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1.組合型のビークル(Vehicle)について
いわゆる「組合型」と呼ばれる投資ビークル(Vehicle)の最大の特徴は、“パススルー税制”が挙げられます。
パススルー税制とは、ビークルそのものに課税されることなく、ビークルへの資金提供者である組合員に対して課税されることです。「組合」は、それ自体に法人格が与えられていないため、税務上において法人税が課税されることは基本的にあり得ず、結局は個々の組合員自体に課税されることとなります。
このため、投資ビークルにおいて多額の損失が発生するような組成が行われていた場合、組合員はビークルから発生する損失を取り込むことが可能となります。一昔前には、租税回避目的として、裕福層投資家向けに任意組合を用いた航空機、船舶等への投資商品が売られていました。これは、航空機や船舶を保有するビークルを組成し、ビークル上で多額の減価償却費(定率法を用いるのが一般的)を計上し、ビークルで発生した純損失を組合員がを取り込み、他の損益と通算することで課税所得を下げるといった手法です。 現在では、税制改正により、後述する通り、この純損失の取込は一部制限が行われています。
ただ、上記のようなパススルー税制のメリットは大きく、こうしたメリットを享受するために組合型のビークルは様々な場面で用いられます。まずは、民法上の任意組合について特徴を確認し、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合、商法上の匿名組合と確認していきます。これらのビークルは組合型ビークルとしての同じ特徴を持ちつつも、組合員の責任制度、組合員の匿名性に大きな相違点があり、ファンドのスキーム組成ではこれら特徴点を考慮して投資ビークルを選択することとなります。
2.民法上の任意組合における法務
民法上の任意組合は、民法667条から688条に規定されています。
組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生じます(民法667条1項)。出資は、労務をその目的とすることができます(同条2項)。各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属します(668条)。法人格を有していないため、当然に組合員の共有となります。これは、法人格を有していない他の組合型ビークルで共通します。
民法上の任意組合の最大の特徴は、組合員全員が無限責任組合員である点です。原則として、組合の業務の執行は、組合員の過半数で決します(670条1項)。ただ、実務的には業務執行者を選任し、これに業務執行を委任します(670条2項)。つまり、組合員の中に、業務上の意思決定を行う業務執行組合員と資金提供のみ行う投資家的組合員に分かれています。それでも、対外的には組合員全員が無限責任組合員として無限責任を負うことになります。
このため、民法上の任意組合は他の組合型ビークルに比べて、投資家は資金提供しづらいものとなります。ただし、有限責任事業組合や投資事業有限責任組合のような投資対象の制限等がない点や組成そのものが非常に容易である点が有利であると考えられます。また、任意組合は登記制度が採用されていないことから、秘匿性が高いビークルとも言えます。なお、組合員同士は組合契約において他の組合員を知ることができることから、商法上の匿名組合とは異なります。
3.民法上の任意組合における会計(投資サイド)
民法上の任意組合における投資サイド(投資家的組合員)の会計処理は、金融商品会計基準(主に、会計制度委員会報告14号「金融商品会計に関する実務指針」)に従うことになります。会計制度委員会報告14号によれば、「任意組合すなわち民法上の組合、匿名組合、パートナーシップ、及びリミテッド・パートナーシップ等(以下、「組合等」という。)への出資については、原則として、組合等の財産の持分相当額を出資金(金融商品取引法第2条第2項により有価証券とみなされるものについては有価証券)として計上し、組合等の営業により獲得した損益の持分相当額を当期の損益として計上する。ただし、任意組合、パートナーシップに関し有限責任の特約がある場合にはその範囲で損益を認識する」と規定しています。
これによれば、原則として、会計処理はいわゆる「純額方式」を採用することが示唆されています。会計処理の方法としては、「純額方式」「総額方式」「中間方式」の3つが存在します。
「純額方式」は、財産計算と損益計算がともに純額処理されているものです。すなわち、財産計算ではビークルの認識する資産から負債を差し引いた純資産の持分相当額を計上し、損益計算でも収益から費用を差し引いた純利益(ないし純損失)の持分相当額を計上する方法です。
「総額方式」は、財産計算と損益計算がともに総額で計上されるものであり、資産・負債、収益・費用がそれぞれ取り込まれることになります。
「中間方式」は、財産計算は純額で計上される一方、損益計算は総額で計上される方式です。
民法上の任意組合の財産は組合員による共有であることを考えると総額方式が適しているようにも思われますが、純額方式が原則として採用されるのは、投資家的組合員にとって単なる資金運用の一環で組合への投資が行われているという経済的実態を考えると、通常の株式投資において純資産である株式価値のみを有価証券として計上することと同様であると考えられます。場合によっては投資家的組合員ではなく、実質的に業務執行組合員として考えられる場合もあり、こうした場合には総額方式を採用することも考えられます(会計制度委員会報告14号308項)。
また、組合員が有限責任組合員となるような特約がある場合には、投資額までしか損益を認識する必要がないため、「その範囲で損益を認識」すれば足りることになります。
4.民法上の任意組合における連結上の取扱い
民法上の任意組合における投資サイドの会計処理として、もう1つ留意すべき事項は連結上の取扱いです。
連結の範囲については、企業会計基準適用指針22号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」に従って検討されることになります。
日本基準における連結範囲の特徴は、支配力基準と影響力基準を採用していることです。すなわち、支配力が認められる関係にある場合、支配している企業は支配されている企業を子会社として連結の範囲に含め、また、支配まではしてないまでも影響力を及ぼしている場合には、関連会社として持分法を適用する形で連結の範囲に含める処理を行います。
この場合、「企業」とは「会社及び会社に準ずる事業体をいい、会社、組合その他これらに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)を指す」(適用指針22号5項)として、会社に限定されず、組合なども含まれることが明記されています。このため、任意組合においても、ある任意組合をある企業が支配していると認められる場合もしくは影響力があると認められる場合には、当該任意組合を連結の範囲に含める必要があります。
ところで、任意組合をはじめとする投資事業組合は、一部の実務において連結範囲から除外されることが行われていたことから、組合形態であっても連結の対象となることを明確にすることを目的に、実務対応報告20号「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」が公表されています。これは、投資事業組合は、通常の株式会社のような株式による議決権比率の概念がないため、「業務執行組合員による執行権限」というものに置き換えて明確に規定しているものです。
任意組合の場合、基本的に組合員全員が無限責任組合員ですが、業務執行組合員を契約上で決定し、当該業務執行組合員の過半数をもって業務執行される場合に、業務執行を決定する権限全体のうち、どれほどの割合を自己の計算において有しているかが連結範囲の判定のポイントとなります。
5.民法上の任意組合における会計(任意組合自体)
任意組合そのものの会計処理方法は特別な規定は存在せず、組合員同士の合意のもとで行われることになります。実務的には、任意組合契約において会計処理方法についての規定を設け、それに従って会計処理されますが、詳細な規定は設けることなく、「一般に公正妥当と認められる会計基準」に従って業務執行者が財産目録や損益計算書等の財務諸表を作成することで解決されています。
このため、組合員全員が非上場企業や個人投資家で構成されている場合には、税務上問題とならないような処理が行われたり、業務執行組合員の責任を明確化させるための業績が反映された会計処理が採用されたりすることになります。
一方で、組合に上場企業が参加する場合には、会計制度委員会14号に規定されるとおり、組合員が組合財務諸表を自らの財務諸表に組み込むときに、組合財務諸表も金融商品会計基準をはじめとする企業会計基準に適合したものを組み込む必要があります。このため、組合財務諸表を作成する業務執行組合員は金融商品会計基準に従った処理をした組合財務諸表を作成する必要があります。
多くの実務では、投資ビークルに精通した会計事務所に税務だけでけでなく、会計に関してもアウトソーシングすることで、その組合に適した会計処理方法によって組合財務諸表を作成することで対応が図られています。
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