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1.金融商品取引法の目的
金融商品取引法(以下、「金商法」といいます。)は、第1条(目的)において、以下のとおり規定されています。
「この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行及び金融商品の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする」
上記のとおり、金商法は「国民経済の健全な発展」と「投資者保護」を目的としており、特に「投資者保護」のための各種規制が設けられています。この各種規制は、「企業内容等の開示」、「金融商品取引業を行う者(つまり、金融商品取引業者)への規制」、「金融商品取引所の適切な運営を確保」といった規制が具体的に設けられています。それ以外にも、「資本市場の機能の十全な発揮」のために、インサイダー取引規制や風説の流布の禁止といった規定が設けられ、罰則規定なども整備されています。
ファンド等を組成して資金調達を行う場合、特に開示規制と取引業者規制が関係する規制であり、この部分の理解と運用は欠かせません。本シリーズでは、金商法のうちファンド等の組成・運用に関する部分にスポットを当てて解説していきます。
2.金融商品取引法における有価証券
金商法では、「有価証券」に関する発行や売買、仲介、募集等の様々な行為について整備する法律であることから、「有価証券」について定義されています。「有価証券」に該当しない場合には、金商法の規制対象になりません。このため、例えば、商品を取り扱う場合(小売業など)には金商法の対象になりません。
金商法の有価証券には、第2条1項で定められる「1項有価証券」と第2条2項で定められる「2項有価証券(別名、「みなし有価証券」)の2種類が存在します。1項有価証券と2項有価証券の大きな違いは、規制の度合いです。1項有価証券に該当するものは基本的に広範囲の多くの投資家が参加することを前提としているため、厳しい規制が設けられています。これに比べて、2項有価証券は1項有価証券と比較すれば投資家の参加規模も小さいと考えられているため、より柔軟な金融が可能となるように1項有価証券の比べて規制が緩和されています。
第1項有価証券は、以下のものがあります(金商法2条1項)。
1 | 国債証券 |
2 |
地方債証券
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3 |
特別の法律により法人の発行する債券(次号及び第十一号に掲げるものを除く。)
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4 |
資産の流動化に関する法律に規定する特定社債券
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5 |
社債券(相互会社の社債券を含む。以下同じ。)
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6 |
特別の法律により設立された法人の発行する出資証券(次号、第八号及び第十一号に掲げるものを除く。)
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7 |
協同組織金融機関の優先出資に関する法律に規定する優先出資証券
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8 |
資産の流動化に関する法律に規定する優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
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9 |
株券又は新株予約権証券
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10 |
投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資信託又は外国投資信託の受益証券
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11 |
投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資証券若しくは投資法人債券又は外国投資証券
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12 |
貸付信託の受益証券
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13 |
資産の流動化に関する法律に規定する特定目的信託の受益証券
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14 |
信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券
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15 |
法人が事業に必要な資金を調達するために発行する約束手形のうち、内閣府令で定めるもの
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16 |
抵当証券法に規定する抵当証券
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17 |
外国又は外国の者の発行する証券又は証書で第一号から第九号まで又は第十二号から前号までに掲げる証券又は証書の性質を有するもの(次号に掲げるものを除く。)
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18 |
外国の者の発行する証券又は証書で銀行業を営む者その他の金銭の貸付けを業として行う者の貸付債権を信託する信託の受益権又はこれに類する権利を表示するもののうち、内閣府令で定めるもの
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19 |
金融商品市場において金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従い行う第二十一項第三号に掲げる取引に係る権利、外国金融商品市場において行う取引であって第二十一項第三号に掲げる取引と類似の取引に係る権利又は金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う第二十二項第三号若しくは第四号に掲げる取引に係る権利(以下「オプション」という。)を表示する証券又は証書
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20 |
前各号に掲げる証券又は証書の預託を受けた者が当該証券又は証書の発行された国以外の国において発行する証券又は証書で、当該預託を受けた証券又は証書に係る権利を表示するもの
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21 |
前各号に掲げるもののほか、流通性その他の事情を勘案し、公益又は投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定める証券又は証書
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2項有価証券は、以下のとおりです(金商法2条2項)。
1 |
信託の受益権(前項第十号に規定する投資信託の受益証券に表示されるべきもの及び同項第十二号から第十四号までに掲げる有価証券に表示されるべきものを除く。)
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2 |
外国の者に対する権利で前号に掲げる権利の性質を有するもの(前項第十号に規定する外国投資信託の受益証券に表示されるべきもの並びに同項第十七号及び第十八号に掲げる有価証券に表示されるべきものに該当するものを除く。)
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3 |
合名会社もしくは合資会社の社員権(政令で定めるものに限る。)又は合同会社の社員権
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4 |
外国法人の社員権で前号に掲げる権利の性質を有するもの
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5 |
民法上の任意組合、匿名組合、投資事業有限責任組合又は有限責任事業組合、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、出資者」が出資又は拠出をした金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であって、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)
(イ)出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利
(ロ)出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(イに掲げる権利を除く。)
(ハ)保険契約、共済契約又は不動産特定共同事業契約に基づく権利(イ及びロに掲げる権利を除く。)
(ニ)当該権利を有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利
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6 |
外国の法令に基づく権利であつて、前号に掲げる権利に類するもの
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7 |
特定電子記録債権及び前各号に掲げるもののほか、前項に規定する有価証券及び前各号に掲げる権利と同様の経済的性質を有することその他の事情を勘案し、有価証券とみなすことにより公益又は投資者の保護を確保することが必要かつ適当と認められるものとして政令で定める権利
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5号の規定がいわゆる「集団投資スキーム持分」と呼ばれるものであり、本シリーズで紹介していた組合型ファンドなどが該当します。集団投資スキーム持分は、投資家から金銭等を集め、それをもとに投資や事業を行い、そこから得られた利益を投資家に分配するものを総称しており、特定の法律によって組成されたスキームに限定していません。金商法が「投資家保護」を前提としている以上、ファンドの根拠法が何かが重要ではなく、投資家を保護すべきと考えられるスキームをすべて規制対象とすることを目指して、5号の規定が設けられています。
3.金融商品取引法における「募集」と「私募」
金商法上の規制を理解する上で、「募集」と「私募」の違いについて理解しておくことが重要です。
簡単に説明すると、「募集」は多数の投資家に取得勧誘する場合に該当するもので、「私募」は募集に該当しない場合の取得勧誘となります。
募集は、1項有価証券の発行の場合と2項有価証券の発行の場合で規定が異なります。
1項有価証券の場合、50名以上を相手方として取得勧誘を行う場合、募集に該当します。金融機関など投資のプロで投資家保護の対象として考える必要のないいわゆる「適格機関投資家」(後述する「金融商品取引法(適格機関投資家等特例業務)」の2.「金融商品取引法における適格機関投資家等」を参照)は、このカウントに含めません。ただし、適格機関投資家から一般投資家へ有価証券が譲渡される可能性のある場合には、潜在的に一般投資家が存在することになるため、「適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれのある場合」には募集に該当することになります。また、同様の理由で、一次取得者が50名未満であっても、そのあと多数の者に譲渡される可能性がある場合にも募集に該当します。
1項有価証券の場合で、適格機関投資家を対象としている場合には募集に該当しないことから、「プロ私募」と呼ばれています。また、50名未満に対して行われる場合には「少人数私募」という言い方をしています。別シリーズ「資金調達」で解説している「少人数私募債」はまさにこれに該当します。
2項有価証券の場合では、その取得勧誘に応じることにより相当程度多数の者が当該取得勧誘に係る有価証券を所有することとなる場合として、500名以上が所有する場合に募集に該当するものとしています(金商法2条3項3号)。2項有価証券の場合は、1項有価証券のような「勧誘者数」ではなく「所有者数」によって判断することなります。
4.金融商品取引法における「売出し」
金商法における「有価証券の売出し」とは、既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込みの勧誘のうち、1項有価証券と2項有価証券で以下のものとなります。
1項有価証券 | 2項有価証券 |
均一の条件で多数の者(50名以上)の相手方として行う場合 | 売付け勧誘等に応じることにより、当該売付け勧誘等に係る有価証券を相当程度多数の者(500名以上)が所有することとなる場合 |
募集は、新たに有価証券を発行する場合で、例えば、新株発行の場合に該当するものいいます。一方で、売出しは既に発行されている有価証券、つまり、誰かが保有している有価証券を売却する場合に該当するものです。
この場合、通常の株式売買において、株式保有者が取引所などで株式を売却する場合にも「売出し」に該当するのではないかとの問題が生じますが、これをもって開示規制の対象とすると過度の規制であると考えられることから、取引所金融商品市場における有価証券の売買及びこれに準ずる取引その他の政令で定める有価証券の取引に係るものは除くものとされています(金商法2条4項括弧書き)。
5.金融商品取引法における開示制度(適用除外有価証券)
金商法は、投資者保護の観点から、有価証券の発行者に対して企業内容の開示義務をかけており、投資者が投資対象について適切に判断できるようなインフラを整備しています。しかし、すべての有価証券の発行に際して企業内容の開示義務を負わせると、発行者側にとって負担が重くなり、投資家も利回りがその分減少することから、金商法上で開示制度を整備しています。以下は、適用対象外となる有価証券です。
1 |
第二条第一項第一号及び第二号に掲げる有価証券 ⇒ つまり、国債と地方債
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2 |
第二条第一項第三号、第六号及び第十二号に掲げる有価証券(企業内容等の開示を行わせることが公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして政令で定めるものを除く。) ⇒ つまり、特殊法人債や貸付信託受益証券など
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3 |
第二条第二項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利(次に掲げるもの(第二十四条第一項において「有価証券投資事業権利等」という。)を除く。) ⇒つまり、みなし有価証券
(イ)第二条第二項第五号に掲げる権利のうち、当該権利に係る出資対象事業が主として有価証券に対する投資を行う事業であるものとして政令で定めるもの
(ロ)第二条第二項第一号から第四号まで、第六号又は第七号に掲げる権利のうち、イに掲げる権利に類する権利として政令で定めるもの
(ハ)その他政令で定めるもの
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4 |
政府が元本の償還及び利息の支払について保証している社債券 ⇒つまり、政府保証債
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5 |
前各号に掲げる有価証券以外の有価証券で政令で定めるもの
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金商法の開示規制の対象となる有価証券は、原則的に1項有価証券であり、2項有価証券については開示制度の対象外とされています(金商法3条3号)。ただし、その出資額の100分の50を超える部分を有価証券に対する投資を行うスキームである場合には、開示対象の有価証券としています(金商法施行令2条の9)。これにより、一般事業を行うために組成されたTK-GKスキームのような場合には、適用対象外有価証券として開示対象から除外される有価証券となります。
6.金融商品取引法における開示制度(届出等)
有価証券の募集又は売出しに該当する場合、原則として「有価証券届出書」又は「発行登録書」を内閣総理大臣に提出しなければなりません(金商法5条、23条の3)。また、その概要が記載されている「目論見書」を作成する必要もあります(金商法13条)。なお、発行価額又は売出価額の総額が1億円未満の募集又は売出しの場合は規模が小さいため、有価証券届出書の作成は必要ありません。もちろん、適格機関投資家等への私募などは「募集」に該当しませんので特に必要ありません。
作成・提出方法は、各内閣府令により詳細に規定されており、作成すべき資料は膨大で、コストが高いのが一般的です。このため、大型のファンド組成を除けば、有価証券届出書の提出義務が発生しないように、募集には該当しない(つまり私募となるように)設計するのが一般的です。組合型ファンドなどを利用する場合には、2項有価証券として「500名以上の所有」が募集に該当する事項ですので相当程度の規模にならないと有価証券届出書の提出規制となりませんが注意は必要です(主として有価証券への投資を行わない2項有価証券は適用除外有価証券であるため募集かどうかは気にする必要はありません)。
有価証券届出書と似たもので「有価証券通知書」というものがあります。これは、募集に該当するものの例外として有価証券届出書の提出が免除された場合に提出しなければならないもので、行政監督庁として実態を把握するために提出を求める資料になります。有価証券届出書が投資家保護の観点から公衆縦覧されるのに対し、有価証券通知書は一般に開示されることはありません。
一方で、転売規制等のスキーム設計により私募に該当するよう設計した場合、転売規制等の事実を取得勧誘の相手方に知らしめる必要があることから、有価証券届出書が提出されていない旨や転売規制がある旨などを相手方に告知することが定められています(金商法23条の13)。ただし、総額が1億円未満であれば不要となります。
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