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1.はじめに
本シリーズ5では、内部統制に関係を有する者の役割と責任について解説します。内部統制は、組織構成員の全員が、それぞれの立場で整備・運用していく責任を有しています。内部統制は、経営者が1人で構築・運用していくものではなく、組織構成員全員で整備・運用していくものです。ただし、それぞれのポジションの人に過大に責任を負わせることは適切ではなく、ポジションの権限に見合った形で、内部統制に関与していく(させていく)ことがポイントとなります。
2.内部統制に関係を有する者の役割と責任
内部統制は、会社内部に作られた仕組みで、社長をはじめとする組織内部の人間がこの仕組みを適切に運用することで、内部統制の目的が達成されます。
ここで、組織内部の人間が、それぞれの立場においてそれぞれの役割と責任を履行する必要があります。具体的に、組織内部の人間として、①経営者、②取締役会、③監査役・監査役会、④内部監査人、⑤組織内のその他の者に分類して考える必要があります。実際は、もっと細かく部長、課長、係長・・・という風にそれぞれの職務のレベルに合わせた役割と責任を考えていく必要がありますが、ここでは部長以下の人たちを⑤にまとめて考えることとします。
それぞれの職域の人とその役割を簡単にまとめると次のようになります。
≪職責の役割のまとめ≫
職域
|
役割
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---|---|
経営者 | 最終的な責任者として、内部統制を整備及び運用する役割と責任がある。 |
取締役会 | 内部統制の基本方針の決定と経営者による内部統制の整備及び運用に対する監督責任がある。 |
監査役 | 独立した立場から、内部統制の整備及び運用状況を監視、検証する役割と責任がある。 |
内部監査役 | モニタリングの一環として、内部統制の整備及び運用状況を検討、評価し、必要に応じてその改善を促す職務を担っている。 |
組織内のその他の者 | 自らの業務との関連において、有効な内部統制の整備及び運用に一定の役割を担っている。 |
以下では、それぞれの職域の人の役割と責任について具体的に解説していきます。経営者は、それぞれの立場における責任と役割を十分に理解して、それぞれの立場に見合う内部統制を構築する必要があります。特に、取締役会、監査役等における内部統制への係わりは、全社的な内部統制に影響を大きく与えるため、これらが十分なガバナンス機能を有しているのか、配慮する必要があると言えます。
(1)経営者
まず、経営者は、組織を代表し(会社法349条)、業務を執行する権限を有するとともに、取締役会による基本方針の決定を受けて、組織の内部統制を整備及び運用する役割と責任を負っています。また、会社の代表者として有価証券報告書を提出する立場にあるため、開示書類の信頼性に係る最終的な責任を負わなければなりません。内部統制報告制度においても、内部統制報告書を代表者が提出ことになっているので、財務報告に係る内部統制の整備及び運用について適正に評価・報告することが求められています。
したがって、経営者はその責任を果たすために、社内組織を通じて内部統制の整備及び運用を行うことになるのです。実務的には、経営者が中心となって、J-SOX対応プロジェクト・チームなどを組成して、内部統制の構築・評価業務を実施していくことになります。この内部統制プロジェクトは全社的(もしくは、子会社を含めた企業集団的)に取り組まなければならない課題であるため、トップのリーダーシップを強く発揮することが求められます。
また、経営者の内部統制に対する態度は、組織内のいずれの者よりも、統制環境に係る諸要因及びその他の内部統制の基本的要素に影響を与える組織の気風の決定に大きな影響力を持っているので、経営者の内部統制に対する役割と責任は制度的なものにおける責任論だけでなく、内部統制の構築に大きな影響力があると考えられます。
(2)取締役会
取締役会は、組織の業務執行に関する意思決定機関であり、内部統制の基本方針を決定します(会社法362条6項、416条1項1号ホ)。また、取締役会は、経営者の職務執行に関する監督機関でもあり、経営者を選定及び解職する権限を有するため(会社法362条2項、416条、420条)、経営者がしっかりと内部統制の整備及び運用を行っているかチェックする責任があります。
取締役会の内部統制に関する責任は会社法上で明文化されましたので、(会社法362条4項6号、416条1項1号ホ)、もしこの義務を履行していない場合には、会社に対する任務懈怠責任(会社法423条)や第三者に対する責任(会社法429条)が追及される可能性が高くなったと考えられます。
また、取締役会は、「全社的な内部統制」の重要な一部であるとともに、「業務プロセスに係る内部統制」における統制環境の一部であります。このため、経営者とともに統制環境へ大きな影響を与えるとともに、全社的な内部統制の基本方針の策定、経営者を含む業務執行者への監督・監視という点で「全社的な内部統制」の重要な一部を担うことになります。
(3)監査役、監査役会、監査委員会
監査役、監査役会、監査委員会(以下、「監査役等」という。)は、取締役等の職務の執行を監査する責任を有しております(会社法381条1項、404条2項1号)。ここで、監査役等は、会計監査を含む、業務監査を行うとされています。このため、特に会計領域に限定されず、監査役等の監査は、財務報告の信頼性確保に係る内部統制だけでなく、内部統制全体が適切に整備・運用されているかを監査することになります。この結果、監査役等は、内部統制の整備及び運用状況を監視、検証する役割と責任を有していることになります。
監査役等は、取締役の職務の適正性を監視する立場にあるため、経営者レベルにおける内部統制の整備及び運用状況を、統制環境、モニタリング等の一部として、内部統制に影響を与えることになります。
(4)内部監査人
内部監査人は、内部統制の整備及び運用状況を調査、検討、評価し、その結果を組織内の適切な者に報告し、改善を促す職務を担っています。内部監査人は、経営者の直属として設置されることが多く、内部統制の独立評価において重要な役割を担っています。ここで、内部監査人は、内部監査の対象となる業務や部署などから独立した立場にないと、適切な監査が実施できないので、経営者は、内部監査人の身分等について、その業務や部署に対して直接の権限や責任を負わない状況を確保する必要があります。また、経営者への適時・適切な報告体制の構築も必要です。これは、内部監査人の業務そのものが内部統制であるため、モニタリング体制だけでなく、情報と伝達についてもしっかりと基本要素として持っている必要があるのです。
実務的な見地からすれば、既に存在する内部監査部の中に、内部統制プロジェクト・チームを組成して、そこが内部統制における内部監査人となるケースが多いと考えられます。J-SOXスタート時には、文書化をはじめとする構築業務も担っているため、内部監査だけに特化している方は少ないと考えられます。
(5)組織内のその他の者
最後に、組織内のその他の者は、自らの業務との関連において、有効な内部統制の整備及び運用に一定の役割を担っています。取締役会や経営者が決定した具体的な統制活動は、会社内部の全員が適切に遂行することで内部統制の目的が達成されますし、日常的モニタリングを通じて、より有効な内部統制への改善が行われるのです。このため、対外的な最終責任は経営者が持つとしても、組織構成員全員が有効な内部統制の整備及び運用にその与えられた職責の中で責任を有していると言えます。
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