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日本経済新聞2011年12月21日朝刊の特集記事”戦略分析”で「ファナック」が取り上げられていたので今日は産業用ロボット業界について取り上げてみます。
同記事を要約すると以下のとおり。
・山梨県忍野村の本社地区に産業用ロボットの新工場を稼働、これにより多関節ロボットの生産能力は従来の2倍
・新設した工場は、ロボットの鋳物部品を工作機械で削りだす「機械加工工場」と「組立工場」からなる。「機械加工工場」は作業者の姿がなく、人の腕型ロボットが黙々と工作機械に部品をセットするなど、ロボットがロボットを生産する体制を実現。鋳物部品を工作機械で削る工程などは24時間稼働で、強いコスト力を実現。
・研究開発部隊と工場がすぐそばにあることで、製品の開発スピードが高く、集中生産によるコスト低減効果を実現している
・今回の工場稼働は多関節ロボットの今年の世界需要の4割強を1社で供給できる強気の設備投資であり、円高で海外に移転する企業が増える一方、ファナックは工場の省力化追及によって国内生産にこだわり続けている
・産業用ロボット全体では安川電機、KUKAロボター(独)、ABB(スイス)と4社で首位争いをしており、ファナックの世界シェアは2割ほど
・11年に約14万台とされる世界需要は中国の需要拡大などを背景に14年には2割増の16万6,700台になると予測されている
・ライバルの安川電機は、中国・アジアでの生産を検討すると国内大手で初めて海外生産に乗り出す方針を明らかにしている
国内産業ロボット大手2社のうち、ファナックは国内に新工場を稼働させる一方、安川電機は、海外生産を検討するなど、戦略の差が表れてきています。同記事でも「成長市場を巡る両者の戦略が岐路を迎えており、成否が数年後のシェアに表れてくる可能性がある」と指摘しています。
産業用ロボット(主に多関節ロボット)の国内4社のステータスを見てみます。
ファナック | 安川電機 | 不二越 | 川崎重工業 | |
直近売上高(百万円) | 446,201 | 296,847 | 134,807 | 1,226,949 |
直近営業利益(百万円) | 189,757 | 12,874 | 8,245 | 42,628 |
直近営業利益率(%) | 42.53 | 4.34 | 6.12 | 3.47 |
自己資本比率(%) | 88.30 | 37.05 | 31.96 | 21.96 |
個社財務情報(当社財務DB) | ファナック.pdf | 安川電機.pdf | 不二越.pdf | 川崎重工業.pdf |
比較財務情報(当社財務DB) | 産業用ロボット国内大手4社比較.pdf | |||
ロボット事業の属するセグメント名 | 単一セグメントのため上記と同様 | ロボット | 機械工具事業(工具、工作機械、ロボット ) | 精密機械事業(油圧機器、産業用ロボット等の製造・販売) |
ロボット事業の属する 直近セグメント売上高(百万円) |
単一セグメントのため上記と同様(ただし、ロボット製品売上高は77,989) |
84,731 | 42,633 | 153,605 |
ロボット事業の属する 直近セグメント営業損益(百万円) |
単一セグメントのため上記と同様 | 1,673 | 537 | 22,318 |
ロボット事業の属する 直近セグメント営業損益率(%) |
単一セグメントのため上記と同様 | 1.97 | 1.25 | 14.52 |
ファナックの営業利益率と自己資本比率の高さが際立っています。
円高環境の中で営業利益率40%強と有利子負債ゼロとは、 驚異的な数値です。円高環境の中でも国内生産へのこだわりは、当該業績に裏打ちされた自身があるためだと同記事も指摘しています。
しかも、同社の有価証券報告書を見ると、従業員の平均年間給与金額は980万円(平均年齢42歳)という高さ(直近年度)。従業員の給与水準の高さを維持しつつ、この営業利益率は何とも驚きです。(ちなみに、安川電機の従業員の平均給与金額は716万円(平均年齢41.2歳))
また、ファナックのHPを見るとそのシンプルさにも驚きます。経営資源を高品質、高性能、低価格な商品の実現へ集中する同社の経営哲学が表れているような気がします。http://www.fanuc.co.jp/index.htm
さらに、大手2社のファナックと安川電機の製品構成および海外売上高構成を見てみます。
<ファナック> |
|
FA…CNCシステム(CNCおよびサーボモータ)、レーザ
ロボット…ロボット
ロボマシン…小型マシニングセンタ、電動射出成形機、ワイヤカット放電加工機、超精密5軸ナノ加工機
<安川電機> |
|
モーションコントロール…ACサーボモータ・制御装置、汎用インバータ、工作機械用AC主軸モータ・制御装置、など
ロボット…アーク溶接ロボット、スポット溶接ロボット、塗装ロボット、ハンドリングロボット、半導体・液晶製造装置用クリーン・真空搬送ロボットなど
システムエンジニアリング…鉄鋼プラント用電機システム、上下水道用電気計装システム、道路設備電源システム、港湾荷役用クレーン制御システムなど
情報…情報関連製品・サービス(オプトメカトロニクス・情報セキュリティ・情報マルチメディア)、情報処理ソフト及びサービス、OA機器など
両者とも自動化による生産システムに使用されるCNCシステムなどの制御装置関連(ファナック:FA、安川電機:モーションコントロール)事業と当該技術の応用製品であるロボット事業が中心という点は同じですが、ファナックはアジアに強く、安川電機は国内中心であることがわります。 (CNCなどは後半に解説)
特に、下記グラフとご覧いただければわかると思いますが、ファナックはアジアでの売上高が急速に伸びています。新興国の工場自動化が進んでいることが読み取れます。
最後にファナックの製品カテゴリー「FA(ファクトリーオートメーション)」、「ロボット」、「ロボマシン」の中身を簡単に見てみます。
■FA
FA部門は、自動化による生産システムに使用されるCNCシステム(CNCおよびサーボモーター)が主たる製品です。
CNC(Computerized Numerical Control)とは、工作機械、組立機などの動作を制御するサーボ機構を、コンピュータによってデジタル制御することをいいます。ファナックのCNC製品の実際の画像は以下のとおり(同社HPより )。
サーボモータとは、指示された命令通りに動くよう制御されたモータを意味します(サーボとはラテン語で奴隷を意味するServusが語源と言われている)。ファナックのサーボモーターの実際の画像は以下のとおり(同社HPより )。
ロボット部門、ロボマシン部門ともにCNCシステムの技術をベースとしたその応用商品の開発、製造、販売する部門です。
■ロボット
ゲンコツ・ロボットシリーズやバラ積みロボット、学習ロボットなどがあるようです。自動車向け多関節ロボットや液晶搬送用ロボットなどがこれに含まれます。実際の画像は以下のとおり(同社HPより )。
■ロボマシン
小型マシニングセンタ、電動射出成形機、ワイヤカット放電加工機、超精密5軸ナノ加工機がありますが、以下の写真はワイヤカット放電加工機です(同社HPより)
円高環境の中、国内生産を中心としながらも驚異の利益率と財務状況を実現するファナック。円高に苦しむ日本の製造業にとって打開するための多くのヒントが隠されている会社ですね。
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