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国際財務報告基準(IFRS)の初度適用(総論、遡及適用禁止規定)

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(平成22年7月1日現在)

1.IFRSの初度適用(総論)

 IFRSを最初に適用する年度において従うべき基準が、IFRS1号「国際財務報告基準の初度適用」になります。

 この基準は、最初のIFRS財務諸表に適用しなければならず(IFRS1.2(a))、最初のIFRS財務諸表の対象となっている年度の一部分についてIAS34号「中間財務報告」に準拠した企業が作成する各中間財務報告についても適用することになります(IFRS1.2(b))。

 IFRSを初度適用する場合、例外規定(遡及適用禁止規定)や免除規定を除き、IFRS開始財政状態計算書及び最初のIFRS財務諸表で開示される全期間を通じて、最初のIFRS報告期間の期末日現在で有効なIFRSに準拠している必要があります(IFRS1.7)。このため、初度適用した年度の財務諸表だけでなく、比較情報として開示される前期の財務諸表、またIFRS移行日のIFRS開始財政状態計算書についても、IFRSの各基準を適用することになります。なお、各基準に規定されている経過措置はすでにIFRSを適用している企業にのみ適用され、免除規定等を除き、初度適用企業のIFRSへの移行には適用されません(IFRS.1.9)。

 

 IFRS開始財政状態計算書では、例外規定及び免除規定の部分を除き、次のことを行う必要があります(IFRS1.10)。

  1. IFRSで認識が要求されているすべての資産及び負債を認識する。
  2. IFRSが資産又は負債としての認識を許容していない項目は、認識しない。
  3. 従前の会計原則に従って、企業が資産、負債又は資本の構成要素の1つとして認識していたが、IFRSに従えば資産、負債又は資本の構成要素のうち異なる種類のものである項目については、分類を変更する。
  4. 認識されたすべての資産及び負債の測定にはIFRSを適用する。

 上記のとおり、IFRSで認識すべき資産・負債は認識し、認識してはならないものは計上しないこととなっています。また、従前の会計基準で例えば負債として計上していたものがあったとしても、IFRSに従えば資本として認識しなければならない項目は資本に再分類することになります。 このように認識された資産・負債は、IFRSの測定基準に従って再測定されることになります。

 こうした結果生ずる修正は、IFRS移行日現在の利益剰余金(又は資本における他の区分)で直接認識し、修正することになります(IFRS1.11)。

2.遡及適用の禁止規定(総論)

 原則としては、IFRS開始財政状態計算書からIFRSを全面的に適用する必要がありますが、一部については遡及適用が禁止されているものがあります。

 IFRSの遡及適用が禁止されているのは、以下の事項になります。

 

項目 内容
1 会計上の見積り 会計上の見積りについて誤っていたという客観的な証拠がある場合を除き、IFRS移行日現在での会計上の見積りは、従前の会計原則に従って行われた見積りと首尾一貫したものでなければならない。
2 金融資産・負債の認識の中止 2004年1月1日より前に発生した取引の結果として、デリバティブではない金融資産又は金融負債の認識の中止を行った場合には、IFRSのもとで当該資産及び負債を認識してはならない。
3 ヘッジ会計 ヘッジ会計における遡及的なヘッジ指定をしてはならない。
4 非支配持分 IAS27号(2008年修正版)において、非支配持分の負の残高処理などについては、遡及適用せず、IFRS移行日から適用しなければならない。

3.遡及適用の禁止規定(会計上の見積り)

 IFRSに準拠したIFRS移行日現在での会計上の見積りは、見積りに誤謬があるという客観的な証拠がある場合を除き、従前の会計原則に従って同じ日について行われた見積りと首尾一貫したものでなければなりません(IFRS1.14)。

 例えば、IFRS移行日が20X4年1月1日とした場合に、20X4年7月15日にその見積りに関して得た情報については、IFRS開始財政状態計算書にはその情報を反映してはならず、20X4年12月31日終了年度の財務諸表に反映することになります(IFRS1.15)。

 また、IFRS適用に従って、従前の会計基準では要求されていなかった見積りを行う必要が出てくるケースもあります。この場合には、IFRS移行日現在(もしくは期末日現在)で存在していた状況に基づいて見積りを行う必要があります(IFRS1.16)。市場価格や金利又は為替レートなど同日現在の状況を反映します。

 会計上の見積りに関する遡及適用の禁止規定は、「見積り」そのものの変更を禁止するためのもので、従前の会計原則をそのまま適用するわけではありません。すなわち、例えば、年金制度について現金主義により処理する会計方針を採用していた場合、IAS19号「従業員給付」で求められる退職給付引当金といった処理は行われていないわけですが、IFRS初度適用では当然にIAS19号に従って退職給付引当金等の計上を求められます(IFRS1.IG設例1)。

4.遡及適用の禁止規定(金融資産及び金融負債の認識の中止)

 初度適用企業は、従前の会計原則に基づいて、2004年1月1日より前に発生した取引の結果として、デリバティブではない金融資産又は金融負債の認識の中止を行った場合には、IFRSのもとで当該資産及び負債を認識してはなりません(IFRS1.B2)。ただし、過去の取引の結果として認識の中止が行われた金融資産と金融負債にIAS39号「金融商品:認識及び測定」を適用するのに必要な情報が、それらの取引の当初の会計処理時に入手されている場合は、企業は、その企業の選択する日から遡及的にIAS39号の認識の中止の規定を適用することができます(IFRS1.B3)。

5.遡及適用の禁止規定(ヘッジ会計)

 企業はIFRS移行日現在で、すべてのデリバティブを公正価値で測定し、かつ、従前の会計原則に従って資産又は負債であるかのように計上されていたデリバティブに係る繰延損益をすべて消去する必要があります(IFRS1.B4)。また、IFRS開始財政状態計算書において、IAS39号に従えばヘッジ会計の要件を満たさない種類のヘッジ関係は、IAS39号に従ってヘッジ会計を中止しなければなりません。また、ヘッジ関係の指定を遡及的に行うことはできません。

 ただし、純額ポジションをヘッジ対象に指定していた場合に限り、IFRS移行日前にヘッジ指定を行うのであれば、その純額ポジションの中の個別項目をIFRSに従ってヘッジ対象として指定することができます(IFRS1.B5)。ヘッジ関係が、IFRS移行日からヘッジ関係の要件を満たすためには、ヘッジ関係の指定と文書化はIFRS移行日かその前に完成させなければなりません。ヘッジ会計は、そのヘッジ関係が完全に指定され文書化された日からのみ、将来に向かって適用できます(IFRS1.IG60)。

 

 なお、IFRS移行日において、公正価値ヘッジとしてIAS39号の要件を満たしいている場合、企業は、従前の会計原則に従って、公正価値で測定されていないヘッジ対象の公正価値ヘッジに生じた利得又は損失を繰り延べるか又は認識していなかった額について、IFRS移行日にヘッジ対象の帳簿価額に対して以下の低い方の額で調整します(IFRS1.IG60A)。

 

  • ヘッジ対象の公正価値の累計変動額のうち、ヘッジされているリスクとして従前の会計原則に従って認識されていなかった部分
  • ヘッジ手段の公正価値の累計変動額のうち、ヘッジされているリスクとして従前の会計原則に従って認識されていなかった、又は、資産もしくは負債として繰り延べられていた部分

  また、予定取引のキャッシュフロー・ヘッジとしてIAS39号の要件を満たしている場合には、従前の会計基準で繰り延べられた損益は、資本として認識します。この資本として認識されたものは、(a)予定取引がその後に非金融資産又は非金融負債の認識を生じさせる場合、(b)予定取引が損益に影響する場合、又は、(c)その後の状況が変化し、予定取引がもはや発生するとは見込まれない場合において、資本から純損益に振り替えられます(IFRS1.IG60).

6.遡及適用の禁止規定(非支配持分)

 初度適用企業は、IAS27号「連結及び個別財務諸表」の次の定めを、IFRS移行日から将来に向かって適用する必要があり、IFRS移行日前の遡及適用は禁止されています(IFRS1.B7)。

  • 仮に非支配持分が負の残高となる場合であっても、包括利益の総額を親会社株主と非支配持分とに配分する規定(IFRS27.28)。
  • 子会社に対する親会社株主の持分の変動のうち支配の喪失に至らないものについての会計処理(IFRS27.30~31)。
  • 子会社に対する支配の喪失の会計処理(IFRS27.34~37)と売却目的資産の会計処理(IFRS5.8A)

 ただし、初度適用企業がIFRS3号「企業結合」(2008年改訂)を過去の企業結合に遡及適用することを選択した場合には、IAS27号(2008年修正)の上記の規定についても適用しなければなりません。

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