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2011/11/28 トヨタ、BMWと環境分野で提携交渉 ディーゼル車戦略

現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。

今日は、先週の金曜日に引き続き、自動車の話題から。

 

日曜日の日経朝刊7面にトヨタがBMWと環境分野で提携交渉に入ったとの記事が出ておりました。

 

<2011年11月27日 日経朝刊7面>


BMWと環境分野で提携交渉 トヨタ、世界で陣営作り

 トヨタ自動車が低燃費ディーゼルエンジンの調達を軸に、独BMWと環境分野で広範に提携する見通しとなった。米フォード・モータとの提携に続き、欧州でもBMWと関係を深め、グローバルな陣営づくりを加速。開発コストを抑え、経営資源を重点分野に集中投下して競争力を高め、成長著しい独フォルクスワーゲン(VW)や韓国・現代自動車に対抗する。

 

<以下、略>


 <記事はここまで>

 

日本では、あまり印象が良くない「ディーゼル車」。石原都知事が記者会見で黒い粉をふって、「都民はこんなものを吸わされている」といってディーゼル・エンジンの排ガス規制を強化したのは記憶に新しいところです。

しかし、欧州では、ディーゼル車が『環境車』として非常に普及しています。ディーゼル・エンジンはガソリン・エンジンに比べて燃費効率が高く、また、二酸化炭素排出量が少ないこともあって欧州では幅広く受け入れられています。筆者は技術的な内容について詳しくありませんが、欧州で利用する軽油は日本で利用している軽油に比べて硫黄成分が少なく、排ガス日経の記事にも記載されいるとおり、欧州市場では「ディーゼル車が乗用車販売の6割程度を占める」状況となっています。

 

さて、こうした市場環境において、ハイブリッド車(HV車)に強みを持つトヨタは欧州にて販売台数で苦戦しているようです。日経の記事では、「トヨタは2010年にHV『プリウス』を日本で31万5千台、北米では14万4千台販売したが、欧州は約4万台にとどまった」ようです。 

トヨタの2010年3月期、2011年3月期の所在地別売上状況は以下のとおりです。

 

 

欧州での売上規模は小さいですね。一方で、アジア地域での販売が伸びているのがわかります。各地域の売上高が減少している中で、アジア地域のみ上昇していることがわかります。

 

◆大手各社の地域別売上状況

大手各社の各地域別の売上状況は以下のとおりです。

会社名 トヨタ自動車 ホンダ 日産自動車 スズキ マツダ 三菱自動車 
日本

6,966,929

(36.6%)

1,834,003

(20.5%)

2,115,749

(24.1%)

937,452
(35.9%)

541,490

(23.2%)

363,270

(19.9%)

北米

5,327,809

(28.0%)

3,941,505

(44.1%)

3,085,230

(35.2%)

184,028

(7.9%)

189,846

(10.4%)

欧州

1,920,416

(10.1%)

618,426

(6.9%)

1,311,415

(14.9%)

427,398

(18.4%)

490,030

(26.8%)

アジア

3,138,112

(16.5%)

1,594,058

(17.8%)

1,598,297

(18.2%)

366,483

(20.0%)

その他

1,640,422

(8.8%)

948,875

(10.7)

662,402

(7.6%)

1,670,764

(64.1%)

1,172,773

(50.4%)

418,866

(22.9%)

合計 18,993,688 8,936,867 8,773,093 2,608,217 2,325,689 1,828,497

※各社の2011年3月期有価証券報告書のセグメント情報より。

※単位は百万円。

※その他については、スズキは「インド」と「その他」の合算値、マツダは「米国」と「その他の合計値」、三菱自動車の「オセアニア」と「その他」の合計値となっています。

 

欧州の売上比率が高いのは、マツダと三菱自動車。

この2社はクリーンディーゼルの技術も高くなっていますマツダは、先月にも「マツダCX-5」というクリーンディーゼル車の販売を発表しています。三菱自動車は、以前から欧州売上が高いためディーゼル車の開発は行っており、人気車種「パジェロ」にもクリーンディーゼルを対応させています。

 

 

◆いすゞ自動車とトヨタ自動車のディーゼル開発の関係

トヨタ自動車のディーゼル・エンジンといえば、いすゞ自動車との関係を思い浮かべる人が多いかと思います。

トヨタ自動車は、環境車の開発を見据えて、ディーゼル・エンジンの開発は、日本で有数のディーゼル・エンジンを開発する、いすゞ自動車と2006年11月に業務・資本提携をしました。

 

いすゞとトヨタ自動車の業務・資本提携のリリース〔2006年11月〕

【リソース】いすゞ自動車のホームページより

 

いすゞ自動車は、トラックやバスの製造・販売の独立系メーカーです。ご承知のとおり、軽油税が安いことから、大量輸送者であるトラック・バスはディーゼル車であることがほとんど、このためいすゞは高いディーゼル・エンジンの開発力を持っています。これを小型ディーゼル・エンジンの開発に発展させようとするものです。

トヨタ自動車はトラック・バスの製造・販売をする日野自動車を子会社として保有しながらも、いすゞのディーゼル・エンジンの高い技術力に着目し、上記のような業務・資本提携を行いました。

この基本合意のあと、2007年8月には小型ディーゼルエンジンの開発及び生産・供給に関する業務提携について基本合意がなされました。

 

いすゞとトヨタの小型ディーゼルエンジンの共同開発のリリース〔2007年8月〕

【リソース】いすゞ自動車のホームページより

 

しかし、リーマン・ショック後、トヨタはディーゼル・エンジンの共同開発をあきらめ、2008年12月にはいすゞとの共同開発が凍結されていることが明らかになりました。

 

■いすゞとトヨタの共同開発、凍結の記事〔2008年12月〕

【リソース】http://www.47news.jp/CN/200812/CN2008121601000095.html

 

このときは、トヨタもHV車の開発に力を入れており、北米市場でプリウスの販売が好調だったこともあり、欧州市場でもHV車の販売が伸びると予想していた節があります。

しかし、想像以上にHV車が伸びず、今後も高推移でディーゼル車の需要があると予想されることから今回のBMWとの提携となったと考えられます。

 

筆者個人としては、再度いすゞとの共同開発をスタートさせ日本勢で頑張って欲しいとの思いもありますが、そもそも、いすゞとの共同開発においては、いすゞ側がイニシアチブをとることに拘っていたため最初からあまり提携がうまくいっていなかったとの情報も出ていました。

 

どちらにしても、日本市場ではほとんど普及していないディーゼル乗用車の現状をみると、投資回収が難しいことは容易に想像できます。

このため、いすゞとの再開発よりも、BMWからのエンジン調達の方が合理的であるとの判断が働いたものと考えられます。BMW側にとっても量産体制の確立により、量産効果が働くものと考えられ、双方にメリットがある提携と考えられます。

また、逆にトヨタからBMWへHVの技術提供も検討されており、これによりトヨタのHVの量産効果も高まると考えられます。

 

 

なお、いすゞ自動車の株価チャートです。トヨタとBMWの提携交渉のニュースはあまり関係なさそうですね。すでに、いすゞとトヨタの共同開発は凍結されているので、織り込み済みでしょうね。

 

 

いすゞ自動車は、アジアを中心に三菱商事と合弁会社を多数設立しており、新興国市場のマーケット開拓に奔走しています。

また、フォルクスワーゲン(独)と今年4月に業務・資本提携の交渉に入っていて、新たな世界展開を考えているようです。

VWは、スカニア(スウェーデン)、マン(独)などをグループ参加に収め、トラック事業を強化しています。一方で、スズキとの資本提携で亀裂が生じており、いすゞがこれをどう捉えるか注目されるところです。スズキはGM⇒VW⇒VWと決裂という道のりを辿っていますが、いすゞもGM⇒VWという流れです。

 

いすゞ自動車の最近4年の財務情報は以下のとおりです。

 

いすゞ自動車 個別財務情報

【リソース】IKP財務データベースより

 

 

◆今後の自動車業界

金曜日のBizblogでは電気自動車について掲載しましたが、今後は自動車各社での強みを生かした業務提携・資本提携がますます加速していく可能性があり、また、業界再編となっていく可能性が高いと思います。

EV車では、三菱自動車が日産・スズキにOEM供給する一方、日産・ルノーはダイムラー(独)との共同開発を発表しています。トヨタはテスラ(米)との共同開発をしており、日本国内に限って言えば、三菱自動車が先行しているようにも思えますが、新環境対応車としての注目も高く、EV車開発の競争が激化すると考えられます。

一方で、HV車ではトヨタが先行しており、マツダへの技術供与や16%ほど資本を持つ富士重工業(スバル)への技術供与もしています。EV車との比較をすれば、PHV(プラグインハイブリッド)という選択肢もあり、HV車の需要もまだまだ高いと考えられます。

日本ではさらに、"第3のエコカー”として、ガソリンエンジンの高性能化にマツダが先行。日産やスズキ、スバルなどもそれを追いかける展開となっています。

最後にディーゼル車。日本では恐らくクリーンディーゼルが今後普及する可能性は低いと思いますが、欧州では存在力があります。三菱自動車やマツダのように欧州売上比率が高い場合にはディーゼルエンジンに開発投資できますが、トヨタのように欧州での売上比率が比較的に小さい会社ではBMWとの提携等、それほど開発費をかけない戦略となるのでしょう。

以上

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