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雑貨・インテリアショップ「Francfranc」を展開する㈱バルスが、MBO(経営者による買収)の一環として実施したTOB(公開買付け)が先月10月19日成立しましたね。
そこで今日は、株式会社バルスのMBOについて、取り上げてみます。
まずは、バルスについて簡単に紹介してみます。
<株式会社バルスについて>
「Francfranc」などを展開する㈱バルスは、現在の代表取締役社長である高島郁夫氏が1990年7月に創業、1992年7月にFrancfrancの1号店を出店し、インテリア・雑貨小売販売事業を開始。当時の流通業界で主流だったプロダクト・アウト的な考え方からマーケット・インの発想に基づく、ビジネスモデルを構築、生活スペースを構成する消費財に自分の感性・感覚を求める顧客ニーズを捉え、着実に成長してきました。
2002年ジャスダックに上場、2006年には重複上場した東証2部から東証1部に指定替えするとともに、2009年1月期には売上高367億円、営業利益32億円、当期純利益16億円と過去最高益を達成し、インテリア・雑貨販売事業者として確固たる地位を築いています。
そんな、誰もが知っている「Francfranc」などのインテリアショップを展開するバルスですが、なぜMBOという意思決定をしたのでしょうか。
<MBO決定の経緯>
IR情報では、MBOの理由について、主として下記経営環境の状況を踏まえているようです。
・2010年1月期、2011年1月期と減収減益という結果に陥り、Francfrancのリ・ブランディングに取り組んでいる中、東日本大震災に伴う営業停止や電力不足による営業時間の短縮等の影響もあり、業績予想の下方修正を余儀なくされるなど、厳しい経営環境が続いていること
・中長期的な国内における成長余力も人口動態などを踏まえると徐々に縮小していくことが想定され、経営環境は一層厳しさを増すと見込まれる
・日本を除くアジア全体では非常に多くの人口を抱え、今後も人口ボーナスによる経済成長の継続が見込まれるともに、所得水準が急速に改善し、過去の日本と同様に今後は生活全般に「自分の感性・感覚を大切にしたい」という志向性を持つ消費者が増えていることが予想される。しかし、現在バルスのような都市型のライフスタイルをもとに編集・提案する店舗は存在しない。
こうした経営環境のもとに、競争優位を引き続き維持し、中長期的な安定的かつ持続的に企業価値を向上させているためには、具体的には、これまで以上に積極的にかつ急速に、国内においてこれまにで蓄積した店舗運営ノウハウを生かし成長著しいアジアを中心とした海外に店舗展開を行いグローバル化を推進していくと共に、海外における直接の商品調達の更なる増加や物流網の整備などのインフラ整備、グローバル展開を支える機動的な組織再編、また創業以来のDNAの継承し経営に携われる人材の育成などの抜本的な構造改革が急務であると考えた結果のようです。
しかし、上場を維持したまま、かかる構造改革を積極的かつ急速に展開した場合には、短期的であるにせよ、利益水準の低下やキャッシュ・フローの悪化などを伴うリスクがあり、株主に多大なる影響を与える可能性あるため、代表取締役社長である高島郁夫氏は、MBOという手段を選択したようです。
また、TOB・MBOスキームの概要は下記の通りとなっています。
<TOB・MBOスキーム概要>
公開買付者 |
株式会社TMコーポレーション(所在地:渋谷区、代表取締役:高島郁夫氏) 「TMコーポレーション」は「BALS INTERNATIONAL LIMITED(香港)」の完全子会社。 また、「BALS INTERNATIONAL LIMITED(香港)」は、高島郁夫氏の100%保有している会社「BLUE WEDGE LIMITED(香港)」の完全子会社(公開買付開始前時点)。 |
公開買付期間 |
2011年9月5日~2011年10月19日(30営業日) |
買付予定数 |
【買付下限】 107,201株(所有割合68.06%) 「65,995株:所有割合41.90%(経営株主や三菱商事など)」は、事前に公開買い付けに応募する旨の確約取得済み 【買付上限】 上限は設けず。 |
ファイナンス |
株式会社TMコーポレーションは、TOB成立を条件として、三井住友銀行やみずほ銀行から総額125億円を上限とした買収ローンを行う予定。 また、公開買付者株式会社TMコーポレーションは、完全親会社であるBALS INTERNATIONAL LIMITED(香港)を割当先とした45億円を限度とした第三者割当増資の実施を予定。当該45億円は、高島郁夫氏の100%保有している会社「BLUE WEDGE LIMITED(香港)」と三菱商事がBALS INTERNATIONAL LIMITED(香港)に出資。 |
TOB後のMBOの流れは下記のようになるのではないでしょうか。
・公開買付開始後、公開買付者「株式会社TMコーポレーション」の親会社「BALS INTERNATIONAL LIMITED(香港)」に三菱商事が出資。これにより「BALS INTERNATIONAL LIMITED(香港)」は高島郁夫氏の100%保有している会社「BLUE WEDGE LIMITED(香港)」と三菱商事の共同出資会社になる。
・TOB成立後は、種類株式を使ったスクイーズアウトを実施、バルスを「株式会社TMコーポレーション」の完全子会社にする。
・バルスと「株式会社TMコーポレーション」を合併により、バルスは、高島郁夫氏の100%保有している会社「BLUE WEDGE LIMITED(香港)」と三菱商事の共同出資会社である「BALS INTERNATIONAL LIMITED(香港)」の完全子会社となりMBO完了。
<TOB価格>
TOB価格は、公開買付者「株式会社TMコーポレーション」のフィナンシャル・アドバイザー(FA)のSMBC日興証券の株式価値算定結果を参考しつつ、バルスとの協議・交渉結果や、過去の事例などを総合的に勘案して、1株当たり100,000円に決定しています。
ちなみに、SMBC日興証券の株式価値算定結果の評価手法ごとの結果と最終TOB価格のプレミアムは下記のとおりです。
(評価手法ごとの評価結果)
市場株価法: |
66,952円~69,455円 |
類似上場会社比較法: |
84,491円~94,084円 |
DCF法: | 83,681円~101,587円 |
(プレミアム)
開示前日の東証終値に対するプレミアム | 47.5% |
過去1カ月間の東証終値の単純平均値に対するプレミアム |
49.5% |
過去3か月間の東証終値の単純平均値に対するプレミアム | 44.2% |
過去6か月間の東証終値の単純平均値に対するプレミアム | 35.2% |
また、バルスのフィナンシャル・アドバイザー(FA)のPwC(プライスウォーターハウスクーパース)による独立第三者機関としての、株式価値算定結果は下記のとおりです。
市場株価基準方式: |
66,425円~77,810円 |
DCF方式: |
93,429円~125,728円 |
2010年の開示前日の株価に対するプレミアムの平均が52%程度に様ですので、平均的水準ですね。
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-18840220101230
<TOBの結果>
買付予定数の下限107,201株を上回る139,381株(所有割合88.49%)の応募によりTOBは成功。
直近のバルスの財務状況を見てみます。
■ バルス_個社財務情報.pdf (当社財務DBより)
2009年1月期の過去最高益を境に、2011年1月期までに減収減益に加え、利益率も悪化していることがわかりますね。
しかも、直近年度の売上高(2011年1月期)の連結売上高333億円に対して、TOBのために資金調達が170億円(上記125億円と45億円の合計。ただし上限ベース)。相当ハイリスクであるとの見方もあるようです。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20111004-00000000-toyo-bus_all
ただ、売上規模に対しての資金調達額は大きいですが、EBITDAで見てみると
資金調達額170億円÷直近年度EBITDA26.5億円=6.4倍
となり、必ずしも過度なハイリスクでないとも考えることができます。
ともあれ、上記報道のとおり、雑貨・インテリアショップ業界のイノベーション企業である”Francfranc”が日本の証券市場を去っていくのは、実に残念でなりません。
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