術>
【リソース】報告書概要P6 図2-1 クラウドを支える技術
クラウドを支える技術は、①分散処理・分散システムの技術、②仮想化技術、③セキュリティの技術となるようです。
日経の記事でも「仮想化技術を習得させる」ということが記述されていましたね。
分散処理・分散システムの技術は容量が増大したときにスケールアウトする技術です。
これもわかりやすい図が報告書の記載されていたので転載します。
<スケールアップ・スケールアウトのイメージ>
【リソース】報告書概要P6 図2-2 スケールアップ、スケールアウトのイメージ(日経ソフトウェア2009.9に加筆)
クラウドにおいて重要なのはスケールアウトの技術であり、自動的なスケールアウトをPaaSによって処理してくれることがキーのようです。
次のキーとなる技術が「仮想化技術」です。
報告書では、仮想化技術を「サーバ、ストレージ、ネットワークなどのIT資源について、物理的な性質や境界を取り除き、理論的な利用単位に変換して提供する技術」としています。
具体的には、1台のサーバを複数のサーバとして使うように仮想化したり、複数のサーバを1つのサーバのように仮想化することです。
仮想化技術によるサーバサービスのでは、さくらインターネットのサービス等があります。
当法人のITベンチャーでもさくらインターネットを利用している法人さんがいらっしゃいますね。
■さくらインターネット株式会社の仮想専用サーバサービス「さくらのVPS」
http://www.sakura.ad.jp/press/2012/0321_vps.html
そして最後の技術がセキュリティです。
クラウドに限定されたことではありませんが、ネットワーク上に情報が存在する以上はアクセスされる脅威が高まるためセキュリティ技術はさらに重要性を増します。
◆クラウドの利用形態の広がり
クラウドの利用方法がどのように広がりそうか、報告書では次のような図が紹介されています。
<クラウドの利用方法のイメージ>
【リソース】報告書概要P6 図3-1 クラウドの利用分野の広がり
報告書では、IaaSやPaaSが基幹系システムの分野まで浸透するかどうかを問いかけています。
逆に、ここまで浸透しなければ、「PaaSやIaaSは広がらず、クラウドが大きく産業・社会を変えるようなインパクトは持たないだろう」と提唱しています。
基幹システムはシステムベンダー企業が受託開発している分野です。
この報告書平成22年3月であることを考えると、NECや富士通の動きなどをみても、PaaSやIaaSの広がりが感じ取れるような動きとなっているようにも思えます。
クラウドの優位性は、開発期間の短縮、IT資源の非資産化、IT費用の変動費化、システムの利用環境変化への自社対応が不要、運用・保守やセキュリティの相対的優位性、運用コストが安価、試行利用の容易性が挙げられています。
クラウドが開発期間が短いのはクラウドが最も優位性の高い事項と言えます。
一方で、外部へデータを移すことへの抵抗はあるようで大きな懸念材料といえます。
報告書でも「重要データの漏えいや消失に遭う可能性」、「システムが解く全使えなくなってしまう可能性」が挙げられています。
たしかに、システム利用の安定性(継続的に利用できることの重要性)はセキュリティ以前に重要な要素といえますね。
◆クラウドサービスに求められる人材
クラウドは、情報システムの「所有」から「利用」へのパラダイムシフトと言われています。
このため、オーダーメード開発ではなく、外部のサービス提供業者の標準サービスをうまく組み合わせ、不足部分等をカスタマイズすることで構築していく能力が必要になるといえ、今までの受託開発とは根本からサービス提供方法が異なることになります。
なので、当然、クラウドを前提とした人材育成は重要になってきます。
報告書では、ベンダー企業の利益源泉の変化をうまく図で表現しています。
<ベンダー企業の付加価値図>
【リソース】報告書概要P17 図6-2 クラウドの進展でベンダに求められる人材ニーズの変化
受託開発の場合は、開発することに付加価値があったものの、
クラウドになれば既存のオープンシステム・ソフトウェアをいかにうまく組み合わせ、「どのようにシステムを利用するか」という企画力にこそ付加価値が高まります。
日経の記事でもこの点について触れており、人材育成には仮想化技術などの技術力の育成だけでなくシステムを使いこなし提案する企画力をもった人材育成が勝敗のカギと言えるでしょう。
日本IBMが専業の部署でなく兼務としているように、クラウドコンピューティングの転換が本格化する前なのかもしれません。
しかし、今日の日経でソニーの事業不振の原因がインターネット環境の変化への対応の遅れであることが指摘されているように(日経朝刊3面)、ネット技術への対応の遅れは事業運営の命取りと言えます。
くしくもNECは今期大幅な最終赤字となり、事業の見直しが迫られています。
以前のBizBlogでも取り上げました。
今後どのようにクラウドが普及・発展していくか、そして、ベンダー企業はどのように対応していくのか注目していきたいところですね。
以上
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