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今日は、復興財源に関連して話題になっている政府保有株の売却に関する話題で、JT株を中心にお話します。
みなさん、ご承知のとおり、復興財源をどうするかという議論が現在活発に行われていますが、
政府は、政府保有株の売却と増税をミックスさせて復興財源(復興国債の償還財源)を確保しようとしています。
その政府保有株で注目されているのがJT株です。
JT(正確には日本たばこ産業株式会社、Japan Tabacco)は、旧専売公社で、中曽根内閣のときに国鉄(JR)、電電公社(NTT)と合わせて民営化されています。
この経緯があるため、政府は50%超(正確には50.01% 2011年3月期有価証券報告書より)を保有しており、
日本たばこ産業株式会社法で、JT成立時の株式総数の2分の1超、かつ、発行済み株式数の3分の1超を政府が保有することとなっており、現時点でギリギリの50%超となっているので、これ以上売却する場合には、法律改正しかないのです。
なお、参考に「日本たばこ産業会社法」の株式規定の第2条を掲載しておきます。
<日本たばこ産業会社法>
第二条 政府は、常時、日本たばこ産業株式会社(以下「会社」という。)の成立の時に政府に無償譲渡された会社の株式の総数の二分の一以上に当たる株式を保有していなければならない。
また、参考に、JT株の保有経緯など、財務相のこちらのページに記載があったので掲載します。
<JT株の保有経緯 財務省ホームページより>
昭和60年4月、日本たばこ産業株式会社法(以下「JT法」)により、旧日本専売公社が民営化され日本たばこ産業株式会社(JT)が発足し、同時に、同社の発行済株式総数200万株(資本金1,000億円、額面5万円)のすべてが政府の保有となった。
JT株式については、JT法上、政府にJT設立時の株式総数の2分の1以上かつ発行済株式総数の3分の1超の保有義務が課せられており、JT設立時の株式総数の2分の1に当たる株式(100万株)については財政投融資特別会計投資勘定が保有している(株式分割の実施(平成18年4月に1株を5株)により500万株となっている)。
残りの2分の1に当たる株式(100万株)については国債整理基金特別会計が保有し、売却益は国債償還財源に充てることとされた。
国債整理基金特別会計保有の株式については、JT設立時の経過措置(JT法附則第18条)として、政府に当分の間発行済株式総数の3分の2以上の保有義務が課せられていたことから、平成6年度39万4,276株、8年度27万2,390株を売却した(当該時点における売却(発行済株式総数の3分の1)が完了)。その後、平成14年4月にJT法の一部改正による経過措置の廃止に伴い、新たに33万3,334株が売却可能となり、平成15年度4万4,000株、16年度28万9,334株を売却してきた結果、同特別会計保有の株式はすべて売却が完了した(第44表参照)。
【リソース】財務省ホームページ http://www.mof.go.jp/national_property/reference/statistics/ichiran21/h21k.htm
さて、そんなJT株ですが、ちまたの報道では、全株売却できれば約2兆円規模の財源になると言われています。
ふと、この「2兆円の根拠はなんだろ」ということで、バリュエーション的な視点でいろいろと考察して(遊んで)みました。
報道の2兆円というのは、恐らく、現在の株式市場における株価水準をベースに考えていると思われます。
前日終値(平成23年10月13日の東京証券取引所終値)ベースだと、1株358,000円です。
政府保有株数は、平成23年3月期の有価証券報告書によれば、5,001,345株。
これで計算すると、5,001,345株 × 358,000円 = 1,790,481百万円(約1兆8千億円) です。
なので、ここらへんの数字を根拠に「約2兆円」という数字が出てきているのだと思います。
この計算方法は、マーケット・アプローチと呼ばれる方法で、現時点の市場価格を参照して評価する方法です(細かく言えば、市場株価法と呼ばれる手法)。
<JT株の6か月日足チャート>
【リソース】SBI証券株式チャート
株式評価の方法には、他にもいろいろあるのですが、インカム・アプローチと呼ばれる手法で、このJT株をざっくりと計算してみました。
インカム・アプローチとは、毎期発生すると期待される利益(もしくはキャッシュフロー)を割引率で現在価値まで割り引いて求める手法で、株式評価実務で定着している方法です。
インカム・アプローチにはDCF法とか、EVA還元法とか、様々な方法がありますが、今回はざっくりとEBITDAを用いた方法で計算してみます。
まず、JTの直近2011年3月期時点のEBITDAは、451,194百万円(IKP財務データベースより)。
割引率の加重平均資本コスト(WACC: Weighted Average Cost of Capital)を計算してみると以下のような感じ。
WACC=(有利子負債×負債コスト+株式時価総額×株主資本コスト)/(有利子負債合計+株式時価総額)
負債コストは、本来有利子負債ですが、単純に、負債合計と支払利息で計算すると次のようになります。
負債コスト = (支払利息17,059百万円/負債合計1,980,724百万円)×0.6 = 0.52%
※支払利息・負債合計は平成23年3月期有価証券報告書より)
※税率は40%と設定。
次に、株主資本コストですが、CAPM(Capital Asset Pricing Model )でこちらもざっくり計算してみます。
CAPMは、資本コスト=フリーレート+ベータ×株式市場リスクプレミアム が単純式です。なので、
株主資本コスト = 国債利回り1.02%+ベータ0.89×7% = 7.25%
※財務省ホームページに掲載されている10年物国債の利回りを参照。
※サイトMSNマネーに掲載されていたベータ値を参照(http://jp.moneycentral.msn.com/investor/quotes/quotes.aspx?symbol=JP:2914)
※株式リスクプレミアムは筆者の感覚から7%と設定。
これによりWACCを計算すると、次のようになります。
WACC =(1,980,724百万円×0.52%+3,005,000百万円×7.25%)/(1,980,724百万円+3,005,000百万円)
= 4.58%
※東京証券取引所の公表している時価総額は、政府保有分を含まない1,502,500百万円となっています。このため、今回の計算で簡単に倍にして計算してます。
ここで、成長率を見込まず、今期のEBITDAがそのまま継続すると仮定して、企業価値(企業価値=事業価値と前提)を算定すると次のようになります。
企業価値 = EBITDA 451,194百万円 / WACC 4.58% = 9,851,397百万円(約9兆8千億円)
よって、株式価値は、企業価値から負債価値を差し引いたものなので、
株式価値 = 企業価値 9,851,397百万円 - 負債合計 1,980,724百万円 = 7,600,673百万円
これにより、政府保有比率で考えると、3,801,096 百万円(3兆8千億円)となります。
すなわち、インカム・アプローチ的な考えだと、3兆8千億円で売却することもあり得るということです。
また、上記の計算では、EBITDAを用いて簡易の計算していますので、コントロール・プレミアムは含めてません。
支配権(もしくはシナジー効果)として、より高いCFが想定でき、もっと高い株式評価となる可能性もなくはありません。
ちなみに、コントロール・プレミアムとは「支配権獲得のためのプレミアム」です。
簡単に説明すれば、議決権比率が高くて経営の自由度のある株主と少数株主を比較した場合、議決権比率の高い大株主の方が経営自由度が高いと考えられると思いますが、その部分を支配権のプレミアムと呼んでいるのです。
ただ、インカム・アプローチの価格がすべてはありません。
インカム・アプローチは各パラメータ(例えば将来キャッシュ・フローやWACC)などで多くの「仮定」を置いているため、その妥当性もいろいろな考え方があります。
実際に、JTをM&Aで買収するとしたら、現在の株価水準にも引っ張られるでしょうから、現在株価358,000円にプレミアムが20%~50%ついたところで、2兆6千億円ぐらいがいいところでしょうか。
直近の事業セグメントをみると、たばこ税抜ベースで
たばこ事業(国内たばこ42%、海外たばこ42%)84%、食品14%、医療1%程度となっているので、
セグメントの売上割合をたばこ事業からシフトしていかないと成長戦略が描けないと考えられます。
何はともあれ、国の借金が増えている中で復興財源の確保は重要です。
JT株を今回の復興財源にするのか、マーケットの回復をまって、そのタイミングで売却するようにするのか、いろいろと考えることはできるかと思います。
個人的には、株式マーケットが回復した水準で、M&A的な売却方法がいいんじゃないかな、なんて思ったりはしてます。
葉たばこ農家の保護とか、たばこ小売店の保護とか政治的な要因が絡むので、ナカナカ難しいとは思いますが。
NTTグループだと大きすぎて民間企業で気軽にM&Aって感じではないような気がしますので、マーケットでちょこちょこ売るのがいいような気がしますが、JTぐらいの3兆とか4兆ぐらいだったら、ギリギリなんとかできないかなと思ったりします。
ちなみに、ソフトバンクがボーダフォンを買収したときが確か1兆7千億ぐらいで、LBOと証券化を駆使してファイナンスを乗り切ったのは記憶に新しいところ。
JTが積極的に行っている海外展開に強く、権益絡みのビジネスモデルに強い商社あたりが買収すると面白い展開をしそうな気がしないでもないですね。
※上記で実施した評価方法は、厳密な方法によるものではありません。あくまで筆者が簡易的な方法により計算したに過ぎず、厳密な方法によれば、より高いもしくはより低い株式評価となる可能性もあります。ちなみに、株式リスクプレミアムを7%から10%にすると2兆6千億円、4%に下げると6兆6千億円と大幅に評価額が上下します。
※株式評価の実務では、絶対的な唯一の方法を採用するのではなく、様々な方法によって算出された株式評価額を参考にして決定します。このため、上記で算出された評価額で必ずしも売買されるわけではありません。
以上
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