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1.はじめに
シリーズ4では、設立時資本金をいくらにすべきかについて多角的に検討してみます。
改正前商法では、株式会社の資本金は1,000万円を下回ってはならないとする最低資本金制度が存在していました(改正前商法168条の4)。しかし、新規事業の創出、経済活動の活性化等の目的のため、現行の会社法では最低資本金制度は廃止され、資本金1円でも株式会社を設立することができるようになりました。
ただ、資本金の金額は、事業を行う元手であり、また対外的な信用を示す1つの指標になるため、法の求める最低金額(すなわち1円)でいいというものでもありません。また、資本金の金額は税法において計算の基礎となる事項でもありますので、節税対策の観点からは、それ程大きな金額ではない方が望ましいと考えられます。
本シリーズでは、費用対策の観点から、税法を中心に横断的に確認していきます。なお、繰り返しになりますが、資本金は事業展開も含めた総合的な視点から考えるべきものですので、コスト削減だけを目的に資本金額を決定することは避けた方がいいと考えられます。
2.法人税による規定
(1)交際費の損金算入限度額
会社が支出する交際費等は、会計上は費用とされますが、法人税法上は損金算入が制限されています。しかし、交際費等の損金算入を無制限に認めると、いたずらに法人の冗費・濫費を増大させるため、資本金が1億円を超す法人には交際費等の損金算入を認めていません。これに対して、資本金が1億円以下の法人については、事業活動の活性化を促進するという趣旨のもと、一定額の損金算入を認めています。
具体的には、期末の資本金が1億円を超す法人では、交際費等の全額が損金不算入となるため、税務上のメリットはありません。それに対して、期末の資本金が1億円以下の法人では、年間の交際費等が400万円までの場合は、支出した交際費等の額×90%の損金算入が認められ、また、年間の交際費等が400万円を超える場合は、400万円×90%=360万円の損金算入が認められます(租税特別措置法61条の4)。なお1人当たり5,000円以下の飲食費(社外関係者との飲食費に限る)については、支出交際費の額に含めず損金とすることができます(同条)。
(2)法人税率の計算
法人税の金額は、益金から損金をマイナスして課税所得を計算し、それに法人税率を掛けて求められます。この法人税率も、資本金の額によって違いが生じます。
資本金が1億円を超す法人では、課税所得の30%が法人税とされます。それに対して、資本金が1億円以下の法人では、所得金額が800万円までの部分には22%の法人税率が適用され、800万円を超える部分について30%の法人税率が適用されます(法人税法66条)。
会社規模
|
交際費
|
法人税率
|
---|---|---|
1億円超
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全額損金算入
|
税率は30%の税率を適用
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1億円以下
|
|
|
3.住民税の規定
法人住民税は、企業の事業活動に対して課される税金の一つであり、「均等割」と「法人税割」から構成されています。均等割は、法人の所得金額の多少にかかわらず、資本等の金額に応じて計算されます。また、法人税割は、会社の所得に応じて課税される税金で、法人税額を基礎として、都道府県民税および市町村民税(東京都23区の場合は両方を合算して都民税)が計算されます。現行の税率は、都道府県民税が5%、市町村民税が12.3%で、合計17.3%となっています。以下では、資本等の金額に応じて変動する均等割について考えてみましょう。
都道府県民税均等割は、資本等の金額に応じて決まります(地方税法23条以下)。また、市町村民税均等割は、従業員数に応じて決まります(地方税法292条以下)。下記の一覧表を見てわかるように、資本等の額が1,000万円以下で従業員数が50人以下の場合に、最も税額が低くなります。
資本等の額 | 都道府県民税 均等割 | 市町村民税均等割 | |
---|---|---|---|
従業員数50人超 | 従業員数50人以下 | ||
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
10億円超50億円以下 | 54万円 | 175万円 | |
1億円超10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 16万円 |
1千万円超1億円超 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1千万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
4.事業税の規定
事業税は、事務所または事務所のの所在する都道府県によって課される地方税です。事業税は、平成15年度の税制改正以前は、所得金額(一部の業種では収入金額)に基づいて課税がなされていましたが、同年の税制改正で、外形標準課税が導入されました。
そもそも事業税は、事業を展開するために各種の行政サービスを利用しているから、住民税とは別に「事業」に対して課税をすることを目的として創設された税金になります。このため、所得金額が如何にかかわらず、事業展開している会社規模に応じて課税すべきではないか(すなわち外形標準課税)、ということが平成15年税制改正以前から言われていました。こうした中で、バブル経済の崩壊とともに赤字企業が増加し、地方税の大きな財源であった事業税が激減したことから、事業税の外形標準課税の導入されることになりました。ただし、中小零細企業の経営状態を考慮して、資本金1億円超の会社に限定して導入することとなりました。
資本金が1億円超の会社に対しては、付加価値割・資本割・所得割という3つの税額計算から事業税を算出します。一方、資本金が1億円以下の会社は所得割のみとなります。このため、資本金額が1億円以下の会社は、付加価値割や資本割といった外形標準課税は負担しません。ただし、資本金が1億円超の会社の所得割の税率が7.2%(年所得額800万超)、5.5%(400万円超800万円以下)、3.8%(400万円以下)となっているのに対し、資本金が1億円以下の会社における所得割の税率は、9.6%(年所得額800万超)、7.3%(400万円超800万円以下)、5%(400万円以下)となっており、一概にどちらが有利とは言い切れません。
資本金額 | 付加価値割 | 資本割 | 所得割 | ||
---|---|---|---|---|---|
800万円超 | 400万円超 800万円以下 | 400万円 以下 |
|||
1億円超 | あり | あり | 7.2% | 5.5% | 3.8% |
1億円以下 | なし | なし | 9.6% | 7.3% | 5% |
5.消費税の規定
わが国では現在、すべての財やサービスの消費を課税対象として、それぞれの事業者の取引金額に対して5%の消費税が課されます。ちなみに5%の内訳は、国税4%と、国税に対する25%の地方消費税(つまり1%)となっています(消費税法29条)。
消費税は、課税売上高が1,000万円を超えたら、翌々年度より納税義務が生じます。ただし、資本金1,000万円以上の株式会社を設立した場合、設立第1期目から消費税の申告納税義務が生じます。それに対して、資本金1,000万円未満の株式会社を設立した場合、設立より2年間は消費税の申告納税義務はありません。なお、資本金が1,000万円以上の会社であっても、第3期目以降は前々年度の課税売上が1,000万円以下である場合には、免除事業者となります。
6.登録免許税の規定
株式会社を設立するためには、管轄の法務局で設立登記をする必要があります。その際に、登録免許税という費用が発生します。登録免許税は原則として資本金の0.7%ですが、計算した額が15万円未満の場合には、一律に15万円となります。つまり、資本金が21,428,572円以上になると登記免許税が15万円を超えることになります。
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