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今日は、連日報道されているサーベラスの西武TOBの話題からです。
【記事要約】
・米投資会社サーベラスによる西武ホールディングスへのTOBが5月31日に終了し、発行済み株式数の3%強の応募があったことが分かった。サーベラスの保有比率は約36%に上昇。
・これで重要な議案に対する拒否権3分の1超を確保する。
・買付予定数の上限の44%には及ばなかった。
・両社は2005年に資本提携し、株式上場を目指して準備を進めてきたが、上場時期や価格、資本契約の見直しなどで意見が対立。
(2013年6月1日日経朝刊2面の記事要約)
サーベラスのTOB実施により連日報道されていた個の話題も、一旦の決着がつきましたので、簡単に整理してみようと思います。
TOBの概要については、当社のTOBデータベースにも記載してあります。
'13/03/12 [T.O.] S-H Japan.L.P./ [Sub.]西武ホールディングス
【リソース】IKP TOBデータベースより
今回のTOBの概要については、上記のデータベースをご覧いただくとして、今日のBizBlogでは、今回のTOBの全体的な流れと金融商品取引法における公開買付制度に触れつつ確認していこうと思います。
1.TOBまでの経緯
サーベラス・グループは、米国でも有数のエクイティファンドで、再生案件などで度々登場しています。日本の投資案件としては、あおぞら銀行の再建などでも有名ですね。
さて、西武ホールディングスは、2004年10月に有価証券報告書の虚偽記載により上場廃止となり、再建を図ることになりました。
この有価証券報告書の虚偽記載は、一般的に行われる財務諸表の虚偽記載ではなく、株主の状況に関する記述の虚偽で、当時は話題になりました。西武の再建にあたって、2006年に第三者割当増資に応募したのが、サーベラス、日興証券などでした。
この際に投資契約が締結されており、これが今回の問題の発端となったようです。
報道でも紹介されているとおり、東証の上場規定では、上場準備段階において特定の株主に有利な条件が付されている投資契約は解除するようなっており(株主間での不平等を解消するためのもので当然といえば当然ですね)、サーベラスとの投資契約についても解除する必要があったようです。
これを機に、投資家であるサーベラス側と西武HD側での思惑が交錯し、サーベラスの議決権比率を高める、、という流れになったようです。
2.TOBの実施
西武HDは非上場企業であるものの、株主数は約14,000人程度であり、有価証券報告書の提出義務者として有価証券報告書を提出しています。
このため、非上場企業であっても、有価証券報告書の提出義務のある発行者に対する株券等に対しては公開買付規制が適用されることになります(金融商品取引法27条の2①)。そして、サーベラスは、TOB実施前に32.44%の議決権を保有し、TOB実施により3分の1を超える議決権を所有する可能性があることから、いわゆる”3分の1ルール”に該当することになり、TOBの実施となりました(同条同項2号)。
これに対し、TOBを受ける対象者側では、意見表明報告書の提出が義務付けられています(金融商品取引法27条の10①)。意見表明報告書では、本公開買付けに対して、賛同・反対の意見表明を行うものであり、「反対」が表明されたときに、いわゆる「敵対的TOB」というものになります。
大半のTOBは賛同されているものですが、最近の事例では、昨年11月のPGMホールディングスのアコーディアゴルフに対するTOBが敵対的TOBとしてあります(失敗に終わっています)。
今回のTOBでは、西武HDが意見表明報告書において「反対」の意思表示を行っており、反対意見の理由としては以下の点をあげています。
【西武HD反対の理由】
・早期における良い形での株式上場の阻害
・企業価値棄損のおそれ
・サーベラス・グループと他の当社株主との間の情報の非対称性
・公開買付けに至る過程の不適切性及び公開買付けに伴い株主の皆様に混乱を惹起する可能性
詳細については、下記の意見表明報告書を読まれることを推奨しますが、個人的には3番目の「情報の非対称性」についての記述は面白いと思いました。
情報の非対称性の存在自体は否定しないものの、「市場価格」というある意味で最もわかりやすいメルクマークがない非上場会社における情報の非対称性について言及している当たりは、より研究していくと面白いかもしれませんね。市場価格があるとしても、市場価格はマイノリティ投資におけるバリュエーションですから、これがどこまでの有用性をもったメルクマークなのか、という議論はあるでしょう。
TOBにおける情報の非対称性は、MBO案件のときに多々取り上げられますね。
そして、この意見表明報告書には、意見表明のほか、「公開買付者に対する質問」を付すことが認められており(金融商品取引法27条の10②)、質問が付された場合には、公開買付者は「対質問回答報告書」を提出しなければならないとされています(同⑪)。
西武HDは今回の意見表明報告書では、以下の質問を付しています。
【西武HDの意見表明報告書に記載した質問事項】
①既に32.44%を保有しているにも関わらず、買い増しすることが「どうしてサーベラス・グループが当社に対して今後も継続的な支援と助言等を行う意思を有することを示すことになるのか」
②取締役の推薦(提案)は、サーベラスグループの推薦により現在既に就任されている2名を含め、全体で何栄を予定しているのか、また取締役の過半数以上となることを予定しているのか。
③上場時期をはじえ上場に関してどのように考えているのか。
④公開買付価格の1,400円はサーベラス・グループの考える現時点の当社の適正な株式価値という認識か。
これに対して、サーベラス側は、以下のように回答しています。
【サーベラスの対質問回答報告書に記載した回答】
①に対して
相当額の投資を伴う本公開買付けによる対象者の普通株式の買い増しは、対象者のコーポレート・ガバナンス及び内部統制を強化することにより、対象者の「中長期的」な企業価値を向上させたいと真摯に考えていることを示している。
②に対して
鋭意検討中(のちに平成25年4月5日公表の訂正届出書にて取締役8名の推薦を開示。任期中の1名を含めると取締役18名中9名となる取締役を占めることになる(サーベラス側はうち4名は独立した立場であることを記述)。
③に対して
可及的早期にかつ公正な条件により対象者の株式上場が達成されるように支援。
④に対して
上場廃止日における株価485円に対してプレミアム188.66%、虚偽記載を公表した日の株価1,081円に対してプレミアム29.51%、対象者の単元未満株主からの買取価格1,175円(公開買付届出書提出日の前日)に対してプレミアム19.15%であり、合理的な金額と判断。
基本的に同じ回答をしている感じでしょうか。②については対質問回答報告書では回答保留としていますが、その後の訂正届出書で取締役8名の推薦(任期1名を含めると18名中9名となる)を開示しています。
この対質問回答報告書から、3回の訂正報告書が提出されています。
◆平成25年4月5日の訂正届出書の内容
西武HDの意見表明報告書の反対を受けて、以下の点について訂正届出書を提出しています。
・買付株数の上限を13,672,700株(所有割合:4%)から41,800,000株(所有割合:12.23%)へ大幅に増加。
・買付期間の延長(30営業日⇒45営業日)
・買付株数の増加に伴い、買付価格が19,421百万円⇒58,870百万円へ増加。
・取締役8名の推薦の開示
西武HDに対する敵対姿勢を強め、過半数手前の44%までの買い増しを表明しました。確固たる経営権を掌握するには過半数が必要になりますが、過半数を超えてしまうと上場審査基準に抵触してしまうためそれは避けています(サーベラス自体も上場には賛成)。
◆平成25年5月16日の訂正届出書の内容
期限をさらに延長しています(45営業日⇒55営業日)。
◆平成25年5月17日の訂正届出書の内容
買付手数料の増額により、買付価格が58,870百万円⇒58,920百万円へ増加されています。
3.TOBの結果と今後
TOBは、公開買付期間の末日の翌日に、当該公開買付けに係る応募株券等の数その他内閣府令で定める事項を公告し、又は公表しなければならないとされています(金融商品取引法27条の13①)。このため買付期間終了の5月31日の翌営業日である6月3日に「公開買付報告書」が提出されています。
公開買付報告書によれば、結果、10,390,724株(所有割合:約3%)を取得することになったようです。
これを成功とするか、失敗とするかは判断が分かれるところかもしれませんが、上限を44%まで引き上げたにも関わらず36%程度までしか引き上げられなかった点につき、失敗と判断しています。
新聞の記事にもあるように、3分の1を超えたことから、会社法上の特別決議を否決することはできるため、会社の重要事項については反対することができるようになりました。
それでも、西武HDは上場申請中であり、組織再編や資本政策といった重要な経営事項を決定・実行するとは考えられませんので、3分の1超を保有したところで、実質的に支配力を高められた、、とまでは言えないようにも思えます。
また、株主総会の委任状争奪戦(プロキシーファイト)においても、西武グループ創業家の堤氏が企業側に賛同することを表明するとの報道もあり、取締役会の支配についてもナカナカ難しいところがあるように思えます。
ただ、長期的に見れば、上場した後に再度TOBを実施して支配権を獲得し、自分たちの思ったとおりの経営改革を行い企業価値を高めていく、、、という戦略も考えられなくもありませんし、3分の1超を取得したことはマイナスではないのかもしれません。
サーベラスがファンドである以上、どこかでexit(出口)戦略を持つ必要があり、西武HDほどの規模になれば、上場を出口戦略としている点は当初から変わらないと思います。そういった意味では、西武HD側もサーベラス側も上場が目標であることは一致しています。
ただ、サーベラスの想定する投資利回りに比して上場した際のバリューエーションが出ていない(出ない可能性がある)ことが最大の問題なのだと思います。
西武HDがサーベラスから資金調達したように、サーベラスもまた投資家から資金を調達しているわけで、彼らは彼らの投資家へのリターンを確実なものにしていく必要があるのでしょうから、彼らにとって出口価格というのは一定の範囲で譲れないものがあるのでしょう。
今後も西武HDとサーベラスの動向に注視していきたいですね。
以 上
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