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今日は、本日の日経朝刊9面のミスミの記事からです。
【記事要約】
・金型部品の世界最大手、ミスミグループ本社は北米最大の金型部品メーカーを買収する。米国、カナダの有力メーカーを傘下に持つ持株会社を約2億ドル(約157億円)で米投資ファンドから買い取る。買収先企業はゼネラル・モーターズ(GM)など米自動車大手への供給の大半を担っており、ミスミは世界展開を一気に進める。
・買収するのは金型部品メーカーの米デイトンとカナダのジ・アンカー・ダンリー(AD)を傘下にもつコーネル・インダストリアル・ツール・コーポレーション。デイトンは北米で金型部品の最大手。ADも米国のほか欧州で高い販売シェアを握る。
・ミスミは金型部品の世界最大手だが、事業がアジアに偏り、米欧は手薄だった。
・日本のものづくりを支えてきた金型産業だが、最近は自動車メーカー内製を始めたほか中国メーカーが台頭し、劣勢に立たされている。だが、ミスミは金型の競争力を左右する部品が主力。40万点を超える品揃えや通常3日の短い納期をほぼ確実に守る経営モデルにより、アジアで圧倒的な強さをみせている。買収先でも今後、同様の手法を取り入れ、世界中の製造業との取引拡大を目指す。
・ミスミのビジネスモデルは独特だ。国内を中心に中小製造業約1千社と協力。顧客の金型メーカーからの発注をミスミが一括して受け、協力会社に生産を依頼する。同時に部品の標準化を徹底し、短期納期、低価格での部品供給を実現する。最近は、部品のベースとなる「半製品」をベトナム工場で集中生産し、低コスト生産に磨きをかけている。
・豊富な品ぞろえと短納期を実現する「金型業界のアマゾン・ドット・コム」との呼び名もある。
・商社を源流とするミスミはこれまで金型産業では異質の存在。しかし、国内製造業の技術に商社の視点で工夫を施した事業モデルが日本の反攻の原動力になりつつある。
(日本経済新聞2012年10月17日9面)
日本のものづくりの強さの源泉ともいえる部品業界ですが、今回は、金型部品世界最大手のミスミに焦点を当ててみます。
まずは、ミスミグループ本社のの業績推移について簡単に見てみます。
当社の財務データベース情報を、ミスミの過去10年間の主要な業績指標をグラフ化すると以下のとおりとなります。
<セグメントの内容>
・自動化事業
FA(ファクトリーオートメーション)等の生産システムの合理化・省力化で使用される自動機の標準部品、高精度の精密生産装置に利用される自動位置決めモジュール、光技術関連の各種実験研究機器の開発・提供と電子機器類のデジタル化に伴い変化する各種機器生産現場への部材などを開発・提供
・金型部品事業
主に自動車、電子・電機機器分野に金属塑性加工用プレス金型、プラスチック射成形金型に組み込む金型標準部品、精密金型部品の開発・提供
・エレクトロニクス事業
各種自動機や検査・測定器をつなぐ接続用ケーブル、ハーネス、コネクタ、計測・制御機器分野における機器本体や周辺機器などの開発・提供
リーマンショックから端を発した世界的金融危機のときは、一時的に業績が落ち込んでいますが、業績は右肩上がり、直近の2012年は4期ぶりの過去最高の売上・利益を更新しています。しかも営業利益率、ROEも高水準です。
さらに、下記のとおり30年スパンで見るとその成長の凄まじさがわかります。
この成長力の源泉は何か。
ミスミグループ本社のIR情報から読み解くと、その大きな要因の1つが、「ミスミQCTモデル」の確立にあるようです。
(以下、アニュアルレポート情報を参考にしている)。
「ミスミQCTモデル」とは、「商品標準化」によるカタログ販売と、たとえ商品1個からでもミクロンレベルの精密部品を標準3日で出荷する「短納期一個流し」によって、高品質(Quality)、低コスト(Cost)、短納期(Time)を実現するモデルです。
30年化~40年前、金型メーカーの設計者にとって、金型製造用部品を注文するのは、大変手間とコストのかかる仕事でした。1品ずつ図面を作成し、国内に散在する小規模の部品メーカーに注文を入れて、国内に散在する小規模の部品メーカーに注文を入れて、価格や納期を交渉、しかも、納期は2週間から4週間です。
そのような状況の中、ミスミは 、協力メーカーとして日本全国に散在する小規模部品メーカーとの関係を築き、その上でカタログ販売を開始しました。同時に部品1つでも通常は3日、早ければ1日で出荷する「短納期一個流し」を実現。
「商品標準化」と「短納期一個流し」という2つの考えからは、同一の生産過程においては矛盾するものですが、協力メーカーとして日本全国に散在する小規模部品メーカーとの関係を築くことにより、この2つの矛盾する競争優位性を両立することに成功しました。
ミスミのカタログで扱う商品は約200万タイプ、アイテム総数は数百垓(がい)にものぼります。これほど豊富な商品バリエーションを、在庫を最小限に抑えながら、どのようにして短納期で提供するのか。
そのカギは「半製品」にあります。
ミスミでは、制作過程の部品を「半製品」として在庫しておき、顧客の注文に応じて最終商品に仕上げています。
この「半製品」は、大規模な生産拠点であるベトナム工場などで大量生産されます。それによって、世界最適地生産や量産規模効果といったメリットが生み出される一方で、消費地の最終仕上げ工場では、小ロット生産、短納期、最小在庫といったメリットを生み出します。
こうした方法の組み合わせによって、たとえ部品1個でも、高品質(Quality)、低コスト(Cost)、短納期(Time)で提供できる「ミスミQCTモデル」が実現されています。
もともと部品商社であったミスミは、ミスミQCTモデルを確立するために、フロントエンド(販売・流通経路)とバックエンド(ものつくり)の両面で革新を実行しています。
フロントエンドの革新ため、受注機能や物流機能やそれに関連する情報システムの内製化へシフト。さらに、紙からインターネットへ電話・FAXからウェブへと変化のなか、ウェブカタログ「eカタログ」とウェブ受注システム「WOS(Web Order System)」を積極的に導入しました。現在では、ウェブ受注比率は国内では75%、海外では57%、まで拡大しています(2011年度)。
■ ミスミのeカタログサイト:http://jp.misumi-ec.com/
さらに、かつてメーカー機能を社内に持たなかったミスミですが、その商社専業40年の歴史に終止符を打ち、2005年4月に最大手の協力メーカーであった駿河精機を買収しました。グループ内に生産機能を持つことで、「創って、作って、売る」の一気通貫体制を構築、また内製化比率を高めてコスト改善を図るとともに、国際事業展開を支える体制を整えました。
こうして、商社としての一面と、部品メーカーとしての一面を兼ね備えたミスミ独自のビジネスモデル、「ミスミQCTモデル」が確立されました。
この点、モノの輸出入などを仲介するビジネスモデルから、資源やインフラ、原料、素材など商業の川上にシフトすることにより、成長を実現してきた日本の総合商社と似ていますね。
さらに、ミスミの強さの秘訣は、ビジネスモデル以外にも下記を実現する組織モデルにもあるようです。
ミスミのビジネスモデル、組織モデルについて、さらに知りたい方は、アニュアルレポート(2012)をご覧ください。
近年は舞台をグローバル市場へシフトし、海外において「ミスミQCTモデル」の確立に力を入れているようです。
今回の買収により、アジア中心であった海外展開が、米欧にも一気開けますから、世界で「ミスミQCTモデル」を展開できるのか、注目です。
日本のものづくりは最近、中国や韓国に押され気味なところがありますが、ミスミのビジネスモデル、組織モデルは日本の製造業の起死回生のための多くのヒントが隠されている気がします。
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