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(平成23年1月31日現在)
1.目的
IAS第37号の目的は、引当金、偶発負債及び偶発資産に適切な認識規準並びに測定基準が適用され、財務諸表利用者が、それらの内容、時期及び金額について理解できるように、十分な情報が注記に開示されることを確実にすることにあります。
2.範囲
本基準は、次の項目を除いて、引当金、偶発負債及び偶発資産を会計処理するにあたって、すべての企業に適用しなければなりません。(IAS37.1、3)
<適用が除外される項目>
① 未履行の契約に起因するもの(契約が不利な契約である場合を除く)
未履行の契約とは、いずれの当事者もその債務を全く履行していないか、あるいは、双方ともそれらの債務を部分的に同じ程皮に履行している状態の契約をいいます。(IAS37.3)
② 他の基準で取り扱われているもの
③ IAS第39号[金融商品:認識及び測定]の対象である金融商品(保証も含む)
また、特定の種類の引当金、偶発債務及び偶発資産を他の基準が取り扱っている場合には、企業は本基準に代えて、当該他の基準を適用しなければなりません。例えば、下記のようなものがあります。(IAS37.5)
<他の基準で取り扱われている引当金>
・工事契約(IAS 第11号「工事契約」参照)
・法人所得税(IAS第12号「法人所得税」参照)
・リース(IAS第17号「リース」参照)。ただし、IAS第17号には、不利になったオペレーティンク・リースを取り扱う特別な定めがないので、そのような場合には本基準を適用することになります。
・従業員給付(IAS第19号「従業員給付」参照)
・保険契約(IFRS第4号「保険契約」参照)。ただし、本基準は、IFRS第4号の範囲に含まれる保険契約に基づく契約上の義務及び権利に起因するもの以外の、保険者の引当金、偶発損失及び偶発資産に適用しなければなりません。
3.定義
IAS第37号で使用されている主要な用語の定義は下記のとおりです。(IAS37.10)
・引当金
時期又は金額が不確実な負債をいいます。
・負債
過去の事象から発生した企業の現在の債務で、その決済により、経済的便益を有する資源が企業から流出する結果となることが予想されるものをいいます。
・債務発生事象
その債務を決済する以外に企業に現実的な選択肢がない法的債務又は推定的債務を生じさせる事象をいいます。
・法的債務
次のものから発生した債務をいいます。
(a)契約(明示的又は黙示的な条件を通じて)
(b)法律の制定
(c)法律のその他の運用
・推定的債務
次のような企業の行動から発生した債務をいいます。
(a)確立されている過去の実務慣行、公表されている方針又は十分に具体的な最近の声明によって、企業が外部者に対しある責務を受諾することを表明しており、
(b)その結果、企業はこれらの責務を果たすであろうという妥当な期待を外部者の側に惹起している
・偶発負債
(a)過去の事象から発生し得る債務のうち、完全には企業の支配可能な範囲にない将来の1つ以上の不確実な事象の発生又は不発生によってのみその存在が確認される債務で
(b)過去の事象から発生した現在の債務であるが、次の理由により認識されていないもの
(i)債務決済のために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高くない。
(ii)債務の金額が十分な信頼性をもって測定できない。
・偶発資産
過去の事象から発生し得る資産のうち、完全には企業の支配可能な範囲にない将来の1つ以上の不確実な事象の発生又は不発生によってのみその存在が確認されるものをいいます。
・不利な契約
契約による債務を履行するための不可避的な費用が契約上の経済的便益の受取見込額を超過している契約をいいます。
・リストラクチャリング
経営者によって企画され、かつ支配されている計画で、次のいずれかを大きく変更させるものでいいます。
(a)企業が従事している事業の範囲
(b)事業を運営している方法
<引当金と他の負債との区別>
引当金は、決済時に必要な将来の支出の時期と金額とが不確実であるという点で、買掛債務及び未払費用のような他の負債とは区別することができるとされています。(IAS37.11)
<引当金と偶発債務との関係>
一般的な意味では、すべての引当金は時期と金額が不確実であるので偶発的といえます。しかし、IAS第37号では、「偶発」という用語は、企業が完全に支配可能な範囲内にはない将来の1つ又は複数の不確実な事象の発生又は不発生によってしかその存在が確認できないために認識されていない負債及び資産に対して用いられています。さらに、「偶発負債」という用語は、認識規準に合致しない負債に用いられています。(IAS37.12)
したがって、引当金と偶発負債は、上記の相違から詳細に定義すると下記のとおりとなります。(IAS37.13)
【引当金】
現在の債務であり、債務を決済するために経済的便益を有する資源が流出する可能性が高いため、負債として認識されているもの(信頼性のある見積りが可能であると仮定して)
【偶発負債】
次のいずれかの理由で、負債として認識されていないもの
・可能性のある債務で、企業が経済的便益をもつ資源の流出を引き起こす現在の債務を有しているか否かをまだ確認していないもの
・本基準における認識規準に合致しない現在の債務(その理由が、債務の決済に経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高くないか、又は、債務金額の十分に信頼性のある見積りができないかのいずれかであるもの)
4.引当金の認識
引当金は、次の場合に認識されなければなりません。(IAS37.14)
① 企業が過去の事象の結果として現在の債務(法的債務又は推定的債務)を有しており、
② 当該債務を決済するために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高く
③当該債務の金額について信頼性のある見積りができる場合
これらの条件が満たされない場合には、引当金を認識してはなりません。
<現在の債務>
財務諸表が取り扱うのは、企業の期末の財政状態であって、将来における起こり得る財政状態ではありません。したがって、将来の事業活動に関する費用に対しては、引当金を認識してはいけません。企業の財政状態計算書に負債として認識されるものは、報告期間の末日現在で存在する負債に限られます。(IAS37.18)
ほとんどの場合、過去の事象が現在の債務を発生させたかどうかは明白です。(IAS37.16)ただし、稀に、現在の債務があるかどうかが明確でない場合があります。このような場合、利用可能なすべての証拠を考慮した上で、もし、報告期間の末日において現在の債務が存在している可能性の方が存在しない可能性よりも高ければ、過去の事象が現在の債務を発生させているものとみなされます。(IAS37.15)
例えば、訴訟問題のように、ある事象が発生しているか否か、あるいはそれらの事象が現在の債務を生じさせているか否かについて議論となる場合、企業は、例えば専門家の意見も含むすべての利用可能な証拠を考慮したうえで、報告期間の末日において現在の債務が存在しているか否かを決定します。
考慮される証拠には、報告期間後の事象によってもたらされた追加的証拠も含まれます。そして、そのような証拠を基準にして、下記のような処理をおこないます。(IAS37.16)
①報告期間の末日において現在の債務が存在している可能性の方が存在していない可能性よりも高い場合には、企業は引当金を認識します(認識規準が満たされている場合)。
②報告期間の末日において現在の債務が存在していない可能性の方が存在している可能性よりも高い場合には、企業は、経済的便益をもつ資源の流出の可能性がほとんどない場合を除き、偶発負債を開示します。
現在の債務の判断においては下記点についても留意する必要があります。
・債務には、常に当該債務の相手方が存在します。しかし、債務の相手方が誰であるかを識別する必要はありません。実際、債務は社会全般に対するものであることもあります。債務は、常に他人に対するコミットメントを伴うので、経営者又は会社の機関決定のみでは報告期間の末日現在の推定的債務を発生させたことにはなりません。企業がその責任を遂行するであろうという妥当な期待を惹起させるように、十分かつ詳細な方法で、その決定が影響を受ける人々に報告期問の末日以前に伝達されていなければなりません。(IAS37.20)
・債務を直ちに生じさせない事象であっても、法律の変更により、又は企業の行為(例えば、十分に詳細な公式文書)が推定的債務を生じさせることにより、後日において債務を生じさせることがあります。例えば、環境破壊が発生した時点では被害を修復する義務はないかもしれないが、損害の発生は、新しい法律により現存する損害の修復が要求された時点で、又は企業が推定的債務を生じさせるような方法で修復する責任の受諾を公表した時点で、債務発生事象となります。(IAS37.21)
・提案中の新しい法律の詳細が不確実な場合には、立法中の法律が原案どおりに成立することがほぼ確実になったときに限り債務が発生します。このような債務は法的債務として取り扱われます。法律の制定をめぐる状況はそれぞれ異なるため、単一の事象をもって、法律の制定がほぼ確実になったと明言することは不可能ですので、多くの場合、法律が成立するまで、当該法律の制定がほぼ確実であるとはいえません。(IAS37.22)
<過去の事象>
企業の将来の活動(すなわち、企業の将来の営業活動)とは関係なく、過去の事象から発生した債務のみが引当金として認識されます。(IAS37.19)
現在の債務を発生させた過去の事象は、「債務発生事象」と呼ばれます。ある事象が債務発生事象であるためには、その事象によって発生した債務を決済する以外に企業が現実的な選択肢を有していないことが必要です。次の場合がそれに該当します。(IAS37.17)
①債務の決済が法律によって強制できる場合
②推定的債務の場合で、当該事象(それは企業の行為のこともある)が外部の人々に対して企業が当該債務の履行をするであろうとの妥当な期待を惹起させる場合
<経済的便益をもつ資源の可能性の高い流出>
負債として認識される要件としては、現在の債務があるだけでなく、債務を決済するための経済的便益をもつ資源の流出の可能性が高くなければなりません。
本基準では、資源の流出又は他の事象が起こらない可能性よりも起こる可能性の方が高ければ、可能性が高いとみなされます。すなわち、事象の起こる確率が起こらない確率よりも高い場合です。
現在の債務が存在する可能性が高くない場合には、企業は、経済的便益を有する資源の流出の可能性がほとんどない場合を除き、偶発負債を開示します。(IAS37.23)
なお、同種の債務が多数ある場合(例えば、製品保証あるいは同種の契約)、決済に要するであろう流出の可能性は同種の債務全体を考慮して決定されます。すなわち、1つの項目に対する流出は可能性が低いかもしれない同種の債務を全体としてみると決済するのに必要となる資源の流出の可能性は高いことがありますが、このような場合には、他の認識規準が満たされていれば、引当金が認識されます。(IAS37.24)
<債務の信頼性のある見積り>
見積りの使用は財務諸表作成の不可欠の一部分であり、財務諸表の信頼性を損なうものではありません。これは引当金の場合には特に当てはまります。引当金は、他の大部分の財政状態計算書上の項目よりも不確実な性質のものだからです。極めて稀な例外を除き、企業は起こり得る結果をある程度絞り込むことができ、したがって、引当金の認識に使用するための十分に信頼性のある債務の見積りを行うことができると考えられます。(IAS37.25)なお、信頼性のある見積りができないという極めて稀な場合には、認識できない負債が存在しますが、当該負債は偶発負債として開示されます。(IAS37.26)
5.偶発負債と偶発資産の認識
<偶発負債>
企業は、偶発負債を認識してはいけません。(IAS37.27)
偶発負債は、経済的便益をもつ資源の流出の可能性がほとんどない場合を除き、開示が行われます。(IAS37.28)
また、企業がある1つの債務について共同連帯責任を負っている場合、当該債務のうち他の者が決済すると見込まれる部分は偶発負債として取り扱われます。当該企業は、信頼性のある見積りができないという極めて特殊な状況を除いて、経済的便益をもつ資源の流出の可能性の高い債務の部分について引当金を認識します。(IAS37.29)
なお、偶発負債は、当初予想していなかった方向に進展していくことがあります。したがって、偶発負債は、経済的便益をもつ資源の流出の可能性が高くなったか否か継続的に検討しなければなりません。以前に偶発負債として取り扱った項目に対して、将来の経済的便益の流出の可能性が高くなった場合、可能性が変化した期の財務諸表中で引当金を認識しなければなりません(信頼性のある見積りができないという極めて稀な状況を除く)。(IAS37.30)
<偶発資産>
企業は、偶発資産を認識してはいけません。(IAS37.31)実現しないかもしれない収益を認識する結果となるため、財務諸表上では偶発資産を認識しません。しかし、収益の実現がほとんど確実になった場合には、関連する資産はもはや偶発資産ではなく、それを財務諸表上で認識することは適切です。(IAS37.33)
偶発資産は、経済的便益の流入の可能性が高い場合には、開示が行われます。(IAS37.34)
偶発資産とは、通常、計画外あるいは予想外の事象から発生し、企業に経済的便益の流入の可能性をもたらすもので、例としては、企業が法律手続によって訴求中だが、その結果が不確実の場合の請求権があります。(IAS37.32)
偶発資産は、進展状況が適切に財務諸表に反映されるようにするために継続的に評価しなければなりません。経済的便益の流入の可能性が高くなった場合に、企業は偶発資産を開示しなければなりません。経済的便益の流入の発生がほとんど確実になった場合、資産と関連する収益は当該変化が発生した期の財務諸表で認識されます。(IAS37.35)
現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。