株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

金融資産と金融負債の相殺

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(平成23年5月16日現在)

13-1.金融資産と金融負債の相殺の会計処理について

 IAS第1号「財務諸表の表示」では、IFRS要求又は許容される場合を除き、資産と負債を相殺’(offsetting)すべきではないとする一般的な原則を定めています(IAS1.32)。こうした中で、IAS第32号では、その例外的な規定として、次に該当する場合には、金融資産と金融負債とを相殺し、純額を財政状態計算書に表示しなければなりません(IAS32.42)。

(a) 認識された金額を相殺する法的に強制力のある権利を有しており、かつ
(b) 純額で決済するか又は資産の実現と負債の決済を同時に実行する意図を有している。

 

 ただし、認識の中止の要件に該当しない金融資産の譲渡を会計処理する際には、企業は譲渡した資産と関連する負債とを相殺することは認められていません(IFRS9.3.2.22)。

 上記の相殺規定は、義務規定であり、容認規定ではありません。すなわち、(a)及び(b)の状況を満たす場合は、相殺しなければなりません。金融資産と金融負債との純額表示が、複数の金融商品の決済による企業の予想将来キャッシュ・フローを反映する場合、企業が単一の純額での受取又は支払を行う権利を有し、かつそうする意図があるならば、企業は実質上、単一の金融資産又は金融負債のみを有しているといえるからです(IAS32.43)。

 認識された金融資産と認識された金融負債とを相殺して純額を表示することは、金融資産又は金融負債の認識の中止とは異なります。相殺は利得又は損失の認識をしませんが、金融商品の認識の中止は、以前に認識された項目を財政状態計算書から除去するだけでなく、 利得又は損失の認識をすることになります(IAS32.44)。

 

13-2.相殺権の有無と相殺する意図

(A) 相殺権(right of set-off)と相殺する意図(intend)


 相殺権は、契約その他により、債権者に支払うべき金額の全部又は一部を、債権者から受け取るべき金額を充当することによって決済又は消去するという債務者の法的権利です。例外的な状況ですが、債務者の相殺権を明確に定めた三者間の合意があるならば、 債務者は第三者に対する債権を債権者に支払うべき金額に充当する法的権利を有していることもあります。相殺権は法的権利であるので、この権利を支える条件は法的管轄区域によって異なる場合もあり、当事者間の関係に適用される法律を考慮する必要があります(IAS32.45)。

 金融資産と金融負債とを相殺する強制的な権利の存在は、金融資産と金融負債と関連する権利と義務とに影響し、また信用リスク及び流動性リスクに対する企業のエクスポージャーに影響することもあります。しかし、権利の存在だけでは、相殺の十分な根拠とはなりません。 相殺に必要なのは、純額決済する権利を保有し、かつ、純額決済するという企業の意図が必要です(IAS32.46)。

 なお、特定の資産及び負債の決済に関する企業の意図は、通常の商慣行や資本市場の規定その他における純額決済又は同時決済を行う能力を制約する状況に影響されることもあります。企業が相殺権を有してはいるけれど、純額決済の意図又は資産実現と負債決済とを同時に行う意図がない場合には、その権利が企業の信用リスク・エクスポージャーに与える影響はIFRS第7号第36項に従って開示されます(IAS32.47)。

 

 [まとめ]

  • 純額決済する権利と純額決済をする意図を企業が両方とも保有すること。

(B) 同時決済(simultaneous settlment)とは


 また、「同時決済」というのは、それらの取引が同じ時点で起きる場合にのみ、「同時」として取り扱うよう定めています。

 2つの金融商品の同時決済は、例えば、組織化された金融市場の清算所の業務又は相対取引を通じて行われることがあります。このような状況では、キャッシュ・フローは実質的に単一の純額と同等であり、信用リスクや流動性リスクに対するエクスポージャーはありません。

 しかし、一方で、そうでない場合、企業は2つの金融商品を別々の金額を受け取り、支払うことによって決済し、資産の全額についての信用リスク又は負債の全額についての流動性リスクに晒されることがあります。このようなリスク・エクスポージャーは、比較的短期間だとしても、重要性があるかもしれません。このため、この場合は、「同時決済」に該当しないことになります(IAS32.48)。

 

 [まとめ] 

  • 「同時決済」は、それらの取引が同じ瞬間に行われる場合のみ「同時」とする。

 

13-3.相殺が不適切なケース

 相殺が不適切な例として、次のような事項がIFRSでは紹介されています(IAS32.49)。

(a) 単一の金融商品の特徴に似せるために複数の異なる金融商品が使用されている場合(「合成商品」)
(b) 金融資産と金融負債が、同じ主要なリスク・エクスポージャーを有する金融商品(例えば、先渡契約又はその他のデリバティブのポートフォリオの中の資産と負債)から生じているが、取引相手が異なっている場合
(c) 金融資産又はその他の資産が、遡及義務のない金融負債の担保に供せられている場合
(d) 債務弁済の目的で債務者が金融資産を信託に預託しているが、債務の決済として債権者がその資産を受け入れていない場合(例えば、減債基金契約)
(e) 損失を生じた事象の結果として発生した債務が、保険契約に基づく求債権により第三者から補填されると見込まれている場合

 

 本基準は、他の金融商品の特徴を模倣するために取得され保有されている別々の金融商品のグループ、いわゆる「合成商品」のための特別な処理は定めていません。例えば、変動金利の長期債務と金利スワップの組み合わせで固定金利の長期債務を合成する場合があります。

 「合成商品」を構成する各部分は、それぞれの契約条件をもつ契約上の権利又は義務であり、個々に譲渡又は決済される可能性があります。それぞれの金融商品は、他の金融商品が晒されるリスクとは異なるであろうリスクに晒されています。したがって、長期債務の変動金利部分とスワップを相殺するような処理などは行われることはありません。すなわち、「合成商品」の構成部分の一方が資産、他方が負債である場合、相殺の基準を満たしていない限り、それらを相殺して企業の財政状態計算書に純額で表示することはありません(IAS32.AG39)。

 

13-4.マスターネッティング契約

 単一の取引相手先と多数の金融商品取引を行う銀行や証券会社などは、当該取引相手先と「マスター・ネッティング契約」を結ぶ場合があります。

 マスターネッティング契約は、1つでも約定の不履行又は解除があった場合には、当該契約の対象となっているすべての金融商品を単一の純額で決済することを定めています。倒産その他により取引相手が債務を履行できなくなった場合における損失の発生を防止するために、金融機関が広く利用しているものです。

 マスター・ネッティッグ契約は、相殺権を創出しますが、契約によって自動的に相殺権が与えられるわけではありません。債務不履行その他の特定の状況が発生した場合にのみ、強制力が生じ、個々の金融資産と金融負債の実現又は決済に影響を与えるものです。このため、一般的なマスター・ネッティング契約は、相殺の要件は満たしません。

 

13-5.公開草案「金融資産と金融負債の相殺」

 IASBとFASBはコンバージェンス・プロジェクトとして、2011年1月に公開草案「金融資産と金融負債の相殺」が公表されています。

 公開草案では、次の両方に該当する場合には、認識された金融資産と認識された金融負債を相殺し、財政状態計算書に純額を表示するよう求めています。

(a) その金融資産と金融負債を相殺する無条件の法的に強制可能な権利がある。
(b) 次のいずれかを意図している
(i) その金融資産と金融負債を純額で決済する。又は
(ii) その金融資産の実現と金融負債の決済を同時に行う。

 

 他のすべての状況においては、企業の認識された金融資産と認識された金融負債は、資産又は負債としての性質にしたがって、互いに区別して財政状態計算書に表示されます。

 上記の条件に該当する場合には、比較可能性を担保するため、すべて相殺処理しなければなりません。つまり、相殺は、容認規定ではなく強制規定です。

 

 相殺のための権利は、「無条件の法的に強制可能」でなければならないため、例えば債務不履行に陥ったら相殺権が発動するような「条件付き」の場合は認められません。このため、マスター・ネッティング契約も相殺条件を満たすものにはなりません。

 

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