現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。
1.はじめに
シリーズ9では、中小企業を自己査定する場合の債務者区分の決定の留意点について解説していきます。
中小企業を自己査定する場合には、中小・零細企業等の特性に留意する必要があり、金融庁の金融検査マニュアルにおいっても別冊として〔中小企業融資編〕というのを作成しております。本シリーズでは、この金融検査マニュアル別冊を中心に、中小企業を自己査定する場合の留意点について解説します。
2.中小・零細企業の特性
日本には約434万社(個人事業所を含む。)の企業が存在していますが、そのうち約99.7%が中小企業に該当します(中小企業白書2007年版355ページの『産業別規模別事業所・企業数』の2004年数値を参照)。
この中小・零細企業の特徴として、次のようなものが挙げられます。
- 中小・零細企業は総じて景気の影響を受けやすく、一時的な収益悪化により赤字に陥りやすい面がある。
- 自己資本が大企業に比べて小さいため、一時的な要因により債務超過に陥りやすい面がある。
また、大企業と比較してリストラの余地等も小さく黒字化や債務超過解消までに時間がかかることが多い。 - 中小・零細企業に対する融資形態の特徴の1つとして、設備資金等の長期資金を短期資金の借換えの形で融資しているケースがみられる。
この中小・零細企業の場合には、実体的に経営者の持ち物のような会社がたくさんあり、また金融も社長の個人保証が付いているような場合が多くあります。こうした場合には、会社だけでなく経営者も一体として査定を行う必要が生じてきます。そもそもオーナー企業の場合には、外部投資家が存在するわけでもないので配当政策も特に考える必要がなく、積極的に黒字にする必要はありません。このため、「決算が赤字だから要注意」「債務超過だから破綻懸念先」というような機械的な査定にはなじまないことになります。 上記のような特性を踏まえ、以下では中小企業の自己査定について特徴的な点を解説していきます。
3.代表者等との一体査定
中小・零細企業の場合、会社の財産と経営者の財産とがはっきりと区分・分離されていないことが多いので、企業の実体的な財務内容をや役員に対する報酬の支払状況などを考慮することになります。すなわち、会社の財務諸表を修正していく必要があります。
まず、債務超過を判断する上で自己資本の修正を行います。代表者から借入している場合には、財務上は負債であっても実質的には自己資本として考えることができるので、代表者等が会社に対して返済を求めていることが明らかでなければ純資産として考えることができます。逆に、会社の資産において代表者への貸付金がある場合には、その回収可能性(代表者からの返済の可能性)が回収不能と考えられるのであれば、自己資本から控除する必要があります。
次に、収益性を判断する上で、役員に対する支払状況などを反映させます。つまり、企業の決算は赤字であっても、代表者等への報酬や家賃等の支払が原因で赤字の場合には、金融機関への返済資金を代表者等が実質的に負担しているかどうかなどを確認します。また、代表者等の預金や有価証券等の流動資産及び不動産(処分可能見込額)等の固定資産についても返済能力として考慮していきます。
また、要注意先に分類された債務者のうち、要管理債権に該当する債務者は要管理先として分類することになりますが(シリーズ8を参照)、この要管理債権の判断においても代用者との一体査定が考慮されます。すなわち、貸出条件緩和債権の判定で「基準金利」と適用金利の比較が行われるわけですが、実際に適用金利が基準金利より低い場合でも、代表者等の支援等が考慮されて適用金利が低い場合には、「基準金利より有利な金利」とは判定されず、貸出条件緩和債権には該当しないことになります。
4.企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれらを踏まえた成長性
中小・零細企業の場合には、技術力等に十分な潜在能力、競争力がありがながらも、決算書にはなかなか反映されていないことがしばしばあります。こうした成長発展性を考慮することは、中小・零細企業を評価する上で非常に重要な事項となります。
そこで、自己査定においても、中小・零細企業の場合には、成長発展性を評価していき、債務者区分の判断を行う上で考慮していきます。
例えば、知的財産権を背景とした新規受注契約の状況や取扱い商品・サービスの業界内での評判等を示すマスコミ記事などを参考にします。また、過去の約定返済履歴といった取引実績や計算書類の質の向上への取り組み状況、ISO等の資格取得状況なども経営者の資質も考慮します。
なお、中小企業診断士等の専門家がいる場合には、専門家の評価も参考にすることができます。
5.経営改善計画の考慮事項
債務者区分の判定において、収益性や資金繰り等の状況からして破綻懸念先に分類される場合でも、シリーズ8で解説したように、再建計画等が適切に策定・実行されている場合には、要注意先に債務者区分を引き上げることが認められています。
ただ、中小企業の場合、大企業と同様の精緻な再建計画を策定している可能性が低く、またその結果、計画の進捗状況を考えてもあまり意味がないことが多くあります。こうした場合には、計画の内容や進捗状況を機械的に勘案するのではなく、今後の資産売却の予定や役員報酬の削減計画などを考慮して判断していく必要があります。
6.資本的劣後ローン
資本的劣後ローンは、返済順位が通常ローンより劣後するローンで、感覚的には資本(株式)と同様に考えることができることから、資本的劣後ローンと呼ばれています。
この資本的劣後ローンは、デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap: DES)の中小企業版のようなもので、今までの債権を資本的劣後ローンへ転換することをデット・デット・スワップ(Debt Debt Swap: DDS)と呼んでいます。中小企業の場合、株式が譲渡制限(107条1項1号)されているのが一般的であるため、株式に流動性がなく、再建支援企業(つまり資金提供者)はDESの場合には出口戦略を見出すことが難しく、結果としてDESに応じることが難しいと考えられます。一方で、DDSはあくまで債権ですので、返済義務は残り、出口戦略を図ることがDESに比べれば比較的容易です。このため、中小企業の再生のために、DDSによる資本的劣後ローンへの転換が実行されることがしばしばあります。
資本的劣後ローンは、実質債務超過の判断でこれを資本とみなすことができるため、債務者区分が引き上げられる効果があります。また、銀行側の支援体制も明確になりますので、企業再生を図る上で、取引先等の利害関係者の協力体制も導きやすくなります。
なお、資本的劣後ローンは上記のように実質債務超過の判定に大きな影響を与えることになりますので、下記のすべての要件を満たした場合にのみ、資本的劣後ローンと判断することができるようになります。実際は、銀行側が債務者区分の引き上げ、再生支援の明確化を目的に実行するものですので、DDSを行う場合には、資本的劣後ローンになるように設計されているのが通常です。
【資本的劣後ローンの要件】
- 金融機関と債務者との間で双方合意の上で締結している。
- 資本的劣後ローンの返済は、すべての債権(今後再建計画で発生予定の債権も含む。)の返済が終わってから開始することになっている。
- 債務者がもし倒産した場合、他の全ての債権が弁済された後の残余財産で返済する。
- コベナンツ条項が付いている。
- コベナンツ条項違反は、期限の利益を喪失することになる。
なお、DDSを実行する場合には、上記にあるようにコベナンツ状況を付すのが一般的です。コベナンツ条項は、債権者が債務者の経営状況を把握・コントロールするためのもので、コベナンツ条項に違反する場合には、一定のペナルティを課すことになっています。
現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。