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1.はじめに
シリーズ6では、シリーズ5に続いて、社債による資金調達について解説します。シリーズ6では、少人数私募債について解説します。
2.少人数私募債とは
社債には、公募債と私募債の2種類が存在します。公募債(有価証券の募集)とは、適格機関投資家(つまり、金融機関)のみを相手とする場合を除き、50人以上への勧誘を予定しているもので、前回のシリーズ5で解説したものになります(金融商品取引法2条3項)。一方で、私募債とは、募集に該当しないもので、具体的には、適格機関投資家のみを相手とする場合、もしくは50人未満の投資家に対して募集を行うものになります(同条同項)。少人数私募債は、この私募債のうち、50人未満の投資家に対して募集を行うものになります。
このように少人数私募債は、金融商品取引法の概念で整理されているものです。しかし、一般的に“少人数私募債”と言えば、金融商品取引法の開示規制を回避し、会社法の社債管理者設置義務を回避するように設計された社債のことを指します。このため、2つの法規制の観点から、社債を設計する必要があります。
≪公募社債と少人数私募債の比較≫
内容
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公募債
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私募債
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---|---|---|
募集人数 | 50名以上(プロ私募は除く) | 50名未満 |
譲渡制限 | なし | (基本的に)あり |
最低金額 | 特に考慮しない | 社債管理者を非設置とするため、社債総額を社債1口の最低金額で除して、50以下になるようにも設計する。 |
金商法開示規制 | 発行市場…有価証券届出書 流通市場…有価証券報告書 |
特になし |
金商法通知義務 | 目論見書の作成で達成 | 届出が行われていないこと及び譲渡制限等が付されている旨の通知。但し、総額1億円以下の場合にはこの限りではない。 |
会社法社債管理者設置義務 | (基本的に)あり | なし |
以下では、これらの特徴点を踏まえて、それぞれ具体的に解説していきます。
3.募集人数、譲渡制限、最低金額
2のところで既に解説していますが、少人数私募債は50名未満に社債を発行する場合が該当します。この場合、発行時の募集人数が50名未満であるだけでなく、発行後も50名未満である必要があります(金融商品取引法2条3項参照)。このため、少人数私募債を発行する場合には、その社債に譲渡制限を加える設計を行います。
また、会社法において社債管理者の設置義務を回避するために、社債総額を社債1口の最低金額で除して50を下回るように発行金額を決定していきます(会社法702条但書、会社法施行規則169条)。例えば、1億円の社債を発行する場合に、Aが5千万円、Bが4千万円、Cが900万円、Dが100万円の引受けをした場合、引受人数は4人しかいませんが、最低金額であるDの引受価額100万円で1億円を除すと「100」となりますので、会社法702条但書が適用されず、社債管理者を設置する必要が生じます。このため、一般的に少人数私募債は社債管理者を設置しないように設計しますので、この例では最低金額を200万円超に設定します。こうすることで、自動的に募集人数も50名未満となりますので、金商法の少人数私募債に該当することになります。
なお、上記のように、金融商品取引法の“私募債”の考えと、会社法の社債管理者の設置義務の有無の考えはスタンスが異なりますので、注意が必要です。
4.金融商品取引法の開示規制
有価証券の募集に該当した場合には、発行時に有価証券届出書、目論見書の作成、発行後には有価証券報告書等を提出し、情報開示を行います(金融商品取引法4条1項、24条1項等)。
一方で、少人数私募債の場合には、このような開示義務は存在しません。その代わり、届出が行われていないこと及び譲渡制限等が付されている旨などを投資家へ告知する義務があります(法23条の13第3項、企業内容等の開示に関する内閣府令14条の15第1項)。但し、総額1億円以下の場合は、この告知義務も必要ありません(同条同項但書、内閣府令同条第2項)。
もちろん、少人数私募債においても募集事項等については投資家へ通知義務がありますので(会社法677条1項)、それに従って通知を行う必要はあります。
5.社債管理者の設置義務
社債は、小口で多数の投資家の参加が想定されているため、会社法において社債権者の利益保護の観点から、基本的に社債管理者の設置義務があります(会社法702条本文)。この社債管理者は、銀行、信託銀行等の金融機関が受託することになります(会社法703条、会社法施行規則170条)。
ただし、3で解説したように、社債総額を社債1口の最低金額で除して50を下回る場合には社債管理者を設置する必要はありません(会社法702条但書、会社法施行規則169条)。このため、少人数私募債の場合には、社債管理者の設置する必要はなく、社債管理者に支払うコストを削減することができ、資金調達コストを抑えることができます。
また、社債に担保を付けた場合には、担保付社債として担保部分の管理が必要になりますので、たとえ少人数私募債であっても社債管理者の設置義務が復活してしまいます(担保付社債信託法第2条3項)。このため、一般的に少人数私募債の場合には、無担保で設定します。実際は、役員の身内とかだけでなく投資家も含めて募集する場合には、完全な無担保だと投資家が見つからない可能性もあることから、社債のアレンジャー(地銀などの金融機関)が保証を付けて組成することもあります。
6.少人数私募債の税務上のメリット
少人数私募債は社債ですので、株式と異なり、利払いによる調達コストは税務上損金に算入されます。株式の場合、配当金は課税後利益の配当の処分になりますので、損金算入されません。この点、増資による資金調達よりもメリットがあると考えられます。また、投資家が個人である場合には、高額所得者であれば、社債による受取利息は、20%の源泉徴収で完結しますので(所得税法23条、租税特別措置法3条)、税金上有利となる可能性があります(総合課税につき所得税法89条)。
7.各自治体による助成制度
自治体によっては、少人数私募債の助成制度を実施しているところもあります。それぞれの地域によって助成制度はバラバラですが、多くは社債利子の補助が多いようです。東京都文京区や埼玉県川口市などでは、支払利子の最大120万円までを補助する制度を設けています。
なお、この自治体による補助制度は、中小企業基本法に規定する中小企業に限定していたり、審査があったりしますので、利用する場合には必ず自治体に問い合わせて自社における私募債の内容と照らし合わせる必要があります。
8.少人数私募債と事業計画
少人数私募債は社債に該当しますので、募集社債と同様に募集事項を決定する必要があります(会社法676条)。また、少人数私募債を発行する場合は、完全に身内だけを募集対象とするよりも、メインバンクや取引先を含めて募集を行いますので、十分な資金計画や事業計画を提示する必要があります。特に、少人数私募債は無担保で社債管理者も設置しないものになりますので、どのような計画によって資金繰りがなされるのか、はっきりさせる必要があります。少なくとも、メインバンクやベンチャー・キャピタルなどのプロの投資家は私募債の必要性を吟味して投資判断を行いますので、十分な計画立案が必要となります。
また、私募債の償還期間は3年から5年程度が想定されますが、例えば設備投資などで利用される場合には、資金回収のスパンが長くなり、私募債の償還期間に償還原資が回収できていない可能性も十分に考えられます。この場合には、その償還資源を借り換えによって賄うのか、銀行借入に変更するのか、増資で賄うのか等の償還計画も含めて十分に計画を立案する必要があります。
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