株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

シリーズ<12> 内部統制の有効性の判断

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1.はじめに

 本シリーズ12では、内部統制の有効性の判断について解説します。シリーズ9で評価された内部統制が、実際に有効なのかどうかについて判断を行っていきます。この有効性の判断においては、全社的な内部統制、業務プロセスに係る内部統制、ITに係る内部統制の3つについてそれぞれ有効性の判断基準が設定されています。シリーズ12では、全社的な内部統制と業務プロセスに係る内部統制の有効性の判断について解説し、ITに係る内部統制については、シリーズ13で「ITを利用した内部統制」で解説することにします。

2.全社的な内部統制の有効性の判断

 経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性の評価を行った結果、統制上の要点等に係る不備が財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合は、当該内部統制に重要な欠陥があると判断しなければなりません。ここで重要な欠陥と判断された内部統制については、内部統制報告書の記載対象となります。

 財務報告に係る内部統制の有効性の評価は、全社的な内部統制の有効性の判断と、業務プロセスに係る内部統制の有効性の判断の両方によってなされていきます。

(1)全社的な内部統制の有効性の判断


 まず、全社的な内部統制が有効であると判断するためには、全社的な内部統制が財務報告に係る虚偽の記載及び開示が発生するリスクを低減するため、以下の条件を満たしていることが重要となります。

 

≪有効であると判断するための条件≫

  • 全社的な内部統制が、一般に公正妥当と認められる内部統制の枠組みに準拠して整備及び運用されていること。
  • 全社的な内部統制が、業務プロセスに係る内部統制の有効な整備及び運用を支援し、企業における内部統制全般を適切に構成している状態にあること。

(2)全社的な内部統制に不備がある場合


 全社的な内部統制の不備は、業務プロセスに係る内部統制にも直接又は間接に広範な影響を及ぼし、最終的な財務報告の内容に広範な影響を及ぼすことになります。したがって、全社的な内部統制に不備がある場合には、業務プロセスに係る内部統制にどのような影響を及ぼすかも含め、財務報告に重要な虚偽記載をもたらす可能性について慎重に検討する必要があります。

 内部統制の重要な欠陥となる全社的な内部統制の不備として、例えば、以下のものが挙げられる。

 

≪内部統制の重要な欠陥となる全社的内部統制の不備≫

  • 経営者が財務報告の信頼性に関するリスクの評価と対応を実施していない。
  • 取締役会又は監査役若しくは監査委員会が財務報告の信頼性を確保するための内部統制の整備及び運用を監督、監視、検証していない。
  • 財務報告に係る内部統制の有効性を評価する責任部署が明確でない。
  • 財務報告に係るITに関する内部統制に不備があり、それが改善されずに放置されている。
  • 業務プロセスに関する記述、虚偽記載のリスクの識別、リスクに対する内部統制に関する記録など、内部統制の整備状況に関する記録を欠いており、取締役会又は監査役若しくは監査委員会が、財務報告に係る内部統制の有効性を監督、監視、検証することができない。
  • 経営者や取締役会、監査役又は監査委員会に報告された全社的な内部統制の不備が合理的な期間内に改善されない。

 全社的な内部統制に不備がある場合でも、業務プロセスに係る内部統制が単独で有効に機能することもあり得ます。ただし、全社的な内部統制に不備があるという状況は、基本的な内部統制の整備に不備があることを意味しており、全体としての内部統制が有効に機能する可能性は限定されると考えられます。このため、全社的な内部統制に不備が発見された場合には、監査においても問題視される可能性が非常に高くなります。

3.業務プロセスに係る内部統制の有効性の判断

 業務プロセスに係る内部統制の有効性の判断では、整備状況の有効性、運用状況の有効性のそれぞれについて評価していきます。そこで、内部統制の不備が発見された場合に、これが重要な欠陥に該当するのかを次の段階で検討していくことになります。

(1)内部統制の整備状況の有効性の評価


 内部統制が有効に整備されているか評価する場合には、内部統制が財務諸表の勘定科目、注記及び開示項目に虚偽記載が発生するリスクを合理的なレベルまで低減するものとなっているか確認していきます。

 もし、整備状況で、十分に虚偽記載の発生するリスクを合理的なレベルまで低減していなければ、内部統制の不備として認識されることになります。

(2)内部統制の運用状況の有効性の評価


 内部統制が所期の通り実際に有効に運用されているかを評価します。その場合、それぞれの虚偽記載のリスクに対して内部統制が意図した通りに運用されていることを確認しなければなりません。このとき、サンプリングにより確認する場合には、90%の信頼度を得るために、統制上の要点ごとに少なくとも25件のサンプルが必要であると考えられています。ただし、反復継続的に発生する定型的な取引等については、サンプル数を低減することも可能であると考えられています。

 この結果、決められた内部統制が実施されていなかったり、間違った運用がなされていたりした場合には、内部統制の不備として認識されることになります。例えば、査閲者による査閲者印が存在しなかった場合などは、内部統制が運用されていないとの判断がなされる可能性があります。

(3)内部統制の不備が重要な欠陥に該当するかの判断


 上記(1)、(2)で発見された内部統制の不備が重要な欠陥に該当するか否かを評価するために、内部統制の不備により勘定科目等に虚偽記載が発生する場合、その影響が及ぶ範囲と影響の発生可能性について検討していくことになります。内部統制の不備は、それが直ちに重要な欠陥になるわけでなく(すなわち、内部統制報告書に直ちに記載されるわけではなく)、その不備が財務諸表の虚偽記載の発生にどれぐらい影響を及ぼすのか検討した結果、その範囲が広範な場合に、重要な欠陥に該当すると判断されます。

 

≪重要な欠陥に該当するかの判断手順≫

  • 不備の影響が及ぶ範囲の検討
  • 影響の発生可能性の検討
  • 質的・金額的重要性の判断

 なお、内部統制の不備による影響額を推定するときには、虚偽記載の発生可能性も併せて検討する必要があります。

 内部統制の不備の検討では、内部統制の不備が複数存在する場合には、それらの内部統制の不備が単独で、又は複数合わさって、重要な欠陥に該当していないかを評価してきます。すなわち、重要な欠陥に該当するか否かは、同じ勘定科目に関係する不備をすべて合わせて、当該不備のもたらす影響が財務報告の重要な事項の虚偽記載に該当する可能性があるか否かによって判断します。例えば、売掛金勘定の残高は、販売業務プロセスでの信用販売と入金業務プロセスの代金回収の影響を受けることになりますが、この両方の業務プロセスに不備がある場合は、それぞれの不備がもたらす影響を合わせて、売掛金勘定の残高に及ぼす影響を評価しなければなりません。

 また、上記のような1つの勘定科目における影響だけでなく、複数の勘定科目に係る影響を合わせると重要な虚偽記載に該当する場合もあります。この場合にも重要な欠陥となります。

 さらに、勘定科目等に虚偽記載が発生する可能性と影響度を検討するときには、個々の内部統制を切り離して検討するのではなく、個々の内部統制がいかに相互に連係して虚偽記載が発生するリスクを低減しているかを検討する必要があります。そのために、ある内部統制の不備を補う内部統制(補完統制)の有無と、仮に補完統制がある場合には、それが勘定科目等に虚偽記載が発生する可能性と金額的影響をどの程度低減しているかを検討していきます。

 影響の発生可能性の検討においては、発生確率をサンプリング結果を用いて統計的に導きだしたり、それが難しい場合には、発生可能性を高、中、低により把握したりします。これによって、発生可能性が無視できるほど低い場合には、質的・金額的な判定から除外します。

 内部統制の不備の影響金額の算定方法としては、内部統制実施基準では、例示として、連結税引前利益の概ね5%程度とされています。これはあくまで例示ですが、具体的な金額として目安になると考えられます。

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