現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。
(平成23年5月16日現在)
5-1.事業モデル・テストの判定方法
前項で確認した通り、償却原価測定資産に分類するためには、まず、金融資産の管理に関する企業の事業モデル(business model)が次の条件に該当している必要があります(IFRS9.4.1.2(a))。
[金融資産の管理に関する企業の事業モデルの条件]
- 契約上のキャッシュ・フローを回収するために資産を保有することを目的とする事業モデルに基づき、資産を保有していること。
企業は、自らの金融資産がこの条件を満たしているかどうかについて、企業の経営幹部(key management personnel)が決定した事業モデルの目的に基づいて、評価しなければなりません(IFRS9.B4.1.1)(ここにいう「経営幹部」はIAS第24号「関連当事者についての開示」で定義されている)。
この条件は、個々の金融商品ごとに分類を考えるアプローチではなく、より高い全体のレベルで判断されます。しかし、単一の企業が金融商品の管理に関して複数の事業モデルを有していることもあり、分類を報告企業レベルで判断する必要はありません。例えば、企業は、契約上のキャッシュ・フローを回収するために管理している投資ポートフォリオと、トレーディング目的で管理している別の投資ポートフォリオの両方を保有している場合もあり、この場合それぞれの事業モデルを判断することになります(IFRS9.B4.1.2)。
[事業モデルの判断レベルのまとめ]
- 個々の金融商品ごとに判断するのではなく、より高い全体レベルで判断。
- ただし、単一企業でも複数の事業モデルを構築していることもあり、報告企業レベルで判断するわけではない。
また、企業の事業モデルの目的が、契約上のキャッシュ・フローを回収するために金融資産を保有することであるとしても、企業はそれらの金融資産のすべてを満期まで保有する必要はありません。すなわち、企業の事業モデルの判断において、金融資産の売却が直ちに影響を与えるわけではありません。IFRSでは、こうした金融資産を売却する例として、次のようなものをあげています(IFRS9.B4.1.3)。
[金融資産を売却するケース]
- 金融資産がもはや企業の投資方針に合致しなくなった場合(例えば、資産の信用格付けが企業の投資方針で求めている格付けを下回った場合)。
- 保険会社が予想デュレーション(すなわち、保険金支払が予想される時期)の変動を反映するために投資ポートフォリオを調整する場合。
- 資本的支出に関する資金調達をする必要がある場合。
しかし、ポートフォリオから稀とはいえない回数(infrequent number)の売却が行われる場合には、企業は、そうした売却が契約上のキャッシュ・フローを回収するという目的と整合しているかどうか、また、どのように整合しているかを評価する必要があります(IFRS9.B4.1.3後段)。1度や2度の金融資産の売却があったからといって、それが契約上のキャッシュ・フローを回収することを目的としていないと言い切れないとしても、度重なる売却があった場合には、公正価値変動による損益を獲得することが目的ではないかと考えられることは十分にあり、想定している事業モデルと実際の保有状況・運用状況との整合性を確認する必要があると言えます。
5-2.事業モデルの判定の具体例
IFRS第9号付録では、企業の事業モデルの目的の具体的な判断例が提供されています(IFRS9.B4.1.4)。
(i) 特定の状況による売却
企業は契約上のキャッシュ・フローを回収するために投資を保有するが、特定の状況で投資を売却する場合がある。
⇒事業モデルは契約上のキャッシュ・フローを回収するために金融資産を保有している。
この場合、企業は、種々の情報の中で、流動性の観点から金融資産の公正価値を考慮するかもしれませんが、企業の目的は、金融資産を保有し、契約上のキャッシュ・フローを回収することです。何回かの売却が行われても、事業モデルが契約上のキャッシュ・フローを回収するために金融資産を保有するという目的とは矛盾しません。
(ii) 信用損失がすでに発生している貸出金ポートフォリオの購入
企業の事業モデルは、貸付金のような金融資産のポートフォリオを購入することである。そうしたポートフォリオには、発生済みの信用損失を伴う金融資産が含まれている場合もあれば、含まれていない場合もある。貸付金に対する支払が期日どおりに行われない場合には、企業は様々な方法(例えば、債務者とメール、電話その他の方法で連絡をとること)により、契約上のキャッシュ・フローを回収しようと試みる。また、しばしば、企業は、ポートフォリオにおける特定の金融資産における利息を変動金利から固定金利に変換する金利スワップを締結する。
⇒事業モデルは契約上のキャッシュ・フローを回収するために金融資産を保有している。
企業の事業モデルの目的は、金融資産を保有し、契約上のキャッシュ・フローを回収することです。企業は、ポートフォリオを売却して利益を得るために当該ポートフォリオを購入するわけではありません。 企業が契約上のキャッシュ・フローのすべてを受領すると予想していない(例えば、金融資産の一部に信用損失が発生している)としても、同じ分析が当てはまります。
さらに、企業がポートフォリオのキャッシュ・フローを修正するためにデリバティブを契約したという事実そのものは、企業の事業モデルを変更するものではありません。ポートフォリオが公正価値ベースで管理されていない場合には、事業モデルの目的は、契約上のキャッシュ・フローを回収するために資産を保有することである可能性が考えられます。
(iii) 連結レベルでの検討の場合
企業が、消費者に貸付けを行い、その後それらの貸付金を証券化ビークルに売却するという目的の事業モデルを有しているとする。証券化ビークルは投資家に金融商品を発行する。 当該企業は、証券化ビークルを支配しているため、証券化ビークルを連結する。 証券化ビークルは、貸付金から契約上のキャッシュ・フローを回収し、投資家に分配する。
なお、貸付金は証券化ビークルにより認識の中止とされていないため、連結財政状態計算書に認識され続けると仮定する。
⇒事業モデルは契約上のキャッシュ・フローを回収するために金融資産を保有している。
連結グループは、契約上のキャッシュ・フローを回収するために貸付金を保有するという目的で、貸付けを行っています。
しかし、当該企業の個別財務諸表では異なります。当該企業は、証券化ビークルに貸付金を売却することにより貸付金ポートフォリオに係るキャッシュ・フローを実現させるという目的を有しています。したがって、証券化ビークルであるSPEにとっての事業モデルは契約上のキャッシュ・フローを回収するために保有しており、連結財務諸表上ではそのように判断されるとしても、当該企業では、個別財務諸表では、企業がこのポートフォリオを契約上のキャッシュ・フローを回収するために管理しているとは考えられず、売却を目的として貸付金ポートフォリオを保有しているといえます。
(iv) 公正価値変動の実現のためのポートフォリオ
企業が、信用スプレッド及びイールド・カーブの変動から生じる公正価値の変動を実現させるために、資産のポートフォリオを積極的に管理している。
⇒事業モデルは契約上のキャッシュ・フローを回収するために金融商品を保有していない。
公正価値による損益を実現するため活発な売買を生じさせることが予想され、この事業モデルは契約上のキャッシュ・フローを回収するために金融商品を保有しているとは考えられません。
(v) 公正価値に基づいて管理と業績評価が行われているポートフォリオ
公正価値に基づいて管理と業績評価が行われている金融資産のポートフォリオを保持している。
⇒事業モデルは契約上のキャッシュ・フローを回収するために金融商品を保有していない。
ポートフォリオが公正価値で管理されていたり、ポートフォリオの業績評価が公正価値で管理されているような場合には、公正価値の変動を実現するためにポートフォリオを管理していると考えられます。このため、契約上のキャッシュ・フローを回収するために保有されているとは考えられません。なお、トレーディング目的保有(held for trading)も同様です。
現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。