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今日は、12月12日に自民党と公明党から公表された平成26年度税制改正大綱から税制改正の動向について解説します。なお、税制改正大綱は与党の党内決議によって発表されるものであり、すべてのものが国会において税制改正の議題に提出され、かつ、可決されることが決まっているわけではありません(ただし、現在は衆参のねじれも解消していますから、税制改正大綱において発表された内容が税制改正される可能性が高いと思って問題ないと思われます)。
BizBlogでは全事項についての解説は割愛し、BizBlogの読者の方々と当社のクライアントの皆様に興味のありそうな部分のみピックアップして解説していこうと思います。
原文は、以下のところにアップしておきますので、内容に興味のある方はご参考までにご覧ください。
Ⅰ.平成26年度税制改正の基本的な考え方
平成26年度税制改正の基本的な考え方は以下のとおりです。
・企業等の投資行動を加速させるような税制
・少子高齢化が急速に進む中での財政健全化を確保
・世代間や世代内での格差是正
・地方税体系の再構築(中長期的視点にたって)
なお、今年は例年の年末のみの税制改正大綱だけでなく、平成25年10月に「民間投資活性化等のために税制改正大綱」が公表されており(これを「秋の大綱」と呼んでいます)、それも含めて今回の税制改正大綱がつづられています。
(1)デフレ脱却・日本経済再生に向けた税制措置
- 復興特別法人税の1年前倒し廃止
- 民間投資と消費の拡大(民間ベンチャー投資促進税制の創設、事業再編促進税制の創設、所得拡大税制の拡充、大企業の50%交際費損金算入制度の導入など)
- 地域経済の活性化(中小企業投資促進税制の拡充)
- 国家戦略特区(積極的な税制面での支援9
(2)税制抜本改革の着実な実施
- 車体課税の見直し(自動車取得税の見直し、自動車税の見直し、
- 地方法人課税の偏在是正
- 給与所得控除の見直し(高額給与所得者の増税)
- 消費税の軽減税率(消費税10%時の導入)
(3)復興支援のための税制上の措置
- 復興特区制度の要件緩和など
(4)円滑・適正な納税のための環境整備
- 国税の猶予制度の見直し(地方税は国税の猶予制度の見直しや地方団体における実態等を踏まえ、引き続き検討)
- 税理士制度の見直し
- 行政不服審査制度の抜本的な見直し
- 復興特別所得税額を法人税から控除できる仕組みに改める
繰り返しになりますが、すべての事項については解説せず、BizBlogの読者の興味のありそうな部分、当社のクライアントに影響のある部分、筆者の個人的興味のある部分についてのみの解説となりますので、ご留意ください。
Ⅱ.秋の大綱での決定事項
秋の大綱については、すでに解説書などで内容を把握されている方もいらっしゃるかもしれませんが、平成26年度税制改正として織り込まれていくものなので、ここで簡単に解説していきます。
1.民間投資の活性化
(1)生産性の向上につながる設備投資を促進するための税制措置(生産性向上設備投資促進税制)の創設 p8~(新設)
【改正案】
産業競争力強化法の制定に伴い、青色申告書を提出する法人が、同法の施行の日から平成29年3月31日までの間に、生産等設備を構成する機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物及びソフトウエアで、同法に規定する生産性向上設備等に該当するもののうち、一定の規模以上のものの取得等をして、その生産性向上設備等を国内にあるその法人の事業の用に供した場合には、その取得価額の50%(建物及び構築物については、25%)の特別償却とその取得価額の4%(建物及び構築物については、2%)の税額控除との選択適用ができることとする。ただし、税額控除における控除税額は、当期の法人税額の20%を上限とする。
なお、産業競争力強化法の施行の日から平成28年3月31日までの間に取得等をしたものについては、その普通償却限度額との合計でその取得価額までの特別償却とその取得価額の5%(建物及び構築物については、3%)の税額控除との選択適用ができることとする(所得税についても同様とする。)。
【解説】
この税制を適用するためには、産業競争力強化法に規定する生産性向上設備等に対する投資でなければならず、「先端設備や生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」とされています。また、投資対象の固定資産によって対象となるものの用途・細目が限定列挙されており(機械装置においては限定なし)、かつ、先端性に係る要件を満たす必要があります。また、「一定規模以上」の要件も満たす必要がありますので、中小企業等では適用するには若干ハードルがあるかもしれません。
中小企業にのみ適用できるサーバーの取得なども使えそうだなと一瞬思いましたが、1台30万円以上でないといけないので、意外とそこまで高額にならない可能性の方が高く、これもちょっと使えないなと思いました。
(2)試験研究費税制の拡充・延長 p10~(延長・拡充)
【改正案】
青色申告書を提出する法人の増加試験研究費の額が比較試験研究費の額の5%を超え、かつ、試験研究費の額が基準試験研究費の額を超える場合には、増加試験研究費の額に30%(増加割合が30%未満の場合には、増加割合)を乗じて計算した金額の税額控除ができることとする。
【解説】
試験研究費税制の税額控除の措置を改組し、増加した部分についてさらに税額控除しやすいように改正されています。
2.中小企業対策
(1)生産性の向上につながる設備投資を促進するための税制措置(生産性向上設備投資促進税制)の創設 p12~(再掲)
生産性向上設備投資促進税において中小企業だけに一部対象資産の拡充と要件緩和が図られています。
(2)少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用期限を2年延長 p13~ (延長・拡充等)
中小企業でよく利用されている取得価額の損金算入特例の延長ですね。
3.民間企業等によるベンチャー投資等の促進
(1)ベンチャー投資を促進するための税制措置の創設 p13~(再掲)
【改正案】
産業競争力強化法の制定に伴い、青色申告書を提出する法人で、同法の施行の日から平成29年3月31日までの間に同法に規定する特定新事業開拓投資事業計画について認定を受けた投資事業有限責任組合に係る投資事業有限責任組合契約を締結しているもの(その投資事業有限責任組合の有限責任組合員に限り、その法人が適格機関投資家である場合にはその投資事業有限責任組合に対する出資予定額が2億円以上であるものに限る。)が、その認定を受けた日以後にその投資事業有限責任組合に出資をし、かつ、同日からその投資事業有限責任組合の存続期間終了の日までの期間内においてその特定新事業開拓投資事業計画に従ってその投資事業有限責任組合の組合財産となる同法に規定する新事業開拓事業者の株式等を取得した場合において、その株式等の価格の低落による損失に備えるため、その期間内の日を含む各事業年度終了の時において有するその株式等のその終了の時における帳簿価額の合計額の80%以下の金額を新事業開拓事業者投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できることとする。
この準備金は、その積み立てた事業年度の翌事業年度にその積み立てた金額の全額を取り崩して、益金算入する。
【解説】
ベンチャー投資を促進するための税制ですね。投資を受ける側の話ではなく投資家側の税制です。税制では、確定債務主義を原則としており、引当金計上による損金算入は一部の場合にのみ認められています。この税制では、損失準備金として積み立てた部分について損金算入を認めるものになります。
4.収益力の飛躍的な向上に向けた経営改革の促進
(1)事業再編を促進するための税制措置の創設 p14~(再掲)
【改正案】
産業競争力強化法の制定に伴い、青色申告書を提出する法人で同法の施行の日から平成29年3月31日までの間に同法に規定する特定事業再編計画について認定を受けたものが、積立期間内の日を含む各事業年度のその積立期間内において、その特定事業再編計画に記載された同法に規定する特定事業再編に係る同法に規定する特定会社の特定株式等の取得(その特定事業再編前の取得を除く。)をし、かつ、その特定株式等をその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合において、その特定株式等の価格の低落又は貸倒れによる損失に備えるため、その特定株式等の取得価額の70%以下の金額を特定事業再編投資損失準備金として積み立てたとき(その特定事業再編をした最初の事業年度において、その特定事業再編前からその最初の事業年度終了の日まで引き続き有しているその特定会社の特定株式等の帳簿価額の70%以下の金額を特定事業再編投資損失準備金として積み立てた場合を含む。)は、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できることとする。
この準備金は、その積立期間終了の日を含む事業年度の翌事業年度から5年間で、その積立期間終了の日を含む事業年度終了の時における準備金残高の均等額を取り崩して、益金算入する。
【解説】
こちらの税制についても投資家側の税制になります。ベンチャー投資が80%であるのに対し、事業再編では70%の準備金積立となっています。
5.設備投資につながる制度・規制面での環境整備への対応
(1)既存建物の耐震改修投資の促進のための税制措置の創設 p16~(新設)
【改正案】
青色申告書を提出する法人で、その有する耐震改修対象建築物につき平成27年3月31日までに建築物の耐震改修の促進に関する法律の規定による耐震診断結果の報告を行ったもの(その報告に関する命令又は必要な耐震改修に関する指示を受けたものを除く。)が、平成26年4月1日からその報告を行った日以後5年を経過する日までの間に、その耐震改修対象建築物の部分について行う耐震改修により取得し、又は建設したその耐震改修対象建築物の部分について、その取得価額の25%の特別償却ができることとする(所得税についても同様とする。)。
【解説】
耐震に対する投資の税制面での優遇措置。取得価額の25%の特別償却が認められています。
6.所得の拡大
(1)所得拡大促進税制の見直し p16~(延長・拡充)
【改正案】
雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除制度について、次の見直しを行った上、その適用期限を2年延長する(所得税についても同様とする。)。
(1)雇用者給与等支給増加割合の要件(現行5%以上)を次の適用年度の区分に応じ次のとおりとする。
① 平成27年4月1日前に開始する適用年度 2%以上
② 平成27年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する適用年度 3%以上
③ 平成28年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する適用年度 5%以上
(2)平均給与等支給額に係る要件について、平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算の基礎となる国内雇用者に対する給与等を継続雇用者に対する給与等に見直した上、平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を上回ること(現行 以上であること)とする。
【解説】
所得拡大促進税制について、条件緩和が図られています。
(1)では、今まで雇用者給与等支給増加割合が5%以上であったのを、年度を3段階に分け、2%、3%、5%と段階的にしています。①と②の段階では条件緩和されているので、給与や賞与を増やしている企業では適用しやすくなっていると思われます。
(2)では、比較される平均給与等支給額や比較平均給与等支給額の計算で、今まで国内雇用者と幅広に指定していたものを「継続雇用者に対する給与等」に限定しています。「継続雇用者に対する給与等」とは、適用年度及びその前年度において給与等の支給を受けた国内雇用者に対する給与等のうち、雇用保険法の一般被保険者に対する給与等をいいます(ただし、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の継続雇用制度に基づき雇用される者に対する給与等を除く)。
このため、雇用保険の被保険者に該当しない従業員に対する給与などは除かれることになり、平均給与等支給額や比較平均給与等支給額が小さくなることで使い勝手がよくなります。
Ⅲ.年末での決定事項
1.個人所得課税
(1)給与所得控除の見直し
【改正案】
給与所得控除の上限について、次のとおり漸次引き下げる。
現行 | 平成28年分の所得税 | 平成29年度以後の所得税 | |
上限額が適用される 給与収入 |
1,500万円 | 1,200万円 | 1,000万円 |
給与所得控除の 上限額 |
245万円 | 230万円 | 220万円 |
【解説】
個人課税の増税に関するものですね。給与所得控除額の上限決定だけでなく、その適用される給与収入も下げていくことで増税対象者の範囲が広がるようになっています。年収1000万円となると、大企業にお勤めの方など、影響を受ける範囲はそれなりになるのかなと思っております。
なお、これに合わせて、所得税だけでなく住民税もあがりますので留意が必要です。住民税は平成29年分、平成30年分と所得税の1年ズレで適用されます。
(2)金融・証券税制
- NISAについて、非課税口座の再開設又は非課税管理勘定の再設定をするための手続きが制定されました。
- 新株予約権の取り扱いで、発行法人から与えられた新株予約権等でその権利行使時に経済的な利益に対して課税されるものを、権利行使前にその新株予約権等の発行者に譲渡した場合には、当該譲渡の対価の額を、事業所得に係る総収入金額、給与等の収入金額、退職手当等の収入金額、一時所得に係る総収入金額又は雑所得に係る総収入金額とみなして課税することとなりました。
2.資産課税
大きな改正はありません。気になった部分を列挙していきます。
- 医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の創設 p59~
- 固定資産税・都市計画税・不動産取得税において、認定こども園、小規模保育事業、病児保育事業、子育て援助活動支援事業の用に供する不動産は非課税となる。
- 新築住宅に係る固定資産税の税額の減額措置の適用期限を2年延長。
- 新築の認定長期優良住宅に係る固定資産税の税額の減額措置の適用期限を2年延長。
- 新築の認定長期優良住宅に係る不動産取得税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長。
- 相続税法上のみなし相続財産として相続税の課税対象とするものの拡大と法定相続人1人当たり500万円までの非課税制度の対象拡大。
次回は、後編として法人課税、消費課税、国際課税について確認していきます。
以 上
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