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(平成23年5月16日現在)
10-3.継続的関与における会計処理
企業が、譲渡資産の所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを移転したわけでも、ほとんどすべてを保持しているわけでもなく、当該資産に対する支配を保持している場合には、企業は継続的関与の範囲において当該資産の認識を継続します。譲渡資産に対する企業の継続的関与の範囲とは、企業が譲渡資産の価値の変動に晒される範囲のことです(IFRS9.3.2.16)。
また、企業が継続的関与の範囲で資産の認識を継続する場合には、関連する負債も認識します。この基準の他の測定の定めにかかわらず、譲渡資産及び関連する負債は、企業が保持した権利及び義務を反映する基準で測定します。関連する負債は、(継続的関与された)譲渡資産とその関連する負債との正味の帳簿価額が次のようになるように測定します(IFRS9.3.2.17)。
(a) | 譲渡資産が償却原価で測定されている場合には、企業が保持した権利及び義務の償却原価 |
(b) | 譲渡資産が公正価値で測定されている場合には、企業が保持した権利及び義務の独立のものとして測定したときの公正価値と同額 |
これに合わせて、企業は、譲渡資産に生じるすべての収益の認識を継続的関与の範囲で継続し、関連する負債に生じるすべての費用を認識しなければなりません(IFRS9.3.2.18)。
簡単にまとめると、以下のとおりです。
[継続的関与における会計処理の基本]
- 継続的関与の範囲で資産の認識を継続
- 継続的関与の範囲は、企業が資産の価値の変動に晒される範囲(エクスポージャー)
- それに関連する負債も認識
- 関連する負債の測定は、他の測定基準に関係なく、上記の定められている方法で行うこと
10-4.継続的関与における会計処理(設例)
継続的関与における会計処理は、金融商品会計基準の中でも最も難解な分野となります。IFRSで紹介されている設例を参考に例題を通じて理解を深めていきます。
(A) 保証を付している場合
企業の継続的関与が、譲渡資産に対する保証の形をとっている場合には、企業の継続的関与の範囲は、①当該資産の金額と、②受け取った対価のうち企業が払い戻すことを要求される可能性のある最大金額(保証額)のいずれか低い方となります(IFRS9.3.2.16(a))。
ある企業Xが、売掛金ポートフォリオ(帳簿価額100円、公正価値110円)を公正価値で売却し、そのうち最大10円までの貸倒損失は、2年間の保証を付し、その保証料として3円を受取ったとします。譲渡人である企業Xは、所有に係るリスクと経済価値がほとんど移転しているとも、ほとんど保持しているとも言えないと考えているとします。この場合、企業Xは継続的関与の範囲内で認識を継続することになります。
この場合の継続的関与の範囲は、以下の比較で低い方の金額となります。
- 譲渡資産の金額である100円
- 保証する最大金額10円 ⇒ 10円が継続的関与の範囲
企業が譲渡資産の価値の変動に晒されている範囲内となるため、本設例では、保証金額10円がリスクを負う最大額ということになります。
一方で、関連する負債として、保証債務分の10円を認識することになるのに合わせて、受取った保証料についても認識します。受取り保証料は2年間にわたって収益認識していくべきものであるため、保証債務10円に合わせて3円を認識することになります。
[保証による継続的関与の仕訳]
(借方) | 現金 | 113 | (貸方) | 貸付金ポートフォリオ | 100 |
継続的関与資産 | 10 | 関連する負債 | 13 | ||
売却益 | 10 |
(B) オプションが用いられている場合
次に、オプションが用いられた場合の継続的関与の設例を確認してみましょう。パターンとしては、①譲渡資産が償却原価の場合、②譲渡資産が公正価値で測定する場合、の2パターンがIFRSでは紹介されています。また、譲渡資産が公正価値で測定する場合としては、(i)コール・オプションの場合、(ii)売建プット・オプションの場合、(iii)カラー取引の場合、の3パターンについて紹介しています。
① 譲渡資産が償却原価の場合
企業が売り建てたプット・オプションの義務又は企業が保有するコール・オプションの権利によって譲渡した資産の認識の中止ができず、企業の継続的関与が、譲渡資産に対する買建又は売建(あるいはその両方)のオプションの形をとっている場合には、企業の継続的関与の範囲は、企業が買い戻す可能性のある譲渡資産の金額となります(IFRS9.3.2.16(b))。
例えば、帳簿価額が98円の金融資産(権利行使日における償却原価は100円)について96円で売却する取引で、全額買い戻すコールオプションが付されている場合、帳簿価額98円が継続的関与の資産に該当することになります。一方で、関連する負債は、売却して得られた96円で測定されます。
企業が譲渡した資産を償却原価で測定しているときは、企業は譲渡した資産を償却原価で測定し、関連する負債は、原価(すなわち受け取った対価)を、その原価とオプションの満期日現在の譲渡資産の償却原価との差額について調整した後の金額で測定されます。本設例では、譲渡した資産98円と権利行使日における償却原価100円との差額を償却原価による収益として認識し、対応負債96円と100円との差額4円を償却原価による費用として認識することになります。
[譲渡日]関連する負債の認識の仕訳
(借方) | 現金 | 96 | (貸方) | 関連する負債 | 96 |
[譲渡日後]償却原価計算の仕訳
(借方) | 資産(継続的関与資産) | 2 | (貸方) | 収益 | 2 |
費用 | 4 | 関連する負債 | 4 |
② 譲渡資産が公正価値で測定する場合
譲渡資産が公正価値で測定する場合としては、IFRS基準では、(i)コール・オプションの場合、(ii)売建プット・オプションの場合、(iii)カラー取引の場合、の3パターンについて紹介しています。
(i) コール・オプションの場合
企業が留保しているコール・オプションの権利のために、譲渡した資産の認識の中止ができない場合で、企業が譲渡し資産を公正価値で測定しているときは、当該資産は引き続き公正価値で測定されます。関連する負債は、(i)オプション行使価格からオプションの時間的価値を控除した額(オプションがイン・ザ・マネー若しくはアット・オブ・ザ・マネーの場合)、又は(ii)譲渡した資産の公正価値からオプションの時間的価値を控除した額(オプションがアウト・オブ・ザ・マネーの場合)で測定されます。この関連する負債の測定に対する調整により資産と関連する負債との正味の帳簿価額がコール・オプションの権利の公正価値となります。
オプションの価値というのは、本源的価値と時間的価値の合計です。オプションがイン・ザ・マネーの場合には、本源的価値と時間的価値によりオプション価値が構成され、アウト・オブ・ザ・マネーの場合には本源的価値はゼロとなり時間的価値のみで構成されることになります。
例えば、基礎資産の公正価値が80円、オプション行使価格が95円、オプションの時間的価値が5円だとした場合について考えます。
基礎資産の公正価値が80円でオプション行使価格が95円であるため、このオプションはアウト・オブ・ザ・マネーと考えられます。このため、オプションの価値は時間的価値である5円であると考えられます。関連する負債の帳簿価額は75円(80円-5円)、譲渡した資産の帳簿価額は80円(すなわち、公正価値)となります。
[譲渡日]
(借方) | 現金 | 75 | (貸方) | 関連する負債 | 75 |
また、例えば基礎資産の公正価値が100円、オプション価値が10円(本源的価値5円、時間的価値5円)であれば、関連する負債は90円(オプション行使価格95円-時間的価値5円)であり、譲渡した資産の帳簿価額は100円となります。
[譲渡日]
(借方) | 現金 | 90 | (貸方) | 関連する負債 | 90 |
さて、この上記の受取対価である現金と関連する負債は、通常の第三者間取引であれば等しくなるようにオプション料が決定されるため、等しくなることを想定していますが、これは必ずしも一致するわけではありません。もし、受取対価が関連する負債と等しくならないような場合にはDay1損益が認識されることになります。
(ii) 売建のプット・オプションの保有の場合
企業が売り建てたプット・オプションの義務のために、譲渡した資産の認識の中止ができない場合で、企業が譲渡した資産を公正価値で測定しているときは、企業は関連する負債をオプション行使価格にオプションの時間的価値を加えた額で測定します。当該資産の公正価値での測定は、公正価値とオプション行使価格の低い方に限定されます。コール・オプションの行使価格を超える譲渡資産の公正価値の増加に対して、譲渡人は何の権利も有していないからです。
- 継続的関与の資産 ⇒ 基礎資産の公正価値 と オプション行使価格の低い方
行使価格100円のプット・オプションを売り建てた場合を考えれば明らかです。譲受人が100円で譲渡人へ当該資産を売り渡す権利があるということであり、当該資産の公正価値が120円の場合は譲受人が当該資産を100円で売り戻すわけがなく(そのままマーケットで120円で売却すればよいから)、譲渡資産の公正価値の増加について譲渡人が何かしらの認識をすることはあり得ないのです。一方で、当該資産が80円になったとしたら、20円分の損失部分について認識する必要があることから、当該資産の公正価値測定は公正価値80円が採用されることになるのです。資産及び関連する負債の正味帳簿価額がプット・オプションの義務の公正価値となります。
例えば、基礎資産の公正価値が120円、オプション行使価額が100円、オプションの時間的価値が5円だとした場合、関連する負債の帳簿価額は105円(100円+5円)、資産の帳簿価額は100円(この場合には、オプションの行使価額)となります。
(iii) カラー取引の場合
カラー取引は、一般的に金利オプションによるキャップ取引とフロアー取引の組み合わせとして紹介されることが多いですが(買建キャップと売建フロアで「カラーの買い」となります。)、IFRSの設例では金利オプションに限定した表現ではなく、買建コールと売建プットの組み合わせとしてカラー取引が紹介されています。どちらにしろ、価格が上昇していく分については利益を得ることができる一方で価格が下落していくリスクにはさらされているという状況になります。
カラーにより、譲渡した資産の認識の中止ができない場合で、企業が当該資産を公正価値で測定しているときは、企業は当該資産を引き続き公正価値で測定します。関連する負債は、以下のように計算されます。
- (コール・オプションがイン・ザ・マネー若しくはアウト・オブ・ザ・マネーの場合)コールの行使価格とプット・オプションの公正価値の合計からコール・オプションの時間価値を控除した金額
- (コール・オプションがアウト・オブ・ザ・マネーの場合)当該資産の公正価値とプット・オプションの公正価値の合計からコール・オプションの時間的価値を控除した金額で測定されます。
この関連する負債に対する調整により、当該資産と関連する負債との正味の帳簿価額は、企業が買建て及び売建てしているオプションの公正価値となります。
例えば、企業が公正価値で測定している金融資産を譲渡し、同時に、行使価格が120円のコール・オプションを買い、行使価格が80円のプット・オプションを売ったとします。また、当該資産の譲渡日現在の公正価値は100円だとし、プットとコールの時間的価値は、それぞれ1円と5円とします。この場合、公正価値が100円であるからコール・オプションはアウト・オブ・ザ・マネーとなります。
このため、当該資産の公正価値100円とプット・オプションの公正価値1円の合計101円からコール・オプションの価値5円を控除し、関連する負債を96円として認識します。一方で、資産は公正価値100円を認識していることになります。
[譲渡日]
(借方) | 現金 | 96 | (貸方) | 関連する負債 | 96 |
11.すべての譲渡に共通する事項
(A) 相殺の禁止
所有に係るリスクと経済価値がほとんど移転しない場合、又は継続的関与が認められその範囲について譲渡資産の認識が継続される場合には、譲渡資産と関連する負債とを相殺することは認められません。同様に、譲渡資産から生じる収益と、関連した負債から生じる費用とを相殺することも禁じられています(IFRS9.3.2.22)。
また、金融資産の譲渡が認識の中止の要件を満たさない場合に、デリバティブと譲渡した資産又は譲渡により生じた負債のいずれかをともに認識すると同一の権利又は義務を2度認識する結果となるときは、その譲渡に関する譲渡人の契約上の権利又は義務をデリバティブとして別個に会計処理することはありません。
例えば、譲渡人がコール・オプションを保持しているために、金融資産の譲渡を売却として会計処理できない場合、そのコール・オプションを別個にデリバティブ資産として認識することはせず、上記②(i)の設例で紹介したように、譲渡資産ないし関連する負債の中にオプションを含めて会計処理することになります。
(B) 譲受人の会計処理
譲受人側の会計処理として、金融資産の譲渡が認識の中止の要件を満たさない場合には、譲受人はその譲渡された資産を自らの資産として認識しません。また、譲受人は、支払った現金又は他の対価について認識の中止を行い、譲渡人に対する債権を認識します。譲渡人が譲渡した資産の全体に対する支配を一定の金額で買い戻す権利と義務の両方を有している場合(買戻契約など)に、譲渡資産が償却原価測定となる資産に該当する場合には、譲受人はその債権を償却原価で測定することができます(IFRS9.B3.2.15)。
(C) 非現金担保に関する会計処理
譲渡人が現金以外の担保(負債性商品や資本性金融商品など)を譲受人に提供する場合、譲渡人及び譲受人によるその担保の会計処理は、譲受人がその担保を売却又は再担保差入れできるかどうか、及び、譲渡人が債務不履行になっているかどうかによって決まります。譲渡人及び譲受人は担保を次のように会計処理しなければなりません(IFRS9.3.2.23)。
(a) | 譲受人が、契約又は慣習により、担保を売却又は再担保差入れできる権利を有している場合には、譲渡人は当該資産を分類変更し、他の資産とは区別して(例えば、貸付資産、担保差入資本性金融商品、買戻債権として)、財政状態計算書上で報告しなければならない。 |
(b) | 譲受人が受け入れた担保を売却した場合には、譲受人は売却代金を認識するとともに、その担保の返還義務について公正価値で測定した負債を認識しなければならない。 |
(c) | 譲渡人が契約条件のもとで債務不履行となり、もはや担保資産を取り戻す権利を有さなくなった場合には、企業は担保資産の認識を中止しなければならず、譲受人は担保を資産として公正価値で当初認識するか、又は、譲受人がすでに担保を売却している場合には担保の返還義務について認識を中止しなければならない。 |
(d) | 上記(c)に定める場合を除き、譲渡人は担保を自らの資産として計上し続けなければならず、譲受人は担保を資産として認識してはならない。 |
[仕訳のまとめ]
事 項 | 譲 渡 人 | 譲 受 人 |
担保提供時 |
特に会計処理の必要なし 。 ただし、譲受人が売却等できれば、譲渡人側で当該担保資産の区分管理を行う。 |
特に会計処理の必要なし |
担保売却等の実施時 |
特に会計処理なし。 |
担保返還義務を負債として認識する。 |
譲渡人の債務不履行時 | 担保返還請求権が消滅し、当該資産の認識の中止を行う。 | 当該担保資産の当初認識を行う。 |
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