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(平成23年5月16日現在)
8.所有に係るリスクと経済価値の移転の判定
金融資産が「譲渡」の要件を満たすことになった場合、次に、それが認識の中止の要件を満たすかどうか判定する段階になります。
認識の中止の要件は、「所有に係るリスクと経済価値(the risks and rewards of ownership)のほとんどすべてが移転しているかどうか」で判断し、それによって判断することができない場合に「支配が継続しているか」という別の判断基準を用いて判断することとなります(IFRS9.3.2.6)。
- 所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを移転 ⇒ 認識の中止の要件を満たす
- 所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを保持 ⇒ 認識の中止の要件を満たさない(認識の継続)
- ほとんどすべてを移転とも保持とも判断できない ⇒ 「支配」という新たな判断基準で判定
譲渡の結果として、企業が、譲渡した資産の所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを移転したものと判定した場合には、その譲渡した資産を新たな取引で再取得しない限り、企業がその譲渡した資産を将来の期間において再び認識することはありません(IFRS9.B3.2.6)。
さて、この場合「ほとんどすべて」(substantially all)をどのように計算し、また、どのぐらいを「ほとんどすべて」とするのかが問題となります。
(A) リスクと経済価値の移転の度合いの計算方法
リスクと経済価値の移転は、多くの場合、企業が所有に係るリスクと経済価値のほとんどすべてを移転したかどうかは明白であり、何の計算をする必要はないとIFRSでは説明されています。ただし、明白でない場合には、譲渡の前後における、譲渡資産の正味キャッシュ・フローの金額及び時期の変動に対する企業のエクスポージャーを比較することにより判定するとしています。変動性の判定方法についてIFRSでは特に定めていませんが、変動性の測定には、標準偏差を用いて計算することが挙げられます。
なお、この計算と比較は、割引率として適切な市場金利を用いて行い、正味キャッシュ・フローについて合理的に可能性のある変動性のすべてを考慮に入れ、起こる可能性の高い結果にはより多くのウェイトを置くようにIFRSでは規定されています。
(B) 「ほとんどすべて」とはどれくらいか
所有に係るリスクと経済価値の移転が「ほとんどすべて」移転ないし保持されている場合に、認識の中止もしくは認識の継続が判断されます。これについて、IFRSでは数値基準を設けていないため、自社の会計方針として決定する必要があります。
リスクと経済価値の移転に関する具体例がIFRSでは以下のように紹介されています(IFRS9.B3.2.4~B3.2.5)
ほとんどすべてが移転している場合 | ほとんどすべてを保持している場合 |
金融資産の無条件の売却 | 買戻価格が固定価格又は販売価格に貸手のリターンを加算した価格である買戻条件付売却取引 |
買戻時の公正価値での買戻権を付した金融資産の売却 | 証券貸付契約 |
ディープ・アウト・オブ・ザ・マネー(すなわち、非常なアウト・オブ・ザ・マネーであり、満期前にイン・ザ・マネーになる可能性がきわめて低い)のプット又はコールのオプションを付した金融資産の売却 | 市場リスクのエクスポージャーを企業に戻すようなトータル・リターン・スワップを付した金融資産の売却 |
ディープ・イン・ザ・マネー(すなわち、非常なイン・ザ・マネーであり、満期前にアウト・オブ・ザ・マネーになる可能性がきわめて低い)のプット又はコールのオプションを付した金融資産の売却 | |
短期債券の売却で、発生する可能性の高い貸倒損失について譲受人に補填することを企業が保証しているもの |
買戻権が付されていても、買戻時の公正価値で取得しなければならないような場合には、譲渡した金融資産を再取得するに過ぎないため、リスクと経済価値は譲受人に移転していると考えられます(左2段目)。しかし、買戻価格が固定価格等となっていて、価格変動リスクもそれによって得られるリターンも譲渡人が結局は負担することになる場合、譲渡しているとは言えません(右1段目)。
アウト・オブ・ザ・マネー(Out of the money)とは、オプションを行使しても何ら利益が得られない状況であり、オプションが行使されない状況のことをいいます。非常な(Deep)状況であれば、ほぼ間違いなくオプションが行使されないため、たとえオプション権が付与されていても買い戻されることがなく、結果として譲渡しているのと変わらないと考えられます(左3段目)一方で、ディープ・イン・ザ・マネーであれば行使されることがほぼ確実であると考えられることから買い戻されることが明らかであり譲渡しているとは言えません(右4段目)。そして、発生の可能性の高い貸倒損失を譲渡人が保証することでリスクが譲受人に移転しているとは言えない場合、譲渡には該当しないと考えられます(右5段目)。
9.「支配」による判定
所有に係るリスクと経済価値がほとんど移転しているとも、ほとんど保持しているとも言えない場合には、次の判定尺度である「支配(control)の有無」について判断する必要があります。その支配の有無の結果、次のように処理されます。
- 「支配」を保持 ⇒ 支配を保持している範囲において、認識を継続
- 「支配」を保持していない ⇒ 支配を保持していない範囲において、認識の中止
企業が譲渡資産に対する支配を保持しているかどうかは、譲受人が当該資産を売却する能力に依存します。譲受人が、関連のない第三者に資産全体を売却する実際上の能力を有し、その能力を一方的にかつ譲渡に関する追加的制限を課す必要なしに行使できる場合には、譲受人に支配が移転していると言え、譲渡人である企業は支配を保持しているとは言えません。それ以外の場合にはすべて、企業は支配を保持しているといえ、認識を継続することなります(IFRS9.3.2.9)。つまり、簡単にいえば、「譲受人が資産を売ったり担保にしたり、好きなようにできるか否か」というのが「支配」の判定ポイントと言えます。
この判定では、譲受人が譲渡された資産を売却する「実際上の能力(practical ability)を有しているか否か」という点で把握しなければなりません。実際上の能力の判定には、次のようなものがあります。
[実際上の能力の判定]
- 譲渡された資産が活発な市場で売買されている場合には、譲渡された資産を買い戻すことができるから、譲受人はそれを売却する実際上の能力を有しているといえる。
- 他者の行動に左右されないものや譲渡に関して制限的条件又は「付帯条件」(例えば、貸付資産の元利金微収をどのように行うかに関する条件、又は譲受人に資産を買い戻す権利を与えるオプション)を付ける必要なしに、譲渡された資産を処分することができなければならない。
- プット・オプション又は保証によって譲受人が譲渡された資産を売却することが制約されている場合。
- プット・オプション又は保証に十分な価値がある場合。譲受人は保証又はプット・オプションによる支払を得られるように、譲渡された資産を保持すると考えられ、実際上、譲渡された資産を同様のオプション又は制限付き条件を付けずに第三者に売却することはない。
決定的な問題は、譲受人が実際上何をできるかであり、譲渡された資産について何ができるかに関して譲受人が有している契約上の権利や、どのような契約上の禁止事項が存在するかではありません(IFRS9.B3.2.8)。なので逆説的に言えば、
- 譲渡された資産を処分する契約上の権利があっても、譲渡された資産について市場がない場合
- 譲渡された資産を処分する能力があっても、それも自由に行使できない場合
には、実際上の能力はないと判断できます。
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