株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

ストック・オプションにおける公正発行と有利発行

現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。

4.公正発行と有利発行

株式もしくは新株予約権の発行パターンの1つに「公正発行」と「有利発行」があります。

 

公正発行とは、株式もしくは新株予約権を公正な価額で発行することをいいます。

一方、有利発行とは、特定の株主もしくは第三者に対して公正は発行価額と比較して特に低い価額で株式もしくは新株予約権を発行することをいいます。

 

公正発行で新株予約権を発行するか、有利発行で新株予約権を発行するかで会社法上の手続も異なってきます。

ただし、公正発行の場合と有利発行の場合の会社法上の手続の理解のためには、まずは「公開会社」と「非公開会社」の概念を理解する必要があります。

5.公開会社と非公開会社

会社法は、会社に合った区分(大会社や非大会社など)に応じた規定を行っており、その区分の一つとして「公開会社」と「非公開会社」があります。

 

公開会社とは、その発行する全部または一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定めを設けていない株式会社(会社法2条5号)をいいます。

一方、非公開会社とは、それ以外の会社をいいます。

 

要するに、株式の譲渡制限を設けていない会社を公開会社、設けている会社を非公開会社といいます。

そのため、「非上場会社」であっても、株式の譲渡制限を設けていない場合は、会社法上は「公開会社」にあたります。

ちなみにストック・オプション会計基準では、「公開企業」と「未公開企業」という概念を用いており、会社法上の「公開会社」と「非公開会社」とは異なる概念です。(ストック・オプション会計シリーズ参照)。

6.新株予約権における公正発行と有利発行

それでは、新株予約権を公正発行する場合と有利発行する場合、どのような手続が必要なのかを整理すると下記のとおりとなります。

 

<公正発行の場合>


公正発行の場合、公開会社では募集事項を取締役会で決定し(会社法第240条第1項)、非公開会社では原則として株主総会の特別決議によって決定しなければなりません(会社法第238条第2項、第309条第2項)。

 

これは、公開会社の場合、株式の譲渡は自由のため、株主の持分比率維持の利益は考えなくてよく、公正発行であれば株主の経済的利益は保護されており(希薄化効果などない)、取締役会による決定で問題ないためです。一方、非公開会社の場合、株主の経済的利益の保護(希薄化効果など)のみならず、既存株主の持分比率維持の利益も保護する必要性があるため、株主総会による決定を求めています。

 

<有利発行の場合>


有利発行の場合、非公開会社のみならず公開会社においても募集事項の決定について株主総会の特別決議が必要となります(会社法第238条第2項、第239条第1項、第240条第1項)。さらに取締役は株主総会において、有利は価額でその者を募集することを必要とする理由を説明しなければなりません(会社法238条第3項)。

 

これは、有利は価額での発行は希薄化効果など既存株主への影響があるため既存株主の経済的利益を保護する必要があるためです。

7.ストック・オプションにおける公正発行と有利発行

それでは、ストック・オプションは公正発行と有利発行についてどのように考えればよいのでしょうか。 有償発行と無償発行との関係のもと整理すると下記のとおりとなります。

 

<有償発行の場合>


有償発行のストック・オプションの場合、払込金額はストック・オプションの公正価値とし、当該払込金額と報酬債権とを相殺することとなるため、通常、「払込金額=公正価値相応の報酬債権」とするため「公正発行」として発行することになると考えられます。

  

<無償発行の場合>


無償発行のストック・オプションの場合、旧商法下においては、常に有利発行として株主総会の特別決議が必要でした。しかし、「2.会社法上の論理構成」でも述べましたが、会社法では「無償発行≠有利発行」であることが整理されたほか、理論的にもインセンティブ目的であり、既存株主からストック・オプションの付与対象者への経済的利益の移転は生じていないため、通常、無償発行であっても「有利発行」には該当しないと考える見解があります。

  

しかし、上場準備会社などの非上場会社等がストック・オプションを付与する場合には、公正は株価が形成されていないため、ストック・オプションの公正価値を適切に算定および説明することは困難なことから、無償発行のストック・オプションを発行する場合、実務上は「有利発行」として株主総会の特別決議をおこなう会社が多いと思われます。

 

また、グループ経営意識の強い会社の場合、子会社の経営者や従業員に対しても親会社株のストック・オプションを付与する場合などがありますが、子会社の経営者や従業員と親会社との間には直接の雇用関係が存在しないため、有償発行のストック・オプションの場合、報酬債権との相殺という論理構成が困難となってしまいます。そのため、この場合、有償発行のストック・オプションでも有利発行として保守的に発行手続を行う場合があります。

 

このようにストック・オプションを発行する場合、導入環境や様々な条件によってそれが公正発行なのか有利発行なのか法的な判断が必要なので事前に弁護士に確認する必要があります。

 

経済合理性を重視する会計理論からは、ストック・オプションの付与とう経済行為は、付与者と付与対象者の等価交換が通常であるため、公正発行でも有利発行でも会計処理に差異はありません。

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