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今日は、ユニクロを経営するファーストリテイリングの直近決算についてレビューしてみたいと思います。
【記事要約】
・ファーストリテイリングが11日発表した今8月通期連結決算は、売上高が13.2%増の9286億円、最終利益も31.8%増の716億円と大幅な増収増益となった。前期に4期ぶりの減益となった営業利益も8.7%増の1264億円とプラスに転じた。 売上高の7割近くを占める国内ユニクロ事業の売上高が3.3%増の6200億円だったほか、海外ユニクロ事業が63.4%増の1531億円と大幅に伸びた。
・平成25年8月期の業績予想では、アパレル企業では初の売上高1兆円超えとなる1兆560億円を掲げた。
ファストリの直近決算は、数字面では十分な増収増益だったと思いますが、7月には業績下方修正しており、また株式市場の印象では当時の予想PERから成長力に懸念とのことから、決算発表時は株が売り込まれる場面もありました。
■ 2012/07/09 ファストリ、13%営業増益 国内は下方修正
今日は、ファストリの直近決算を総括して、H&MやZARAを経営するINDITEXの決算状況と比較してみようと思います。
◆ファストリの直近決算状況について
ファストリの最近5カ年の財務状況と2013年8月期の連結業績予想は以下のとおりです。
2008.08期 | 2009.08期 | 2010.08期 | 2011.08期 | 2012.08期 | 2013.08(予) | |
---|---|---|---|---|---|---|
売上高 | 586,451 | 685,043 | 814,811 | 820,349 | 928,669 | 1,056,000 |
営業利益 | 87,493 | 108,639 | 132,378 | 116,365 | 126,450 | 143,500 |
当期純利益 | 43,529 | 49,797 | 61,681 | 54,354 | 71,654 | 84,500 |
売上営業利益率 | 14.92% | 15.86% | 16.25% | 14.18% | 13.62% | 13.59% |
売上当期純利益率 | 7.42% | 7.27% | 7.57% | 6.63% | 7.72% | 8.00% |
キャッシュフロー状況 | ||||||
営業活動CF | 87,336 | 59,214 | 88,623 | 57,158 | 127,643 | 予想なし |
投資活動CF | -15,421 | -34,273 | -23,389 | -26,643 | -35,313 | |
財務活動CF | -19,054 | -16,847 | -28,897 | -26,156 | -29,056 | |
現金及び現金同等物 | 169,888 | 169,574 | 200,462 | 202,104 | 266,020 |
上表をみると、売上も順調に伸びており、2008年8月期から2012年8月期までの5年間で売上は58%増加し、利益は44%増加しているようです。立派な成長率ですね。
そして、アパレルとしては初の1兆円売上が目前まで来ており、2013年8月期の連結業績予想でも1兆円の大台に乗りました。
2012年8月期は前期比13%増だったので、そのまま横スライドすれば売上高1兆円を達成することができそうです。
増収のためには既存店売上の底上げはもちろんですが、新規出店の可否が大きな分かれ道と言えます。
キャッシュ・フロー状況を見てみると、毎年十分なフリーキャッシュフローを生んでおり、また、現預金残高も2600億円と潤沢であることから、出店チャンスがあれば積極投資にも十分に耐えられる財政状況と言えるでしょう。
ファストリとしては、「ユニクロを、真のグローバルブランドにする」という目標をかかげ、そのためには、
・アジアで圧倒的なナンバーワンになる。
・世界中で大型店中心に年間200~300店舗を出店。
・グローバル旗艦店、グローバル繁盛店、メガストアを世界の主要都市に出店
・グローバルで、ファッションリーダーシップ、プライスリーダーシップをとる
の4つを戦略として掲げているようです。
◆「ファッションリーダーシップとプライスリーダーシップ」
ファストリ柳井会長の決算発表では、「ファッションリーダシップとプライスリーダーシップの両立」がうたわれています。
これは、低価格なファッション性のある商品を提供することですが、ユニクロの次の柱として注力していたg.u.(ジーユー)の成功結果から導き出されたもののようです。
2012年8月期ではジーユー事業で売上高580億円、営業利益50億円を達成しているようです(2011年8月期の詳細データは不明)。
決算説明会の質疑応答でも、柳井会長は次のように述べています。
『新規の市場に行くと、ファッションリーダーシップとプライスリーダーシップがないとうまくいかないと思います。プライスという意味は「安い」ということです。今、ジーユーが日本市場でブレイクしていますが、これは、プライスリーダーシップとファッションリーダーシップがあるからです。ユニクロは非常に多くの事をジーユーから学んでいます。その中で、特に新規プレーヤーであれば、プライスリーダーシップとファッションリーダーシップを取らないと成功しない、ということが解りました。』
また、次のようにも述べています。
『プライスリーダーシップをもう一回取り戻さないといけないと思っています。我々は、世界の競合と比べて幸いなことに、中国、インドネシア、バングラデシュ、ベトナム、カンボジア、インドといったアパレルの生産国に最も近い位置にいます。また、現地の業者と、バイヤーvsサプライヤーという関係ではなく、一緒に商品を作っています。それも高品質のものを作っています。我々ほどワンロットで大量の商品、それも大量に同一の素材を使うSPA はないです。だから、すごく良い品質の商品を、すごく低いプライスで作ることが可能なので、それをもっと活かしてプライスリーダーシップをとりたいと思っています。』
ここでいう「プライスリーダーシップ」というのは、ただ安売りするということではなく、大量に同一の素材を扱う世界唯一のSPA企業であることから裏打ちされたプライスリーダーシップ戦略であろうことが伺えます。
◆H&M、INDITEXとの比較
ファストリも中国・アジア展開で意識しているグローバルファストファッション代表のH&MとINDITEX(ZARAを展開している会社)とファストリの財務状況について比較してみましょう。
SPA大手としては、米国・GAP(売上1兆円超)もありますが、今日はとりあえずH&MとINDITEXの2社と比較してみます。
ファストリ(日) |
H&M(スウェーデン) |
INDITEX(スペイン) |
|
直近期(通期) | 2012.08 | 2011.11 | 2012.01 |
適用会計基準 | JP | IFRS | IFRS |
Revenue/売上高 |
928,669 百万円 |
109,999 millions SEK (1,344,188 百万円) |
13,792 millions € (1,460,159 百万円) |
Operating income/営業利益 |
126,450 百万円 |
20,379 millions SEK (249,031 百万円) |
2,559 millions € (270,921 百万円) |
売上高営業利益率 |
13.62% |
18.52% |
14.48% |
Net income/当期利益 ※ |
71,654 百万円 |
15,821 millions SEK (193,333 百万円) |
1,945 millions € (205,917 百万円) |
Comprehensive income/包括利益 ※ |
93,833 百万円 |
15,703 millions SEK (191,891 百万円) |
2,023 millions € (214,175 百万円) |
Total assets/資産総額 |
595,102 百万円 |
60,188 millions SEK (735,497 百万円) |
10,959 millions € (1,160,229 百万円) |
Stockholders' equity/株主資本 ※ |
394,892 百万円 |
44,104 millions SEK (538,951 百万円) |
7,455 millions € ( 789,261 百万円) |
Equity Ratio/自己資本比率 ※ |
66.36% |
73.28% |
68.03% |
ROE/株主資本利益率 ※ |
18.15% |
35.87% |
26.09% |
Cash flows from operating activities /営業活動によるキャッシュフロー |
127,643 百万円 |
17,420 millions SEK (212,872 百万円) |
2,408 millions € (254,935 百万円) |
Cash flows from investing activities /投資活動によるキャッシュフロー |
△35,313 百万円 |
△4,056 millions SEK (△49,564 百万円) |
△1,348 millions € (△142,713 百万円) |
Cash flows from financing activities /財務活動によるキャッシュフロー |
△29,056 百万円 |
△15,723 millions SEK (△192,135 百万円) |
△1,040 millions € (△110,105 百万円) |
Cash and cash equivalents /現金・現金同等物 |
266,020 百万円 |
14,319 millions SEK (174,978 百万円) |
3,466 millions € (366,945百万円) |
※SEKはスウェーデンクローナ。1SEK=12.22円換算。
※1€=105.87円換算。
こうみると、ファストリもやっと1兆円企業への仲間入りで、ZARAやH&Mと対等に戦える規模にまで成長してきたのがわかります。
ファストリのROEも日本企業の中では非常に高いものを誇っていますが、H&MやINDITEXはROEはその上をいく感じでしょうか。
欧州の債務危機と連動する形で中国の景気も減速し、世界経済はブレーキがかかりつつあります。
ご承知のとおり、日本もデフレ経済の中で厳しい経済環境にあり、米国も住宅着工件数が伸びてきており、個人のバランスシート改善とともに消費の回復が見込まれるものの、深刻な財政問題をかかえ、失業率も高いポジションから下がってきていません。
柳井会長は「こういう時期こそ『次の小売業』が望まれてくるのではないかと思っています。全世界で大成長した小売業というのは、好況の時期に生まれていません。不況の時期に大成長しています。(中略)」と決算発表会の質疑応答で回答されています。
ファストリが『次の小売業』の担い手になり得るのか、注視していきたいですね。
以 上
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