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(平成23年7月1日現在)
はじめに- バリュエーション(総論)
本シリーズは、バリュエーション(valuation)の方法について解説していきます。
金融工学を駆使した評価技法の発達により、デリバティブ・証券化といった金融技術が発展してきました。また、会計制度にも時価会計が導入され、公正価値測定(fair value measurement)が当たり前のように行われています。現代ファイナンスを考える上で、バリュエーションの知見は必須といって過言ではありません。
バリュエーションで用いられている数学を理論的に研究すると非常に高度で難解なものとなります。しかし、実務的な観点からすれば、ある一定レベルの数学的知識があれば問題ないと筆者は考えています。数学的厳密性の研究は経済学などのファイナンスの研究者に委ねるとして、実務家として理解しておきたい数学的な内容に限定して解説していきます。また、平易なナレッジ情報の提供を目指すため、数学上の理論的証明も極力省きます。数学的厳密性の情報を入手したい方は、他書をご覧ください。
本シリーズは以下のとおり解説していきます。
1.ファイナンスの基本(現在価値・将来価値)
(A) 現在価値概念
ファイナンスにおいて、最も基本的な概念に、現在価値(present value)というものがあります。
よく用いられる最も簡単な説明が、「現在の100円と1年後の100円は等しくない」というものです。つまり、現在100円を持っていて、この100円を利息1%の定期預金に預け入れると、1年後には101円になって戻ってくるから、現在100円と将来の100円は一致せず、「現在の100円は将来の101円と等しい」ということになるのです。
さて、この考え方を現在の価格⇒将来の価格ではなく、将来の価格⇒現在の価格で考えたのが現在価値です。現在価値は、「将来の101円は現在の100円と等しい」というように考えます。取引価格にしろ、財務諸表の貸借対照表価額にしろ、「今いくら?」というのが結局は知りたいことなので、ファイナンスの世界では現在価値というのが頻繁に用いられます。なお、現在の価格⇒将来の価格で考える場合には、将来価値という概念が用いられます。
この現在価値の考え方を数式として表現するとどうなるでしょうか。
100円を利息1%の定期預金に預け入れると1年後の101円になるので、数式上で表現すると以下のようになります。
この等式を現在価値として表現すると、
これを代数により一般化すると以下のとおりとなります。
このとき、将来価値から現在価値を算定するときに、ファイナンスの世界では、「現在価値に割り引く(discount)」という表現をし、このときの(1+r)を割引率(disucount rate)、1/(1+r)をディスカウント・ファクター(discount factor)といいます。
(B) 現在価値の一般化
上記(A)では、1年後の将来価値を現在価値に割り引くものをモデル化しました。
これと同じ原理で、2年後を考えてみるとどうでしょうか。現在100円のものは、利息1%の定期預金に2年間預けた場合、1年後は101円、さらに1年後は、101円に利息1%が付加されて、102.01円となります。すなわち、現在100円のものは、2年後の102.01円と等しくなります。
これを代数で用いて表現すると、次のようになります。
この考え方は、3年後、4年後、5年後・・・n年後にも拡張して考えることができます。現在価値とn年後の将来価値との関係を一般化すると次のように表現できます。
(C) 複利計算とは
上記の例では、1年後に獲得した利息部分についても定期預金に預け続け、利息部分についても利息が付くというケースです。ファイナンスでは、これを「利息部分についても再投資(re-investment)している」と言います。このように、利息部分についても再投資していき、獲得した利息にも利息が発生することを、複利(compound interest)といいます。 一方で、利息部分を再投資せず、元本部分しか投資しないような場合は、単利(simple interest)といいます。ファイナンスでは、原則として複利を用いて計算します。
複利には、年複利、半年複利、四半期複利といった形で様々な複利があります。これは、年に利息部分が払われる回数に応じて存在し、年2回の利息支払いであれば半年複利の計算となります。
例えば、年率10%で年に1回支払いの場合と、年2回支払いの場合の複利計算を考えてみます。年1回支払いだと、1年後の将来価値は、次のように計算されます。
100×(1+0.1)=110
では、次に年2回だとどうでしょうか。この場合、年率10%ということは、半年後に5%部分を受取り、1年後に残りの5%を受取るという計算になります。半年後にもらった5%は再投資しますので、以下のように計算できます。
100×(1+0.05)×(1+0.05)=110.25
上記のように、年複利と半年複利では計算結果が異なります。
これを年m回複利に拡張するとどうなるでしょうか。mは1年間の利息支払回数、nは満期までの年数、rを年率として、次のように一般化できます。
さて、このmが(現実には365回しかないが、)極限まで拡大するとして、m→∞の極限計算をすると次のようになります。
上記にように、複利が連続していることを連続複利(continuous compounding)といい、バリュエーションではよく用いられるものです。なお、現実の回数は365日で、日複利で計算した結果と連続複利で計算した結果と連続複利の計算結果は次のとおりです(年率10%の場合)。
日複利 ⇒ 1.1051557・・・
連続複利 ⇒ 1.1051709・・・
誤差(0.0013%)
上記のとおり、小数点5ケタから差異が生じており、誤差も0.0013%であることから、ほとんど実務的な差異に影響はありません。
【数学の補論】
参考に極限計算を示しておきます。
aを定数とすると、次のようになります。
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