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2012年17日の日本経済新聞朝刊のエーザイの記事を取り上げます。
記事の要点は以下のとおり。
・エーザイは自社開発の抗てんかん薬「ペラパネル(一般名)」を欧州と米国で2012年に発売。欧米で審査当局に新薬として承認を申請、製造販売の承認を12年度中に得られる見通し。15年度までに世界で500億円程度を売上げる大型薬に育てたい考え。
・てんかんの患者数は日本で100万人、世界で5,000万人超といわれ、治療薬が求めれれている分野。エーザイはてんかんを重点疾患領域と位置付けている。
・エーザイは認知症薬「セリセプト」、抗潰瘍薬「パリエット」という世界で年間1,000億円以上を売上げる大型薬の特許が相次ぎ切れ、新たな大型薬の育成が不可欠。「ペラパネル」と昨夏に日本でも発売した抗ガン剤「ハラヴェン」と並ぶ今後の主力製品と並ぶ今後の主力製品に育てたい考え。
大手医薬品メーカーは、主力製品の特許切れ問題(2010年問題)に対処するため、新薬の開発およびM&Aなどを積極的に進めています。
2010年問題の解説は以下のとおりです(Wikipedia情報等を加工)。
医薬品は特許制度によって保護されており、各社が特許申請し、認められた範囲の構造の化合物は、一定期間(通常20年)の間他社が勝手に製造・販売してはならないとされています。しかしこの期間が経過した後は、他社が同じ構造の薬を販売することが許されます。特許切れの医薬品は、後発医薬品(ジェネリック医薬品)と呼ばれ、臨床試験の巨大なコストの負担がないため、先発品に比べて安く販売することが可能となります。 これにより後発医薬品に置き換われば、開発企業の収益を圧迫する事態になりかねないわけです。
1990年前後は大型医薬品(ブロックバスター)の開発が多く、これらが医薬品メーカーの収益を支えてきました。しかし、これらの医薬は2010年前後に特許切れするため、新薬の開発およびM&Aなどを積極的に進め次の収益源確保に大手医薬品メーカーは躍起になっています。
日本メーカーの2010年前後の主な特許切れは以下のとおりです(Wikipediaより)。
年 | 医薬品 | メーカー |
2008年 | プログラフ | アステラス製薬 |
2008年 | アムロジンルバスク | 大日本住友製薬、ファイザー(米) |
2008年 | オノン | 小野薬品工業 |
2008年 | ラジカット | 田辺三菱製薬 |
2009年 | タケプロン | 武田薬品工業 |
2009年 | ハルナール | アステラス製薬 |
2010年 | アリセプト | エーザイ |
2010年 | クラビット | 第一三共 |
2011年 | アクトス | 武田薬品工業 |
2012年 | ブロプロス | 武田薬品工業 |
2013年 | パリエット | エーザイ |
2010年問題は大手医薬品メーカー共通の問題だということがわかりますね。
それではまずは、国内大手の新薬メーカ-5社のステータスを俯瞰してみます。
武田薬品工業 | 大塚HD | 第一三共 | アステラス製薬 | エーザイ | |
直近売上高(百万円) | 1,419,385 |
1,090,212 (721,402) |
967,365 | 953,947 | 768,914 |
直近営業利益(百万円) | 367,084 |
117,502 (134,432) |
122,143 | 119,180 | 113,117 |
直近営業利益率(%) | 25.86 |
10.78 (18.63) |
12.63 | 12.49 | 14.71 |
個社財務DB | 武田薬品工業.pdf | 大塚HD.pdf | 第一三共.pdf | アステラス製薬.pdf | エーザイ.pdf |
比較財務DB | 医薬品大手5社比較.pdf | ||||
セグメント情報等 | 下記参照 | 下記参照 | 下記参照 | 下記参照 | 下記参照 |
※ 大塚HDのカッコ書部分は、医療関連事業部分
直近決算におけるセグメント別売上高・営業損益、所在地別売上高、製品種類別売上高の状況は以下のとおりです。(金額の単位は百万円)
■ 武田薬品工業
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・製品種類別売上高はN/A |
<セグメント内容>
「医療用医薬品事業」は、医療用医薬品を製造・販売しております。
「ヘルスケア事業」は、一般用医薬品、医薬部外品を製造・販売しております。
「その他事業」は試薬、臨床検査薬、化成品の製造・販売等を行っております。
■ 大塚HD
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<セグメント内容>
「医療関連事業」は、治療薬及び輸液等を生産及び販売しております。
「ニュートラシューティカルズ関連事業」は、機能性食品、医薬部外品及び栄養補助食品等を生産及び販売しております。
「消費者関連事業」は、ミネラルウォーター、嗜好性飲料及び食品等を生産及び販売しております。
「その他の事業」は、商品の保管、保管場所の提供のサービス提供、及び化学薬品及び液晶評価機器・分光分析機器他を生産及び販売しております。
<製品内容>
エビリファイ…大塚製薬が発見・開発し、世界60カ国・地域以上で承認されている非定型抗精神病薬の一つ(Wikipediaより)
■ 第一三共
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<セグメント内容>
「第一三共グループ」:当社及び第一三共INC.、第一三共ヨーロッパGmbHなどの子会社が医療用医薬品及び一般用医薬品の事業活動を展開しております。
「ランバクシーグループ」:ランバクシー・ラボラトリーズLtd.を中核とするランバクシーグループが、医療用医薬品及び一般用医薬品の事業活動を展開しております。
<製品内容>
オルメサルタンには、オルメテック、レザルタス、ベニカー、ベニカーHCT、エイゾール、トライベンゾール、オルメテックプラス、セビカー、セビカーHCTを含めております。
■ アステラス製薬
・セグメント別売上高・営業損益は医薬品事業の単一セグメントのため、N/A
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<製品内容>
プログラフ…免疫抑制剤の一種で、臓器移植または骨髄移植を行った患者の拒絶反応を抑制する薬剤である。また、アトピー性皮膚炎に対する塗布剤、関節リウマチ治療薬としても用いられる(Wikipediaより)。
■ エーザイ
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<セグメント内容>
医薬品事業を日本、米国、欧州、アジア(中国含む)、ニューマーケット(インド、中東等)の5リージョンで構成し、各リージョンの特性に応じた戦略を企画・推進しております。
<製品内容>
アリセプト…認知症薬の1つ
パリエット/アンシフェックス…抗潰瘍薬の1つ
ポイントは以下の点でしょうか。
① 売上高の大半を先進国(日本、欧州、米国)が占める
② 製品種類別売上高を見てみると、主力製品が売上高のかなり高いシェアを占めている
①に関して、新興国の所得水準、医療水準が向上することによって今後は、新興国の成長を取り込める余地があると考えることができます。
②に関して、少ない商品数で巨大な売り上げ・利益を得るという医薬品メーカーの収益構造がわかります。従って一つでも大型商品の特許が切れ、売り上げが失われれば、大きな打撃を受けることが予測できますね。
特に、エーザイの大型薬である「アリセプト」は2010年に、「パリエット」は2013年に特許が切れるため、新たな大型薬の育成が急務な状況になっています。
実際、エーザイの過去5年間の研究開発費(一般管理費および当期製造費用に含まれる総額)、のれん勘定、技術資産勘定の金額の推移をグラフ化してみました。
研究開発費は、リーマンショック期に少し落ち込んだものの5年前の水準から比較すると1.5倍以上の規模で推移しています。
また、2008年3月期に多額ののれんが計上されていますが、がん治療関連の強いMGIファーマ社(米国)株式取得によるものです。当該買収が功を奏してか、昨年には、主力製品として期待される抗がん剤「ハラヴェン」を発売しています。
M&Aも含め新たな大型薬の育成に多額の投資が行われてるようです。
最後にエーザイの株価推移を見てみます。
リーマンショック時の2008年3月期の最終赤字から脱却し、直近3期は増収増益傾向にあるにもかかわらず、株価が低迷しているのは新たな大型新薬の開発が不透明のためでしょう。株価の回復のためにも大型新薬の開発が期待されます。
(参考: エーザイの当社財務DB.pdf )
【エーザイ10年株価チャート(SBI証券より)】
2010年問題を乗り越えられるか今後のエーザイの新薬開発の動向に注目です。
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