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(平成23年5月16日現在)
4-1.例外的プッタブル金融商品と例外的清算時償還金融商品の取扱い
「プッタブル(プット可能な)金融商品」(puttable financial instrument)とは、現金又は他の金融資産と交換に当該金融商品を発行者に売り戻す権利を保有者に与えているか、あるいは不確実な将来の事象又は当該金融商品の保有者の死亡若しくは退職が発生した時に発行者に自動的に売り戻される金融商品をいいます(IAS32.11)。2008年2月の改訂前のIAS第32号では、プッタブル金融商品は金融負債の定義を満たすため、金融負債に分類されていました。
オープン・エンド型ミューチュアル・ファンドやユニット・トラスト、パートナーシップ及び一定の協同組合などの事業体の財務諸表において、これらの事業体はユニットの保有者又は構成員に対して、いかなる時点でも現金で発行体に対する持分の償還を受ける権利を与えることが多いため、本来は資本的性質のものが金融負債として負債に計上されることになります。集団投資スキームを用いた投資ファンドなども活動期間が限定されているものもあり、この結果、事業体にとってはその清算時点ですべての資産を分配しなければならないという債務を有することで金融負債として分類されていました。
しかし、このような持分が金融負債に分類されるとなると、公正価値が増大した場合、会計上の損失を計上し、逆に公正価値が減少した場合、会計上の利益を計上するといった問題や持分保有者への配当がすべて費用計上されるといった問題が生じることになります。
この問題を解決するために、2008年2月のIAS第32号改訂版では、例外的プッタブル金融商品や例外的清算時償還金融商品の資本分類が規定されることになりました。
[例外規定の概要]
- プッタブル条項によって金融負債へ分類されることを阻止する規定 ⇒ 例外的プッタブル金融商品
- 時限的清算条項によって金融負債へ分類されることを阻止する規定 ⇒ 例外的清算時償還金融商品
これらの2つの例外規定には、「他のすべてのクラスの金融商品に劣後する」ことが求められており、通常の金融商品で求められる「それ自体の、その商品だけの契約内容による分類」という前提とは異なります(このため、IASBメンバーには正式に反対を表明している者もいます)。
なお、例外的プッタブル金融商品もしくは例外的清算時償還金融商品に該当しなかったために金融負債として分類された場合であっても、財務諸表の開示では、株主資本を持たない事業体(一部の投資信託やユニット信託など)の財務諸表で、「投資者が利用可能な純資産価値」や「投資者が利用可能な純資産価値の変動」といった科目名を使用すること、あるいは、会員の持分の合計が、資本の定義を満たす剰余金等の項目と資本の定義を満たさないプッタブル金融商品とで構成されていることを示すことは認められています。
4-2.例外的プッタブル金融商品と例外的清算時償還金融商品の要件
例外的プッタブル金融商品と例外的清算時償還金融商品の要件をまとめると以下のような取扱いとなります(IAS32.16A~16D)。
項 目 |
例外的 プッタブル 金融商品 |
例外的 清算時償還 金融商品 |
||
1. | 企業の清算時に企業の純資産の比例的な取り分に対する権利を保有者に与えていること。比例的な取り分は次により算定される。 | ○ | ○ | |
(i) | 企業の清算時の純資産の同額の単位に分割し、 | |||
(ii) | その金額に当該金融商品の保有者が有する単位数を乗じる。 | |||
2. | 当該金融商品は、他のすべてのクラスの金融商品に劣後する金融商品のクラスに属していること。このようなクラスに属するためには、その金融商品は、 | ○ | ○ | |
(i) | 清算時において企業の資産に対する他の請求権に対する優先権がなく、かつ、 | |||
(ii) | 他のすべてのクラスの金融商品に劣後する金融商品のクラスに属する前に他の金融商品に転換される必要がない。 | |||
3. |
他のすべてのクラスの金融商品に劣後する金融商品のクラスに属するすべての金融商品が、同一の特徴を有していること。 ◆例えば、プッタブル金融商品で買戻し又は償還の価格を計算するのに用いられる算式又は他の方法は、そのクラスのすべての金融商品について同じ。 ◆例外的清算時償還金融商品は清算時に純資産の比例的な取り分を引き渡す同一の契約上の義務がある。 |
○ | ○ | |
4. | 発行者が現金又は他の金融資産と交換に当該金融商品を買い戻すか又は償還する契約上の義務を別にすれば、金融負債の定義に該当しないこと。 | ○ | × | |
5. | 当該金融商品の存在期間にわたって当該金融商品に帰属する予想キャッシュ・フローの合計額が、実質的に、純損益、認識されている純資産の変動又は当該金融商品の存続期間にわたる企業の認識済み若しくは未認識の純資産の公正価値の変動(当該金融商品の影響を除く)に基づいていること(なお、純損益及び認識済みの純資産の変動は、関連するIFRSにしたがって測定すること)。 | ○ | × | |
6. | 上記のすべての条件に加えて、発行者は次のものを有する他の金融商品又は契約を有していないこと。 | ○ | ○ | |
(i) | 純損益、認識されている純資産額の変動又は当該金融商品の存続期間にわたる企業の認識済み若しくは未認識の純資産の公正価値の変動(当該金融商品の影響を除く)に実質的に基づくキャッシュ・フロー合計額 | |||
(ii) | 残余リターンを実質的に制限又は固定する効果 |
4-3.他のすべてのクラスの金融商品に劣後する金融商品のクラス
例外的プッタブル金融商品及び例外的清算時償還金融商品の要件に示されている特徴の1つは、当該金融商品が他のすべてのクラスに劣後する(subordinate)金融商品のクラスに属していることです(IAS32.AG14A)(上表2番目の要件)。
ある金融商品が劣後的なクラスに属しているかどうかを判定する際に、企業は当該金融商品の清算時の請求権を、あたかも当該金融商品を分類する日に清算するかのように評価します。企業は関連する状況に変化があれば分類を再検討します。例えば、企業が他の金融商品を発行又は償還する場合、これは問題の金融商品が他のすべてのクラスに劣後する金融商品のクラスに属しているかどうかに影響するかもしれないからです(IAS32.AG14B)。
企業の清算時に優先的な権利を有する金融商品は、企業の純資産に対する比例的な取り分を与える金融商品にはなりません。例えば、ある金融商品が、企業の純資産に対する比例的な取り分に加えて、清算時に一定額の配当を得る権利を保有者に与えているような場合、その金融商品は清算時に優先的な権利を有しているといえ、「企業の純資産に対する比例的な取り分」とはなり得ないのです(IAS32.AG14C)。なお、企業がただ1つのクラスの金融商品しか有していない場合には、それしかないので、そのクラスを他のすべてのクラスに劣後しているかのようにして処理することになります(IAS32.AG14D)。
[劣後する金融商品クラス]
- 清算時の請求権をあたかも分類する日に清算するかのように評価。
- 新たな金融商品を発行する場合には属するクラスの再確認を行う。
- 清算時に優先的な権利を有する金融商品は最も劣後することはない。
4-4.その他の金融商品又は契約における特徴
例外的プッタブル金融商品又は例外的清算時償還金融商品を適用するには、当該金融商品以外の金融商品又は契約において、以下のような金融商品又は契約を企業が保有してはいけません。
[保有してはいけない金融商品又は契約]
- 企業の純損益、認識済みの純資産の変動又は認識済み及び未認識の純資産の公正価値の変動に実質的に基づくキャッシュ・フロー総額、及び
- 例外的プッタブル金融商品又は例外的清算時償還金融商品の保有者への残余リターンを実質的に制限又は固定する効果。
なお、次のような金融商品は、関連当事者以外との通常の契約条件で行われている場合には、上記の保有してはいけない金融商品又は契約には該当しないものとしてIFRSでは紹介されています(IAS32.AG14J)。
[問題ないと考えられる契約内容]
- キャッシュ・フローの総額が、企業の特定された資産に実質的に基づいている金融商品
- 収益のパーセンテージに基づくキャッシュ・フロー総額
- 個々の従業員に対し、企業に提供したサービスについて報酬を与えるように設計されている契約
- 提供されたサービス又は提供された財貨についての利益のうち重要でない割合の支払を要求している契約
4-5.企業の所有者として以外の立場で金融商品の保有者と行った取引
上記の例外的プッタブル金融商品又は例外的清算時償還金融商品の保有者は、企業の所有者ではなく、別の立場で取引の当事者になるかもしれません。こうした保有者の属性は、金融商品の保有者(所有者以外としての役割での)と発行企業との間の取引のキャッシュ・フロー及び契約条件は、金融商品の保有者以外と発行企業との間で発生するかもしれない同等の取引と類似するものでなければならず(IAS32.AG14I)、もしそうでなければ、金融商品に係る条件として上記の分類判断の上で考慮しなければなりません(IAS32.AG14F)。
IFRSでは、次の事例を提供しています。
(A) ゼネラル・パートナーの受取保証料
例えば、リミテッド・パートナーとゼネラル・パートナーがいるリミテッド・パートナーシップを考えます。ゼネラル・パートナーの一部が企業に保証を提供して、その保証の提供に対して報酬を受ける場合があります。この受取保証料(保証に関連するキャッシュ・フロー)は、企業の所有者としての立場ではなく保証提供者としての役割としてのものです。したがって、このような保証とそれに関連するキャッシュ・フローは、ゼネラル・パートナーがリミテッド・パートナーに劣後しているわけではなく、リミテッド・パートナーの金融商品とゼネラル・パートナーの金融商品の契約条件が同一であるかどうかを検討する際には無視されます(IAS32.AG14G)。
(B) 損益配分契約
当年度及び過年度に提供されたサービス又は創出された事業を基準にして、純損益を金融商品の保有者に配分する損益配分契約があります。このような取決めは、所有者以外の役割での当該金融商品の保有者との取引であり、プッタブル金融商品や清算時償還金融商品の例外的取扱いを検討する際に考慮すべきではありません。しかし、そのクラスの他の者との比率における金融商品の名目金額に基づいて金融商品の保有者に純損益を配分する損益配分契約は、所有者としての役割での金融商品の保有者との取引を表すものであり、考慮すべきものとなります(IAS32.AG14H)。
4-6.例外的プッタブル金融商品と例外的清算時償還金融商品の連結財務諸表の取扱い
企業に契約上の義務を課す金融商品の一部は、例外的プッタブル金融商品又は例外的清算時償還金融商品として資本性金融商品に分類されます。しかし、この例外規定は、連結財務諸表における非支配持分(non-controlling interests)の分類にまでは拡張されません。したがって、例外的プッタブル金融商品又は例外的清算時償還金融商品として個別財務諸表上において資本性金融商品に分類された金融商品のうち、非支配持分であるものは、グループの連結財務諸表において金融負債に分類されます(IAS32.AG29A)。
あくまで報告企業にとって例外規定が適用されるのかという観点であり、子会社等の個別財務諸表上で例外的に資本性金融商品に分類されたとしても、連結財務諸表上では金融負債に分類されることが明確化されています。
4-7.例外的プッタブル金融商品及び例外的清算時償還金融商品の構成部分の分類変更
企業は、金融商品がプッタブル金融商品もしくは清算時償還金融商品の例外規定に該当し、かつ、条件を満たした日から、当該各項に従ってその金融商品を資本性金融商品に分類しなければなりません。また、逆に、金融商品が例外規定に該当しなくなった場合には、その日から、その金融商品の分類を変更しなければなりません。
例えば、企業が発行していたすべての非プッタブル金融商品を償還し、残ったプッタブル金融商品が例外規定に該当することになった場合は、企業は非プッタブル金融商品を償還した日から、そのプッタブル金融商品を資本性金融商品に振り替えます(IAS32.16E)。企業は当該金融商品の分類変更を次のように会計処理します(IAS32.16F)。
- 資本性金融商品⇒金融負債の場合 振替日現在の公正価値で測定し、帳簿価額の差額は資本に認識
- 金融負債⇒資本性金融商品の場合 振替日現在の帳簿価額で測定(結果、損益はゼロ)。
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