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(平成23年1月31日現在)
1.金融商品を含む各定義
金融商品会計基準が適用されるか否かの前提として、金融商品、金融資産、金融負債、資本性金融商品についての定義について確認します(IAS32.11)。
用 語 | 内 容 |
金融商品 |
一方の企業にとっての金融資産と、他の企業にとっての金融負債又は資本性金融商品の双方を生じさせる契約をいう。 |
金融資産 |
次のような資産をいう。 (a) 現金 (b) 他の企業の資本性金融商品 (c) 次のいずれかの契約上の権利
(d) 企業自身の資本性金融商品で決済されるか又は決済される可能性のある契約のうち、次のいずれかであるもの
|
金融負債 |
次のような負債をいう。 (a) 次のいずれかの契約上の義務
(b) 企業自身の資本性金融商品で決済されるか又は決済される可能性のある契約のうち、次のいずれかであるもの
|
資本性金融商品 |
企業のすべての負債を控除した後の資産に対する残余持分を証する契約である。 |
「契約」及び「契約上の」 | 法的強制力に裏付けされているために当事者の自由裁量で回避することがほとんどできない明確な経済的効果をもつ、複数の当事者間の合意。契約はさまざまな形態をとるものであり、文書である必要はない(金融商品も該当)。 |
企業 | 会社だけでなく、個人、パートナーシップ、法人組織、信託及び政府機関を含む。 |
下記で金融資産や金融負債の具体例を簡単に確認しますが、政府が課する法的要求の結果として生じる法人所得税や推定的債務である引当金などは金融資産又は金融負債に該当せず、金融商品会計基準の範囲外で会計処理されることになります。法人所得税の会計処理はIAS第12号、推定債務はIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」で会計処理されます(IAS32.AG12)。
2.金融商品の簡単な例
金融商品の簡単な例として、IFRSでは次のようなものが紹介されています(IAS32.AG3及びAG4)。
- 通貨
- 銀行や郵貯などの預貯金
- 売掛金及び買掛金
- 受取手形及び支払手形
- 貸付金及び借入金
- 保有債券及び発行債券
それぞれの場合において、一方の当事者の契約上の現金を受け取る権利(または現金を支払う義務)は、他方の当事者の対応する現金を支払う義務(または現金を受け取る権利)と対応しています(IAS32.AG4後段)。
また、金融商品の他の種類としては、受け取るかまたは引き渡す経済的便益が現金以外の金融資産であるものもあります。IFRSでは以下のものが紹介されています(IAS32.AG5~AG10)。
種 類 | 内 容 |
政府債で支払われる手形 | 現金ではなく政府債を、受け取る権利を保有者に引き渡す義務を発行者に与えるもの。その債券は、発行した政府が現金を支払う義務を表すので、金融資産となり、その手形は、手形保有者にとって、金融資産であり、手形発行者にとって金融負債となる。 |
永久負債証券 |
通常、無限定の将来にわたる固定された各期日に利息の支払いを受け取る契約上の権利を保有者に提供するもので、元本を受け取る権利がないか、又は元本を受け取る可能性が非常に少ないか若しくは非常に遠い将来となるような条件の権利が付されている。しかし、発行体は将来の一連の金利支払いを行う契約上の義務を引き受けていることになるため、金融商品と考えられる。 |
金融商品を受け取るか、引き渡すか、又は交換するという契約上の権利又は契約上の義務 | それ自体が金融商品。契約上の権利又は契約上の義務の連鎖は、最終的に現金の授受又は資本性金融商品の取得若しくは発行につながるものであれば、金融商品の定義を満たす。 |
契約上の権利を行使する能力や契約上の義務履行の要求 |
絶対的なものである場合もあれば、ある将来の事象の発生が条件となる場合もある。条件付の権利及び義務は、それによる資産および負債が常に財務諸表に認識されるわけではないが、金融資産及び金融負債の定義に該当する。これらの条件付の権利及び義務の一部はIFRS第4号の適用範囲となる保険契約となる。 |
ファイナンス・リース及びオペレーティング・リース |
ファイナンス・リースは基本的には、金銭貸借契約における元本と利息の混合支払と実質的に同じ一連の支払いを貸手が受け取る権利及び借手が支払う義務とみなされている。貸手は、リース資産そのものではなくリース契約による受取債権への投資を会計処理する。 一方、オペレーティング・リースは、基本的には、サービスに対する手数料と同様の対価と交換に、将来の期間における資産の使用権を与えることを貸手に約束させている未完結の契約とみなされている。貸手は、当該契約による将来の受取金額ではなくリース資産自体の会計処理を続ける。したがって、ファイナス・リースは金融商品とみなされ、オペレーティング・リースは(期間の到来している個々の支払に関する部分を除いて)金融商品とはならない。 |
3.デリバティブとは
金融商品には、一次金融商品(受取債権、支払債務及び資本性金融商品など)だけでなく、デリバティブ金融商品(金融オプション、先物及び先渡取引、金利スワップ及び通貨スワップなど)が含まれます(IAS32.AG15)。
デリバティブは、金融商品又はIFRS第9号の範囲に含まれるその他の契約のうち、次の3つの特徴をすべて有するものをいいます(IFRS9.Appendix A)。
(a) | 特定の金利、金融商品価格、コモディティ価格、外国為替相場、価格またはレートの指数、信用格付または信用指数、またはその他の変数に対応してその価値が変動する。非金融商品項目の変数の場合は、当該変数は取引当事者に特有でないものである(この特徴は「基礎変数(underlying)」と呼ばれることがある)。 |
(b) | 当初純投資額を要求しない又は市況の変動に類似の反応をもつと期待される他の種類の契約で要求されるよりも少額の純投資額を要求する。 |
(c) | 将来の日に決済される |
デリバティブには、非金融商品項目の売買契約が含まれる場合があります。ただし、非金融商品項目の売買契約のうち、「企業の予想される購入、販売又は使用の必要に従った非記入商品項目の引き渡しの目的で締結され、引き続きその目的で保有されている場合」は、IFRS第9号の適用範囲に該当しないため、例え上記3つの特徴を有するものであったとしてもデリバティブに該当しないことになります(詳細は、次項の「非金融商品項目の売買契約」を参照。)
その金融商品がデリバティブの定義に該当するかどうかが重要となってくるのは、その金融商品がデリバティブか否かで組込デリバティブの会計処理を適用すべきか否かが変わってくるからです。特に、非金融資産項目の変数に対応する場合には、「取引当事者に特有でないもの」という記述が定義上にあるため、その変数が「取引当事者に特有」か否かがデリバティブか否かの判断における論点となることがあります。非金融商品項目には、例えば、原油に連動するようなものや、商品販売量に連動するもの、不動産売買に連動するものなど、様々なものが考えられます。
この点は、基準と付録等の間で整合性が取れていない記述もあり、2007年にIFRICからIASBへ「契約当事者に特有の非金融商品項目の変数」への参照を削除するよう提案され、IASBは全会一致で賛成しています。しかし、「IFRSの改善」でも取り上げられたものの、現時点で基準における変更はなされていません。
繰り返しになりますが、デリバティブであることが明確でなく、非金融商品項目の変数に連動するような設計がなされている商品の場合には、それがデリバティブか否かを詳細に検討する必要があります。
なお、デリバティブ商品には以下のようなものがあります。
商 品 名 | 内 容 |
先渡取引 | 決められた時点、決められた価格、決められた数量で商品等を取引することを現時点で決めておく契約のこと。基本的に相対取引で、代表的なものは銀行と行う為替予約がある。 |
先物取引 | 上記の相対取引である先渡契約と似ているが、商品設計を定型化することで証券所取引(市場取引)が可能となったもの。現物資産が売買取引されるのではなく差金決済されるのが基本。また、市場参加者の信用リスクを排除するために証拠金が必要となる。 |
スワップ取引 | ある金融商品とある金融商品を交換(swap)することを約するもの。基本的に相対取引が多く、代表的なものは金利スワップがある。スワップ対象となるものが金利であれば金利スワップ、外貨であれば通貨スワップ、信用リスク等であればクレジット・デフォルト・スワップとなる。 |
オプション取引 |
決められた時点(ないし期間)、決められた価格で取引する権利を売買する行為。オプションの特徴は、先渡取引や先物取引と異なり、義務ではなく「権利」であるという点。オプションの保有者は、有利な状況(イン・ザ・マネー)であれば権利を行使し、不利な状況(アウト・オブ・ザ・マネー)であれば権利を行使する必要はない。一方で、オプションの売手は保有者が行使した場合に、それに応じる義務がある。オプションには、金利オプション、通貨オプションなどがある。上記のスワップを行使する権利を売買する合成商品がスワップションである。また、キャップ取引、フロアー取引、カラー取引などがある。 |
デリバティブは上記の4つが基本的なものですが、その組み合わせによって様々なものが開発されています。
4.非金融商品項目の売買契約
本来、非金融商品項目の売買は金融商品ではないため、金融商品会計基準の適用範囲に含まれることはありません。しかし、後述する「コモディティ契約」については金融商品ではないものの金融商品会計基準が適用されることになります。
(A) 通常の非金融商品項目の売買契約
通常の非金融商品項目の売買契約は、金融商品に該当せず、金融商品会計基準の適用範囲にも入りません(IAS32.AG10~AG11)。
〈金融商品に該当しないものの例〉
- 法人所得税
- 推定的債務である引当金
- 物的資産(例えば、棚卸資産、有形固定資産)、リース資産及び無形資産(例えば、特許権及び商標権)
- 将来の経済的便益が現金又は他の金融資産を受け取る権利ではなく、商品又は役務の受取りである資産(例えば、前払費用)
- 繰延収益及び大部分の製品保証債務のような項目
(B) コモディティ契約
コモディティ契約の多くは、非金融商品項目を購入又は売却する契約であるため、金融商品には該当しません。例えば、商品先物取引は、一見、金融商品に該当するように見えますが、金融商品に該当しません。商品先物取引の場合、取引所での売買取引のために上場されているので、容易に現金で売買でき、転々と流通します。つまり、形式が標準化されて、デリバティブ金融商品とほぼ同じ方法で組織的市場で取引されているのです。それでも、商品先物取引の本質は、ある将来の時点で決められた数量のコモディティを決められた価格で売買する取引であり、双務契約であるから金融商品の定義に該当し得ないのです。現金でコモディティ契約を売買できること、売買が容易にできること、及びコモディティの受渡義務を現金で決済することを交渉できる可能性があることが、当該契約の根本的な特徴を変化させ、金融商品を生み出すわけではないのです。つまり、商品先物取引のように結果として純額決済(差金決済)できることと、商品先物取引が金融商品であることとは無関係です。
しかし、通常のデリバティブ金融商品と同様の目的で取引するような場合には、基礎項目がコモディティであることを理由に金融商品と異なる会計処理を行うことは整合的ではありません。このため、こういったコモディティ契約は金融商品には該当しないものの金融商品会計基準の範囲に含まれます。非金融商品項目を売買する契約のうち、純額決済又は金融商品との交換で決済できるものや、その非金融商品が容易に現金に転換できるものは、あたかも金融商品であるかのように本基準の範囲に含めて処理することが妥当であると判断しています(IAS32.AG20)。
そして、金融商品会計基準の適用範囲とした非金融商品項目の売買契約となり、上記3「デリバティブとは」で記述した3つの要件を満たした取引については、デリバティブ取引として会計処理することになるのです。繰り返しになりますが、非金融商品項目の売買契約であっても、「企業の予想される購入、販売又は使用の必要に従った非金融商品項目の引き渡しの目的で締結され、引き続きその目的で保有されている場合」には金融商品会計基準の適用範囲には該当しません(適用範囲については、次シリーズを参照)。
なお、一見、コモディティで金融商品には該当しないように見えて金融商品に該当するといったケースもあります。
- コモディティに連動してはいるが、コモディティの物理的な受渡しによる決済を必要としない契約(固定額の支払による決済ではなく、契約における一定の算式に従って算定される現金支払による決済。例えば、例えば、債券の元本金額が債券の満期日における一定量の石油の市場価格を適用して計算されるもの。)
- 一方の当事者に金融資産と非金融資産とを交換するオプションを与える商品(例えば、石油連動債券。債券保有者に一連の定期的な固定金利支払及び満期時の固定金額の現金を受け取る権利とともに、その元本金額と固定量の石油を交換するオプションを付与するもの。)
上記の石油連動債におけるオプション行使の有利不利は、その時々によって、その債券に固有の現金と石油の交換比率(交換価格)との関連での石油の公正価値に依存して変化します。このため、場合によっては非金融資産を引き渡す(石油)こともあれば、債券元本(現金)を返済することもあり得ます。この場合でも当該債券は金融商品に該当することになります。
現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。