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2011/11/24 <続報> 大王製紙 巨額借入問題 調査報告書を読み解く

現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。

大王製紙の巨額借入問題の続きです。

平成23年9月7日に発覚した本件ですが、大王製紙の井川意高(もとたか)前会長(47)が会社法違反(特別背任)容疑で逮捕される事態にまで発展しました。

 

今日は、平成23年10月28日付でプレスリリースされた大王製紙株式会社元会長への貸付金問題に関する特別調査委員会の「調査報告書」の内容についてハイライトしてみたいと思います。

 

調査報告書は主に

Ⅰ.事実の調査

Ⅱ.原因の分析・評価

Ⅲ.関係者の責任及び損害の回復

Ⅳ.提言

から構成されています。 

 

それぞれ簡単な内容を見てみます。なお、一部筆者の私見が含まれていますのでご留意ください。

Ⅰ.事実の調査

■ 貸付の内容

平成23年3月末期における大王製紙の連結子会社は37社。本件はそのうち7社を経由して元会長個人への貸付が行われています。大王製紙から直接元会長への貸し付けはありません。

 

当該連結子会社7社の概要は下記のとおりです。

 

会社名 主な事業内容 資本金(万円) 代表取締役 大王製紙の保有株式割合(%)

ダイオーペーパー

コンバーティング株式会社

ベビー用紙おむつ製造、キッチンペーパー、トイレットペーパーほか 3,000 井川意高 ほか 14.1

エリエールペーパーテック

株式会社

大人用紙おむつ ほか

3,000 井川意高 ほか 16.6
大宮製紙株式会社 家庭用紙製品 ほか  3,000 井川意高 ほか 15.3
いわき大王製紙株式会社 段ボール原紙 ほか 250,000 井川意高 ほか 25.0
赤平製紙株式会社 ティシュペーパー、トイレットペーパー ほか 3,000 井川意高 ほか 19.0
エリエールテクセル株式会社 紙系タック紙 ほか 3,000 井川意高 ほか 18.0
富士ペーパーサプライ株式会社 ペーパータオル、 ティシュペーパー、トイレットペーパー ほか 1,750 井川意高 ほか 10.0

 

また、当該7社ごとの貸付状況は下記のとおりです。 

 

貸主 貸付 返済 元金残高 取締役会の承認の有無
日付

金額

(百万円)

方法 日付

元金額

(百万円)

利息額

(百万円)

方法

ダイオーペーパー

コンバーティング株式会社

22.5~23.9 2,450

・エリエール商工※1の預金口座経由で本人預金口座へ

・本人預金口座へ直接

22.11~23.7 1,550 7.2

・エリエール商工を通じて

エリエール総業株式購入代金で

・連結子会社の株式購入代金で

・個人直接

900 ×

エリエールペーパーテック

株式会社

22.6~23.4 2,750

・エリエール商工※1の預金口座経由で本人預金口座へ

・本人預金口座へ直接

23.3~23.7 2,250 23.9

・エリエール商工を通じて

エリエール総業株式購入代金で

・連結子会社の株式購入代金で

・個人直接

500 ×
大宮製紙株式会社 23.2~23.8 2,280

・エリエール商工※1の預金口座経由で本人預金口座へ

・本人預金口座へ直接

・本人指定の「LVSインターナショナルジャパン」名義口座へ

23.3~23.7 950 1.5

・エリエール商工を通じて

エリエール総業株式購入代金で

・個人直接

1,330 ×
いわき大王製紙株式会社 23.7~23.8 2,250

・本人預金口座へ直接

・本人指定の「LVSインターナショナルジャパン」名義口座へ

  0   2,250 ×
赤平製紙株式会社 23.9 300 ・本人預金口座へ直接   0 0   300 ×
エリエールテクセル株式会社 23.9 550 ・本人預金口座へ直接   0 0   550 ○ 
富士ペーパーサプライ株式会社 23.9 100 ・本人預金口座へ直接   0 0   100
合計   10,680     4,750 32.6   5,930  

 

※1 エリエール商工は、大王製紙の連結子会社ではなく、元会長の実父で大王製紙元社長井川高雄氏(現在、顧問)らが代表取締役としてゴルフ場経営等の事業を行っているファミリー企業の1つである。
平成23年3月末までの貸付金については、有価証券報告書の「連結子会社と関連当事者との取引」欄に元会長への貸付23.5億円、エリエール商工への貸付22.5億円として記載されている。
さらに、本件貸付がなされるより前にエリエール商工から元会長に8,000万円を貸付け、また、他から借入を行って4億5,000万を貸付け、未返済のままである。

 

本人口座に直接振り込ませるのみならず、井川家のファミリー会社であるエリエール商工経由の迂回融資も行われたようですね。 

 

■ 貸付の経緯や方法

ポイントは下記のとおりです。

・元会長から7社の常勤役員に電話で指示また一方的に指示したものが多数、口止めもあり

・すべて無担保

・事後に金銭消費貸借契約が作成されている

・事前に取締役会に諮られず

・事後に取締役会に諮られて承認された場合でも、貸付の目的、必要性、返済の確実性などの検討はされず

・各貸付に関して取締役会議事録は作成されているが、適法な取締役会の開催がなされていたとは認められない

・直近に貸付を行った「赤平製紙株式会社」「エリエールテクセル株式会社」「富士ペーパーサプライ株式会社」の3社を除いて、貸付の事実を知っている子会社の役員も親会社へ報告せず

 

 

■ 貸付金の一部返済

返済は、18億700万円が現金で、残り29億4,300万円については、連結子会社の株式およびファミリー企業とのエリエール総業の株式を貸主の3社が購入し、その購入代金を貸付残金に充てる方法(実質的な代物弁済)により返済されています。なお株式の購入価額は、時価純資産価額方式により決定されており、金額が相当か否かは検討する余地があるとされています。

 

 

■ 大王製紙関係者の行動

コーポレートガバナンスに関連する主要な関係者の行動は下記のとおりです。

 

・経理部担当取締役

連結子会社は四半期毎に親会社の大王製紙に連結決算に必要な連結パッケージを送っており、その中の「関連当事者との取引明細表」等に金額が記載れていた。経理部の担当取締役は、元会長が大王製紙グループのために必要な資金として使うであろうと漠然と推測し、違法行為をしているとの疑いをもたず。また同人は監査役やその他の役員に対して注意を喚起して是正防止を図る必要があるとは思わず。

さらに、担当取締役は期末決算において貸倒引当金の計上の必要性を判断するため、元会長に質問したが、第2四半期までには返済する旨の回答を得るに終わっている。

 

・監査法人

平成23年3月期の第1四半期決算で本件貸付の事実を知る。経理部に確認するも使途はわからず、そのため監査法人も経理担当取締役と同様に元会長が、大王製紙グループのための事業活動に使用するものと推測するに留まる。以後、貸付金額の推移は把握する。

平成22年9月には7社のうちの1社であるエリエールペーパーテックを常勤監査役とともに往査するも(この段階ですでに4件の貸付が実行されていた)、貸付担当者から特に事情聴取はされなかった。また、社外監査役が出席している監査役会に監査法人も出席するも特に本件について言及せず

平成23年5月には元会長と面談し、同年9月末には返済する旨、元会長の個人的な事業の運転資金目的として使用する旨の回答を得るにとどまり、具体的な事業内容の聴取までには至らず

平成23年3月期の会計監査の結果および内部統制監査の結果は適正意見であるとの適正意見を表明。

平成23年8月に元会長と定例のヒアリングを行ったが、このときもどうね9月末には返済する旨の確認に止まり、使途を具体的に確認するまでには至らず

 

・監査役と監査役会

監査役は常勤監査役2名、非常勤の社外監査役が3名(2名が弁護士、1名が元国家公務員)で、財務・会計についての相当程度の知見を有する者はいない。経理関係は監査法人に依拠し報告を受けるのみ。

各監査役が取締役会に出席するも本件に触れられることはなかった

さらに監査役会が期中に数回開催されて、監査法人や経理担当取締役が同席することがあったが、本件貸付について監査役として何らかの対応をすべき事項であるとの注意や報告を受けることはなかった

取締役会で報告される平成23年3月期の有価証券報告書案について、経理の状況は会社法の計算書類の内容とほぼ同じであり、財務報告に係る内部統制を含め指摘事項はないとの報告を受けていたことから、関連当事者との取引の開示で本件の事実が記載されていることに注意が及ばず

 

・取締役会

 平成23年6月開催の定時株主総会終了後の取締役会までは、元会長が議長となっていが、元会長から本件貸付にうちて事実が開示されることはなく、また席上には事実を認識していた者もいたが、触れることはなかった

また、平成23年6月開催の取締役会で有価証券報告書の報告がなれさたが、法令改正で前期の有価証券報告書と違っている部分のコピーの添付による説明のみで「連結子会社と関連当事者との取引」の部分のコピーは添付されず、説明もなされなかった

 

・井川高雄顧問

井川高雄顧問は、元会長の実父である。顧問は、平成23年3月頃には、元会長が連結子会社経由で借入を行い自己の用途に費消している事実を知り、貸し付けた担当者を叱責、そして、元会長に保有する株式を売って片づけるよう命じている。これにより平成23年4月にエリエール総業の株式譲渡による一部返済がなれている。しかし、顧問が大王製紙の取締役や監査役に本件貸付の件を知らせ、対応を協議するなど事態の拡大を防止することはせず。

 

・関連事業部担当取締役

大王製紙の連結子会社等を管理する関連事業部担当取締役(元会長の実弟)は、平成23年4月半ばころから本件事実を認識するも、大王製紙の取締役や監査役に本件貸付の件を知らせ、対応を協議するなど事態の拡大を防止することはせず

 

 

■ 本件の発覚の経緯

平成23年9月7日に、本件7社のうちの1社の赤平製紙から関連事業部担当者宛に元会長からの指示により9月2日に元会長の個人口座に3億円振り込んだとのメールが届く。

関連事業部担当取締役が当日不在であったため、佐光社長に直接報告。社長の指示より元会長が代表取締役を務める会社などを調査し、本件の貸付が発覚。

Ⅱ.原因の分析・評価

■ 本件貸付が行われた原因

平成23年3月期において大王製紙は、連結子会社37社のうち、35社を国内に、2社を海外に有していますが、この35社での大王製紙の保有議決権割合は下記のとおりとなっています。

 

① 国内連結子会社35社の大王製紙の直接保有議決権数(調査報告書別紙5より)

100% なし
50%超100%未満 3社
20%以上50%以下 9社
20%未満 23社

 

国内連結子会社35社のうち実に90%が、50%超の議決権を親会社が直接保有していないという、なんとも特異な支配構造となっていることがわかります。

 

さらに、特別調査委員会が、すべての連結子会社に対し、大王製紙以外の株主名と保有数の状況を把握しようとしたところ応じたのは下記の通り実に17社のみであったとのことです。調査報告書によると監査法人ですら把握できていないとのことです。

 

② 国内連結子会社35社の大王製紙以外の株主名と株式数の把握状況(調査報告書別紙5より)

完全開示会社

17社

(本件の7社を含む)

未開示会社 18社

 

調査委員会報告書では、井川家個人や井川家ファミリー企業、支配権を有する他の連結子会社を通じ、議決権の過半数を支配していた17社と同様に残りの18社も井川家が議決権の過半数を実質的に保有し支配していると推測しています。

 

実際、国内連結子会社35社の井川家の役員就任状況は驚くべき結果となっています。

 

③ 国内連結子会社35社の井川父子の役員就任状況(調査報告書別紙5より)

  代表取締役 取締役 監査役 合計 
顧問(元会長の実父) 16社 3社 19社
元会長 9社 17社 4社 30社

関連事業部担当取締役

(元会長の実弟)

1社 3社 17社 21社
合計 26社 23社 21社

 

親会社である、大王製紙は上場企業のため、見た目の株主の状況はパブリックな会社だったかもしれませんが、大王製紙にぶら下がる子会社以下末端の会社の大半が、井川家が議決権の過半数超を実質的に保有することによって、親会社の大王製紙というよりも井川家に直接的に支配されていたようですね。

 

また、井川家は大王製紙の大株主でもありますが、その株式はファミリー企業(大王商工やエリエール総業などを含む5社)によって保有するとともに、ファミリー企業に対しても大王製紙の社員を役員として出向させ管理運営するとともに、当該ファミリー企業と大王製紙間において原材料の商取引なども行われているようです。

 

このように、井川家は、自身のファミリー企業を通じ、大王製紙の大株主として君臨していただけでなく、その連結子会社の議決権の過半数超を、井川家のファミリー企業が実質的保有することより、大王製紙グループの末端まで創業家が支配するという独特な支配構造を形成していたといえます。

調査報告書では、このような統治構造が原因で、「社員は会社に対してではなく、井川父子に対する帰属意識を有することになる」と分析しています。

 

そのほか調査報告書は本件貸付が行われた土壌として、下記点を指摘しています。

 

・連結子会社の役員等の選任に井川家の影響力が絶大なのは、井川家が親会社である大王製紙の経営責任者の立場にあるからなのではなく、個人として当該連結子会社の支配株主であるが故である。

親会社である大王製紙が子会社の議決権を直接過半するを有していないこのような企業集団の支配構造は、脆弱で不安定である。

・内部統制制度は、正確かつ無駄なく、法令に従って活動し、業績を上げているか井川家(顧問、元会長、関連事業部担当取締役)がチェックするために重視され、構築されている。したがって、井川家をチェックすることは求められていない

・井川家が、ファミリー企業と大王製紙グループを一体として支配するという独特な構造に形成されていおり、人事はこの全体の企業集団を一体として行われる。社員はこれらの会社はすべて井川家のものであると意識し、しかも成功した経営者であったので、彼らには絶対的に服従するという企業風土が根付いており、本件発生の基盤となった。 

 

 

■ 本件貸付が早期に発見・防止されなかった理由

調査報告書では、上記原因とともに本件貸付が早期に発見・防止できなかった原因として下記3点を指摘しています。

 

・大株主である役員でもある創業家による権利濫用を防止するという観点から、特段のルール(規程)整備や監査は実施されていおらず、そのような問題意識も希薄であった。

内部統制の目的が、財務報告に関わる内部統制が適正であるか、規定通りに運用されているか、監査法人の監査が適正であると認められることが主体となり、不備の根本原因の解明や改善に向けた取り組みが不十分であった。

・内部通報制度があるが、社内の最終報告社が元会長であるため、通報する動機が働かなかった。

Ⅲ.関係者の責任及び損害の回復

■ 関係者の責任

調査委員会では、当事者である元会長は当然のことながら、その他の関係者の責任においても厳しく言及しています。

主な内容は下記のとおりです。

 

・子会社7社の役職員のうち、貸付直後に大王製紙に貸付事実を報告した3社を除く4社の役職員の責任は重くない。

・早期の段階で事実を把握しながら大王製紙の関連部署への報告を怠るなどして貸付の拡大を防ぐことができなかった関連事業担当取締役や経理担当取締役の責任は重い。同様の関わりをもった顧問の責任も免れない。

・その他、本件貸付を防止すべき任務を十分果たしていたとは評価できない取締役・監査役についても相応の責任がある。

・監査法人の業務には問題がったことから大王製紙として適正な対応をするよう検討すべきである。

 

 

■ 損害の回復

本件貸付の未返済額の合計59億3,000千万の返済時期、金額、方法等については確実な見通しはついていません。返済は現金でなれるのが原則であるが、これまで元会長から大王製紙グループ会社12銘柄の株式が、顧問から30銘柄の株式が事実上の担保として預けれられているとのことです。(時価純資産価額方式で約80億円余りになると元会長は主張)

Ⅳ.提言

最後に調査委員会は、本件の問題の根源を、大王製紙グループにおいて顧問、元会長親子が非常に強い支配権を有しており、トップの指示には当然に従うという体質が出来上がっていたため、トップの不祥事を防止することができなかった点と判断するとともに、このような不祥事の再発を防止するために、井川家が持つ絶対的な支配権を薄め、ガバナンス・コンプライアンスが機能するように改革することが重要であるとの認識のもと以下の提言を行っています。

 

・元会長の責任を明確化するために、元会長を告訴、告発することも検討すべきである。

 

・公正な方法による貸付金の回収の努力をし、被害の回復をはかるべき。

原則として現金による返済を求めるべきであり、特別な事情がある株式を取得する方式を選択する場合でも、第三者の公正な評価を得るなど対価性に疑問が生ずることなように対処すべき。

 

・本件貸付に関与した者、早期発見、防止をなすべき地位にあったのに、その責任を果たさなかった者にして適切な処分を行うべき。

 

・井川家のグループに対する強固な支配権を薄めるために株式保有等を透明化し、その比率を下げる方策を講ずるべき。特に、連結子会社の株式保有割合をオープンにし、親会社である大王製紙の持分比率を過半数以上に高めて支配権を確実にすることを目指すべき。

 

・内部通報制度、コンプライアンス体制について改善すべき。内部通報制度では、外部弁護士を加えるなど仕組みの変更を考慮すべき。

 

監査法人に監査方法を改善することを求めるべきである。

監査法人は、本件貸付について早期に気づいていたにもかかわらず、使途の確認を行わなかった点、元会長との面談を求めながらも使途を確認せず、また、社外監査役のいる監査役会に報告して注意喚起もせず、貸付の拡大を防ぐことができなかった。さらに、連結子会社の監査にも問題が少なくない。

 

・トップの不祥事には社外監査役のチェック機能の発揮が期待されるところ、社外監査役に情報が届かなかった監査役、監査役会が十分に活動できるように体制を整備すべき

 

・取締役会について、社外取締役を選任するなど透明性のある活動ができるよう必要な改善を行うべき。

 

・社員全体の遵法精神を高めるために、社員教育を充実させるべき。

 

 

内部統制コンサルティングに従事する筆者としても実に勉強に、そして考えさせられる調査報告書でした。

内部統制関連の業務に従事される方は、原文も読まれることをお勧めします。

 

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